助成金を受給したくても支給要件を満たさない……そんな時に、実態とは異なる内容の書面を作成して提出し、助成金を受けようとすることは、実際の受給の有無にかかわらず不正受給に該当します。本記事では、助成金の不正受給について詳しく説明します。
「より多くの助成金を上手くもらう方法をお教えします」
資金繰りに悩む事業主に対し、このような甘い言葉で不正受給を促す経営コンサルタントが後を絶ちません。
本来なら助成金をもらえる実態がないのに、虚偽の申告を行う不正受給。それが明らかになった場合は不支給決定を行うことはもちろん、重いペナルティが課せられます。また、助成金を受け取っていなくても、虚偽の申請を行ったという事実が不正受給となります。
雇用関係助成金については平成31年度より罰則が強化され、従来よりも厳しい処分が科せられるようになりました。
不正受給の返還に際し、現状では、元本と延滞金を請求していますが、さらに違約金相当の金額として、不正受給額の20%が課されます。
不正受給が判明した場合、その後の助成金について申請ができなくなりますが、不支給となりますが、その期間が3年間から5年間に延長されました。
さらに、5年を経過しても、不正受給に係る返還金が納付されていない場合は、時効が完成している場合を除き、返還日まで不支給期間を延長されます。
また、不正受給を行った事業主の役員等(不正に関与した役員等に限る)が他の事業主の役員等となっている場合は、役員等となっている他の事業主に対しても、同期間(5年間)助成金が支給されません。
これまで不正受給については、実際に申請をした事業主に全責任があるとしてペナルティが課せられていました。
しかし、これでは不正についてアドバイスをしたコンサルタントがいる限り、騙されて不正受給をしてしまう事業主が後を絶ちません。
そこで、不正に関与した社会保険労務士、代理人又は訓練実施者についても連帯債務者として設定し、返還請求を行うこととしました。
また、不正に関与した社会保険労務士、代理人又は訓練実施者についても事業主と同様公表を行い、雇用関係助成金の申請についても事業主の不支給期間と同期間(5年間)、受理しないこと、さらに、不正に関与した訓練実施者が行った訓練については、事業主の不支給期間と同期間(5年間)助成金の支給対象としないように改正されています。
出典:雇用保険法施行規則等の一部を改正する省令(厚生労働五七)
2019年3月29日
さらに、不正受給については書類の偽造により交付金を詐取しようとする詐欺罪に該当し、刑法第246条において刑事告発の対象にもなりえます。
例えば、以下のような事例です。
①京都府にて、職業訓練を偽った行政書士が書類送検
これは人材育成を支援する制度に対して、元従業員2人の職業訓練を行ったと虚偽の申請を行い、不正に助成金を受け取ったとして、行政書士の男が逮捕されました。
参考:「キャリアアップ助成金」欲しさに元従業員の職業訓練を偽った男 書類送検 産経新聞
②栃木県にて、助成金詐取の疑いで社労士が告訴・送検
これは社会保険労務士男が、依頼を受けた企業が助成金を受け取るために有給休暇や労働時間状況が事実とはことなる賃金台帳を提出した上に、支給申請でも成果目標を達成したかのように賃金台帳をつくり、最終的に支給金を搾取した事案です。なお会社はこの事実を承知していなかったとのことでした。
参考:厚生労働省栃木労働局 社会保険労務士を詐欺の疑いで刑事告訴
仮に刑事罰を免れたとしても、不正受給を理由に支給決定を取り消された場合、事業主は都道府県労働局によって、
・事業主の名称、代表者氏名
・事業所の名称、所在地、概要
・不正受給の金額、内容
を公表されることになります。
例:東京労働局 不正受給による公表事案
ここで開示されている案件のうち、令和元年6月に公表された事案では以前から働いていた労働者を新規雇用労働者として虚偽の記載を行い、不正に助成金を受給しました。
また、不正受給に加担した行政書士や社労士も懲戒処分を受けます。
行政書士も社労士も合格率が低く難易度が高い試験。せっかく勉強して資格を取っても不正に手を染めたとあっては、最悪の場合失格処分として資格取り消しになることもあります。
(労働社会保険諸法令に基づく助成金の申請書の作成及び行政機関への提出等は、社労士法により社労士の業務と定められており、社労士又は社労士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、それらの業務を業として行ってはいけないことになっています)
・日本行政書士会連合会:綱紀事案の発表
・厚生労働省:社会保険労務士の懲戒処分事案
そうなれば、対外的な信用は失墜し、今後の運営は立ち行かなくなるでしょう。
年々様々な方法で行われている不正受給。実際どこで発覚するのでしょうか。
そういった事案が増えてきたことを受け、労働局による審査はますます厳しいものとなっています。中でも、事前連絡なしの実地調査や、従業員に対するアンケートや調査による発覚が多く見受けられます。また密告による発覚の事案も挙げられています。
悪いことをすればいつかはバレます。ただ少しでもお金が欲しかった、もらえたらラッキー!といった安易な考えで申請してしまうと、一生を棒に振ってしまう可能性もあります。
コストはかかっても申請の際は信頼できる社会保険労務士に委託するのが最善の策と言えるでしょう。
また、いつ調査がきても信頼できる資料を提出できるようにしておくことは、健全な経営にもつながるため、心がける必要があります。
冒頭でもお伝えしたように、助成金の不正受給が増えていることを受けペナルティが強化されました。審査のチェックも厳しくなっていますし、受給後は事前連絡無しの実地調査など、不正発覚のための取り締まりも行われています。
中小企業の会社運営の強い味方である助成金。返済不要でとても魅力的ですが、もともとは雇用保険から拠出されているお金です。
助成金の申請書の作成及び行政機関への提出などを、社労士の業務として行っている場合、クライアント企業の希望だからといって不正受給に加担することのないよう、適切な判断を行うようにしましょう。
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