短時間労働者への社会保険の適用は、ここ数年で2度ほど法律の改正がなされ適用範囲が拡大されました。
しかし、社会保険に加入できる条件を知っている人は少ないでしょう。
今回は社会保険に加入できる条件とそのメリット・デメリット、また現在適用範囲の拡大が議論されている点も併せて解説します。
そもそも「短時間労働者」とは、「1週間の所定労働時間または1ヵ月の所定労働日数が通常の労働者(=正社員)の4分の3以上」の労働者のことをいいます。
先に書いたように企業は、一定の条件で働く従業員を社会保険に加入させなければなりません。
正社員はもちろん、派遣社員、パート・アルバイトなどの短時間労働者も、一定の条件を満たすと健康保険や厚生年金保険の加入対象者となります。
以下の条件を満たすと短時間労働者であっても、健康保険・厚生年金保険に加入することになります。
勤務者が500人以下の事業所においても、下記に該当する場合、2017年4月より適用対象となりました。
扶養の範囲内で働きたいと考えている人は、社会保険に加入することに疑問を感じるかもしれません。しかし社会保険の加入にはメリットもあります。
短時間労働者が社会保険に加入するメリットには、主に次のようなものがあります。
・将来の年金受給額が増加する。
・障害を負ったときの年金の支給範囲が広くなる
・障害年金の対象より軽度の障害で一時金が支給される。
・遺族年金の支給対象遺族が広くなる。
・出産手当が支給される
社会保険は、とかく年金が注目されがちですがそれ以外にもさまざまな保障を受けることができます。
とりわけ、出産手当は賃金額の3分の2程度を受け取ることができるのでメリットは大きいといえます。
デメリットは、手取り賃金額が社会保険料の負担分だけ減少することが挙げられます。これは、現在配偶者の被扶養者となっていて社会保険料を一切負担していない場合があてはまります。
逆に被扶養者とならず国民年金保険に加入している場合や、親など配偶者以外の被扶養者となっていて国民年金保険に加入している場合であれば、会社の社会保険に加入することで社会保険料の負担額が少なくなる可能性もあります。
今までみてきたのは、2016年及び2017年の法改正に基づくものでした。
2017年の法改正では、「被保険者数が常時500人以下の法人・個人の事業所」で、「労使の合意」があった場合に短時間労働者への適用拡大が行われています。したがって、多くの中小企業では、短時間労働者を社会保険に加入させることはしていないでしょう。
しかし、現在短時間労働者に対する厚生年金の適用範囲のさらなる拡大が国会で議論されています。政府は2020年の法案提出を目標としており、法案が成立すれば最短で1年後の2021年にも施行される見込みです。
まず見直しを検討されているのが、月収要件です。
先に見たように、現在の月収要件は賃金月額が8.8万円でした。
しかし、これを2万円引き下げ、月額6.8万円にする方向で議論されています。
仮にこれが実現すると、年収では81.6万円(6.8万円×12)となり、いわゆる「106万の壁」といわれる現在の年収基準が大幅に下がることになります。
収入要件と共に、企業規模要件についても、従業員数を引き下げる方向で議論が進んでいます。
具体的な従業員数はまだ明らかになっていませんが、これまで適用対象外であった企業も幅広く含まれることになります。
また、企業規模要件そのものが撤廃される可能性もあります。そうなれば全ての企業が適用対象となります。
短時間労働者の社会保険に関する動きはここ数年で大きく変わりました。
そして、今後も短時間労働者への社会保険の適用は順次拡大される傾向にあり、その動向に注目する必要があります。それは、雇用側でも従業員がでも同じであり積極的に情報を収集する姿勢が大切です。