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役員報酬の決め方や改定する際の注意点をわかりやすく解説!

HUPRO 編集部
役員報酬の決め方や改定する際の注意点をわかりやすく解説!

役員報酬は、税務調査の際に必ずと言っていいほどみられる項目です。これは、会社の利益を最も調整しやすい項目の一つとされているため、勝手に会社が変えることで税金を逃れることが考えられるからです。そこで、今回は役員報酬の決め方や、改定する際の注意点について解説します。

役員報酬の決め方

まず、役員報酬の決め方について説明します。
役員報酬は会社の利益がどれくらいになるかを考え、法人税と役員報酬に係る所得税、住民税、社会保険料とのバランスを考えて決定します。
所得税と住民税を考慮することは多いのですが、社会保険については忘れがちです。社会保険は個人負担分15%、会社負担分15%となっているので、合計すると法人税、住民税等の合計金額とほぼ同額となるので安易に役員報酬を上げてしまうと結果として持出が多くなることも多くなります。

ただし、社会保険の中には厚生年金の掛金も含まれているので、あまりにも役員報酬を下げてしまうと将来の年金受給額が減ってしまいます。よって、老後の保証も考えながら役員報酬を決めることになるので、思ったよりも複雑なシミュレーションが必要となります。

役員報酬に関する法人税法の取扱い

そもそも、会社が支払う給与は、役員と従業員に対するものに分けることができます。税法上、従業員に対するものは、原則、全額が損金に算入できますが、役員に対するものは仕事の対価として相当な額を超える分は損金に算入することはできません。

これはすでに説明したように、役員に対する報酬を仕事の対価以上に際限なく損金に参入できてしまうと、役員報酬を増やすことで、会社の利益額を経営者が自由に調整することができてしまうからです。経営者に限らず、会社の役員は、会社の利益処分の方法についてその方針を決められる立場にあることから、自らの報酬額を過大に決定することで租税回避を図る恐れがあります。そのため、役員報酬は税務調査においても、脱税リスクの高い項目として重点的にチェックされることになります。

役員報酬に関する届出等

先ほどお話した通り、役員報酬を自由に変更できるとなると脱税に繋がるため、役員報酬を決定するには様々な事前の取り決めが必要となります。法人が役員に対して支給する給与の額のうち以下で詳しく説明する「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」に該当する金額については損金として取り扱うことになります。法人税法の役員給与の制度趣旨は、利益調整等の恣意性の排除にあります。役員報酬を会社の損金として節税の対象にするためには、次の要件のどれかに当てはめる必要があります。ただし、いずれかに該当するものであっても不相当に高額な部分の金額は経費として認められません。

①定期同額給与

定期同額給与というのは、1か月以内に支給される給与について、議事録で定めた金額を1年間同額で払い続ける制度を言います。定期同額給与を採用している場合は、特に税務署などに届出をする必要がありませんが、振込の形跡など、定額で支払っている証拠を揃えておくことが必要となります。また、毎月の源泉徴収も必ず行い、定額で支払っている証拠として源泉所得税を税務署に納める行為も忘れずに行うことが必要となります。

定期同額給与については、決算日後3か月以降は変更することが原則としてできず、変更した場合は低い方の役員報酬が払い続けられたとみなして損金に算入されることになります。よって、当初は100万円の役員報酬を毎月払っていたものの、ある月から80万円に意味もなく変更した場合は差額の20万円は損金に算入されなくなるため注意が必要です。

法人税法では、原則として①「事業年度開始の日から給与改定後の最初の支給時期の前日まで」及び②「給与改定前の最後の支給時期の翌日から当該事業年度終了の日まで」の間の各支給時期における支給額が同額であるものが、定期同額給与に該当すると規定されています。つまり、所定の改定であり、かつ改定前後で同額でありさえすれば、定期同額給与に該当して損金の額に算入することが可能です。

法人税法上有効と取り扱われる改定として、原則として役員給与の改定は、事業年度開始日から3月以内に行うべき、とされています。この、3月以内という期間は、会社法において役員の職務執行期間が今回の定時株主総会から次回の定時株主総会までとされていることを踏まえたものです。

企業は、事業年度開始日(4月1日)から3月後の6月中に定時株主総会を行うことが通例です。これは会社法で事業年度開始日から3月以内に定時株主総会を行うよう定められているからです。なお、中小企業の場合には、法人税の確定申告期限が原則として決算日から二か月以内とされていることもあって、定時株主総会を決算日から二か月以内としているところが大多数となっています。

定期同額給与に該当する場合、原則として役員給与の改定は事業年度開始日から3月以内に行なうべきとされていますが、後日生じた特殊事情によって、役員給与を改定せざるを得ない事情が生じることもあります。たとえば、経営上、業績悪化などの事由により、どうしても役員報酬の増減を図らざるを得ない場合などです。

この点を踏まえ、事業年度開始日から3月超の改定であっても、臨時改定事由と業績悪化改定事由に該当するものであれば、有効な改定として認められます。臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、役員の職務の重大な変更など、役員給与を改定せざるを得ないやむを得ない特殊事情を言います。

