会計事務所と言えば、一般的に記帳の代行がメインの税務業務という時代が長く続いていました。しかし近年は、顧問料を大きく引き下げられたり、契約を解除されたりする事務所も増えてきました。そこで求められるのが、コンサルティングのスキルです。今回は、会計事務所を経営する税理士、または勤務税理士にとってコンサルティング業務を行うことで顧問先にも大きなメリットがあることをお話していきます。
税理士の主な業務内容は以下の3つです。
税理士は税金のプロフェッショナルであるため、税務に関する仕事を受け持ちます。上記3つの税務業務は税理士の独占業務に該当し、税理士資格を保有するもの以外は携わることができません。
しかしながら、税理士の独占業務は事務作業のような単調作業にあたり、機械が得意とする分野です。そのためA I技術の完成度が高まる現代では、A Iやクラウド会計によって仕事が代替されると言われています。
単純な記帳作業を代行しているだけの事務所は、淘汰されてしまう時代がすぐそこまで来つつあります。税理士の顧問料相場は、企業規模も影響しますが、一般的に法人で5万円前後、個人では3万円前後になります。スタートアップ企業や中小企業の経営者は顧問料金が高いと感じることも多く、最低限の顧問委託業務に済ませ、自社で補う企業も少なくありません。
顧問先の経営者も毎月の顧問料を少しでも安くしてもらいたく、決算資料まで作成しているのだから毎月顧問料を支払う必要ないのでは?とか、決算料だけを支払いますというような契約が増加傾向にあります。
税理士にとって税理士資格は、独占業務以上にクライアントに信頼を提供しており、クライアントは安心して業務を任せられます。そこで、クライアントが所属する業界や、新しいテクノロジーにも精通した、コンサルティングスキルの高い税理士が、求められるようになっています。
すなわち、今後クライアントから税理士に求められている付加価値は、経営への助言を含めたコンサルティング業務なのです。
税理士は、経理にまつわる帳票を管理し、適切に会計帳簿をつけ、税務申告をすることがメインの業務です。
その一方、いわゆる経営コンサルタントは、会社の経営状態について俯瞰で見て分析し、企業の経営者に改善案を提言するような仕事です。これからは会計事務所においても、企業の経営コンサルタントも行えるように知識やスキルを身に付けた税理士を育成し、顧問先のニーズに応えられるようになれば業務内容が大幅に広がっていきます。
もともと企業と付き合いのある税理士であれば、経営者とも信頼関係が出来上がっている場合が多いと思いますので、コンサルティングも同時に行うことで、より企業の経営に欠かせないパートナーとなれるでしょう。また、新規顧客獲得の際にも、コンサルティングのできる税理士というのは、一般の税理士と差別化され、高めの報酬を設定できるかもしれません。
税理士は税務及び会計の専門知識を生かして、経営者が持つ課題を解決することが求められます。経営者はその事業フェーズによってあらゆる悩みを持ちます。
起業して1〜5年のシード期・アーリー期では、安定的に売上が上がっていない場合、事業の資金化や資金調達の方法、事業が軌道に乗り始めたグロース期・レイター期には中長期的な経営戦略、財務面の改善、株式公開(I P O)準備、M&A戦略など、税理士として経営者は税務会計面からコンサルティングサポートを求めています。
一方経営コンサルタントといえば、税務に特化してコンサルティングしているわけでなく、経営に関する幅広い知識を武器として経営者に価値を提供しています。経営者だけで、外部環境の変化に逐次対応し、組織を改善していくことは容易ではありません。
経営者は毎日自社について考え、経営の意思決定を行っていますが、それが原因で視野が狭くなり、俯瞰した意思決定が出来ないことがあります。広く業界知識を学んだコンサルタントを雇うことで、第三者な視点を提供してもらい、経営の近視眼を防ぐことに役立ちます。
では、税理士が経営に関するコンサルタントも簡単にできるかと言えば、そうとは限りません。経営コンサルタントには、次のような素質が求められるからです。
例えば、クライアントに腹を割って話をしてもらうコミュニケーション能力や、自分の仕入れた情報や分析に基づく最善案を経営者にわかりやすく提案するプレゼンテーション能力が必要です。いくら税務に関する知識があっても、上場を目指すような会社を扱うには、会計面からみた施策も提言しなければなりませんし、お客様のビジネスを理解するための幅広い知識も欠かせません。
