厚生労働省が厚生年金の立入検査の権限を拡大する法改正を検討しています。2020年の年金制度改革の関連法案に盛り込みたいという意向です。推計約40万に上るとみられる厚生年金のいわゆる「加入逃れ」についてより厳しい追及が行われるようになるのでしょうか。今回は厚生年金の加入要件と、厚労省の取り組みについて解説します。
厚生年金保険の加入が義務付けられている会社は「強制適用事業所」といい、厚生年金と健康保険、つまり社会保険に強制的に加入する必要があります。
①常時従業員を使用する株式会社や、特例有限会社などの法人の事業所
法人であれば、社長1人のみの会社でも厚生年金に加入する必要があります。
②常時5人以上の従業員を使用する個人事業所
旅館、飲食店、理容店などのサービス業は除きます。
③船員が乗り組む一定の条件を備えた汽船や漁船などの船舶
これらの事業所以外であっても、従業員(※)の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることにより適用事業所となることができます。
(※)ここでいう従業員とは、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの名称を問わず、労働時間及び労働日数が就業規則に定める一般社員の4分の3以上ある70歳未満の人のことです。
出典:年金Q&A|日本年金機構
厚生年金保険に加入している会社、工場、商店、船舶などの適用事業所に常時使用される70歳未満の方は、国籍や性別、年金の受給の有無にかかわらず、厚生年金保険の被保険者となります。
「常時使用される」とは、雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受けるという使用関係が常用的であることをいいます。試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められることとなります。
パートタイマーについても、常時雇用されている場合は、1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の3/4以上である方は被保険者とされます。
さらに、3/4未満であっても、別に定める要件を満たす場合は、被保険者となります。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
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短時間労働者は社会保険に加入できる?その条件について解説
従業員の立場だと分かりづらいのですが、厚生年金や健康保険いわゆる「社会保険」は、保険料を事業所側と従業員が折半することになっています。
つまり、従業員を雇うことによる事業所側の負担が非常に大きいため、あえて加入手続きをしない事業所が相当数あると言われています。
厚生年金保険法に基づく立入検査は、現在日本年金機構への届け出に基づき厚生年金が適用される事業所が主な対象となっています。
加入指導については、以下の段階を経て行われます。
①加入勧奨
年金事務所は国税庁などの情報を参考に加入促進対象事業所を選定し、まずは年金事務所への来所要請による加入指導を行います。
はじめはまず自主的な加入を促すわけです。
②加入指導
しかし、それでも自主的に可能しない場合は、個別訪問による加入指導を行います。
③立入検査・認定による加入手続き
最終的には年金事務所による立ち入り検査を行い、職権による強制加入を行うという流れになっています。
立入検査については、厚生年金保険法第100条において立入検査に対し受忍義務があり、検査を忌避したり、質問に対し答弁をしないことなどは許されないこととなっています。
立入検査については、以下の書類の提出が求められ、事業主の立ち合いが必要です。
(1) 労働者名簿、雇用契約書
(2) 源泉所得税領収証書、個人別所得税源泉徴収簿
(3) 賃金台帳、賃金支給明細書、給与振込明細書
(4) 出勤簿又はタイムカード
(5) 就業規則(労働協約)及び給与規則
検査忌避や必要書類の提出拒否については罰則規定もあり「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」こととされています。
現在検討されているのは、厚生年金の適用を届け出ていない事業所についても、年金事務所が実態を把握するための書面(賃金台帳や出勤記録)を提出させる強制力を持つよう権限を強化することです。
社会保険(厚生年金・健康保険)適用事業所にも関わらず加入逃れを行っており、年金事務所によって強制加入させられた場合は、事業所だけでなく、従業員の被保険者も未加入だった期間の保険料をまとめて支払わなければなりません。
年金事務所による未加入の追跡は年々厳しくなっており、今後もしかすると罰則も強化されるということも考えられるでしょう。
適用事業所である場合には、強制加入させられる前に自主的に社会保険への加入手続きを行うようにしましょう。
当コラム内では、厚生年金の加入条件についての記事を他にも公開しています。併せてぜひご一読ください。
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