一方で、業績悪化改定事由とは、法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類するやむを得ない特殊事情を言います。これらの事由に基づく改定であれば、改定前に支給されている役員給与が同額であり、かつ改定後に支給される役員給与も同額であれば、定期同額給与として役員給与を損金の額に算入して損金として取り扱うことができます

臨時改定事由にしても業績悪化改定事由にしても、これらの事由に基づく役員報酬の改定が認められるためには、「改定せざるを得ない客観的なやむを得ない理由」が必要です。これらの改定事由はあくまでも例外であるので、安易な適用は認められません。もちろん、こうした例外を適用した場合には、税務調査では厳しいチェックがなされますので、慎重にその適用を判断しなければなりません。

②事前確定届出給与

定期同額給与は最も一般的に普及している役員報酬の払い方になりますが、これ以外に事前確定届出給与というものがあります。

事前確定届出給与は、事前に税務署に役員報酬の金額や払う時期を届出しておき、その届出通りに役員報酬を支払う方法となります。

例えば、非常勤の役員などで毎月役員報酬を払うことが現実的でない場合に定期同額給与としてしまうと不都合があるため、○○月と〇〇月に××円という風に事前に確定させておく場合があります。

あらかじめ税務署に届け出ることにより、損金算入が認められる事前確定届出給与については、所定の届出書(この届出書は「事前確定届出給与に関する届出書」と言います)を、納税地を所轄する税務署に提出する必要があります。所定の届出書は、役員給与の支給額を決定し、役員の職務執行が開始するとされる定時株主総会日から一月を経過する日までに提出しなければなりません。なお、新設法人の場合には、設立日以後2月を経過する日までに提出する必要があります。

ただし、事前確定届出給与は、毎年届出を提出しなければならないことや、見込んでいた利益が獲得できない場合にも支払う必要があることなどから実務上それほど浸透していないというのが事実です。社会保険には上限額というものがあるため、役員賞与を多めに貰って年間の社会保険を節約するという経営者も中にはいるようです。

この事前確定届出給与について、役員の職制上の地位の変更、役員の職務の重大な変更など、役員給与を改定せざるを得ないやむを得ない特殊事情がある場合、その特殊事情に係る役員について、新たに「確定額を支給する定め」を設けた場合には、その特殊事情が生じた日から1月以内に事前確定届出給与に関する届出書を提出することで、その役員に対して支給した役員給与を事前確定届出給与として損金の額に算入することができます。つまり、事前確定届出給与についても、一定の条件のもとであれば改定が認められています。ここでいう臨時改定事由とは、すでに①で説明した定期同額給与に係る臨時改定事由と同じです。

この事前確定届出給与に関する変更届出書の提出期限は、①臨時改定事由に基づく変更の場合には臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日、②業績悪化改定事由に基づく変更の場合には、業績悪化改定事由による内容の変更に関する株主総会等の決議をした日から1月を経過する日(変更前の確定給与の支給の日がその1月を経過する日前にある場合には、その支給日の前日)とされています。

③業績連動給与

この他、業績連動給与というものがあります。これは上場会社の一部で採用している方法となります。業績連動給与は利益に対する役員の取り分をあらかじめ明記しておき、実際に獲得した利益に応じて役員報酬を支払うという制度です。

平成28年度税制改正下においては、「利益の状況を示す指標」に基づき支給額が算定される給与について「利益連動給与」と定義のうえ損金算入の要件が定められていました。しかし、平成29年度税制改正によって、指標の選択肢が拡大されたことに伴い「業績連動給与」と名称が変更されました。

業績連動給与は、確かに利益が出れば出るほど役員報酬を増やせるため理にかなった制度とは言えますが、同族会社では使えないなど制約もあるため、ほとんど見かけることの無い制度とも言えます。

業績連動給与の損金算入には以下のような厳しい要件があります。

①算定方法が指標に基づく客観的なものであること
②金銭の場合は確定額、株式又は新株予約権の場合は確定数を限度とすること
③他の業務執行役員と同様の算定方法を用いること
④算定方法を有価証券報告書等で開示していること
⑤算定方法を適切な方法で決定していること
⑥一定期間までに交付又は交付される見込みであること
⑦損金経理をしていること

役員報酬を改定する際の注意点

役員報酬はむやみに改定すると損金として算入できないということをお話ししました。ですので、役員報酬を期中で変更することはかなり限定されているということを理解することが必要です。

国税庁による例示には次のようなものが挙げられています。

・株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合

・取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合

・業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

よく「業績が悪くなったから役員報酬を下げざるを得ないんだけど」という話を聞きますが、それだけの理由で簡単に役員報酬を下げてしまうと操作とみなされる可能性があります。よって、例示のように客観的な根拠を揃えたうえで正当な額を減額しなければなりません

実際に会社に手許現金がない場合は役員報酬を未払金で計上しておいて、大型の売掛金を回収した時などにまとめて払う等の実務が考えられるでしょう。

まとめ

役員報酬の決め方は色々ありますが、多くの中小企業では定期同額給与を採用していることでしょう。業績によって役員報酬が足かせにならないよう、期首時点での年度の予算の作りこみというのがとても大事になってきます。

この記事を書いたライター

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