近年はテクノロジーやバイオマス関連のビジネスをする会社も多いですが、これらの技術は日進月歩ですので、それに追いつき、さらに追い越すくらいの気概が必要になるでしょう。また、知識を入れる一方ではなく、それを経営者に自信をもって発信できるスキルを持っていないといけません。
コンサルタント業務をするにあたって、取らなければならない資格というのはありません。確かに、MBAや中小企業診断士の資格があれば越したことはありませんが、コンサルティングは彼らの独占業務ではないため、税理士がそのまま自称するのも可能です。
しかし、コンサルティングには先ほど述べたような知識やスキルが必ず重要になってきますので、結局は、これらの資格が取れるくらい勉強をすることになるでしょう。
企業を経営している方は、経営のプロです。
プロである経営者から経営コンサルタントとして認めてもらうためには、MBAの学位や中小企業診断士の資格を取る意気込みで勉強をする必要があります。
今、特に中小企業の経営者の中で話題となっているのは、M&A等ビジネスモデルを使った企業買収です。このM&Aの手法を習得することは、アメリカの大学院では経営学の授業で必須科目となっています。
M&Aでは、買収監査という項目があるのですが、買い手企業が買収先を調査する時は、事業価値を判断する能力が不可欠です。事業価値とは会社の値段ということなのですが、その会社の資産から算出することができます。帳簿に記載されている数字からある程度の概算をすることはでき、税理士ならばこの事業価値を算出することは可能です。
今、会社の値段がいくらぐらいかを把握したうえで、経営者に大体どのくらいの金額で買収すればいいのかをアドバイスすることができます。
ただ漠然と勉強するのではなく、自分が強みとなる分野を絞ってかけ合わせ、他のコンサルタントと差別化し、価値を生むことができるかが、コンサルタント開業のポイントとなります。
これまで、税理士を抱える会計事務所が、これからコンサルティング業務を始める際のポイントを述べてきました。一方、いわゆるBig4と呼ばれるような大手会計事務所であれば、すでに系列のコンサルティングファームがあり、そこでは多くの会計士や税理士が勤務しています。
M&A、事業承継を主に扱う部門や、企業のIPOを支援する部門、また事業再生や海外進出など、コンサルティングファームに求められる分野は数多くあります。もちろん、税務に関するアドバイザリーをする部門もありますので、税理士であれば、まずこのような大手会計事務所系列のコンサルティングファームに飛び込んでみるのも、今後のキャリアに有用でしょう。そこで数年働いてみて、自分が活躍できるような分野を見極めて、独立する税理士も多いのです。
Big4をはじめとするコンサルティングファームは、外資資本の会社が多いため、必然的にビジネス英語のスキルも求められますし、国際的な会計基準についての知識も必要になります。税理士の勉強とはまた違ったスキルを取得できるので、自分の税理士としての価値を上げるために良い経験となるでしょう。
今回は、会計事務所が行うコンサルティングについて説明してきました。税理士は合格までの平均所要期間は7年〜8年と言われるほど難関資格です。加えて、税理士資格は試験合格後に租税、又は会計に関する事務に従事した期間(いわゆる実務期間)が通算して2年以上あることが必要という条件をクリアしなければ、税理士を名乗ることができません。
それほど道のりが長い試験にもかかわらず、A I技術による税理士業界の参入や税理士事務所の増加による競争の激化によって、今までの税理士業務では時代に対応することが難しくなったと言えます。
参照:税理士の資格取得|日本税理士連合会HP
税理士がAI時代に対応するためには、弱みとも思える長い勉強期間を活かし、他の経営コンサルタントが決して対等することができない税務専門のコンサルティングという道を極めていくことが生き残る最善の選択です。
また、コンサルタントとは、相手が大企業なのか、また個人や中小企業なのかによっても、必要なスキルや働き方は異なってくるかもしれません。しかし、単なる記帳代行だけでは生き残りが難しくなってきた税理士や会計事務所にとって、コンサルティング業務は重要な仕事になってきたのではないでしょうか。