AI(人工知能)が私達の生活の中に入り込むことによって、これからなくなるとされる専門職の1つが会計監査といわれています。本記事では、AIを監査業務に取り入れることによって、監査業務への影響がどうなるのかを見ていきたいと思います。
AIとは「Artificial Intelligence」(人工知能)の略です。どこまでを人工知能とするかという定義は、専門家の間でもまだ統一的な見解は定まっていません。
その歴史は意外と長く、学問分野としては1950年代にアメリカで登場しました。近年は技術の目覚ましい進歩により、 AI が活用されるシーンが増え、今後も様々な業界や分野で活躍が期待されています。
AI 技術の進歩とは、具体的には機械学習と深層学習(ディープラーニング)と呼ばれるものですが、それを後押ししたのは、通信技術やコンピュータの進化です。
機械学習を実施するためには大量のデータが必要になりますが 、Web や SNS・ スマートフォンなどの普及により、情報を解析する元となるデータ数が爆発的に増えました。
また、こうしたデータを分析・計算するためのコンピューター性能の向上も機械学習を後押ししています。
得られた情報を素早く計算処理することで、今までできていなかった画像・動画・音声の認識に加え、自動運転などの分野でも 、AI の技術の進歩が見られるようになっています。
AIの用途としては大きく3つに分けることができます。
・画像や音声の認識などによって、物事を識別する識別型の AI
・大量のデータを分析することで、未来の事象を予測する予測型の AI
・表現の生成、デザイン、行動の最適化によって、作業の自動化を実行する AI
会計監査への AI の導入については、データを識別する識別系AI、そしてデータを分析しリスクを算出する予測型の AI の活用があげられるでしょう。
公認会計士が行う仕事である会計監査は、決算書における数字の確認や再計算、実地棚卸しの立ち合いなどの「定型業務」と、経営者とのコミュニケーションや、数値におけるノイズの確認、会計リスクの特定などの「非定型業務」に大きく分けられます。
定型業務については、システム化することで監査の生産性が大きく向上する事は間違いありません。こうした照合や分析についてはAIが得意な分野という事で、まずはそこからAIを監査業務に活用しようと様々な取り組みがなされています。
また、財務諸表や仕訳・取引の分析にAIを活用していこうという動きにも注目です。
AIは、膨大なデータを統計的に処理することにも優れているため、過去の訂正事例を学習させ、リスクの高いクライアントを抽出したり、同法人やグループ内における一定のパターンを外れた取引や仕訳を異常値として検知させるようなアルゴリズムを組んで活用している大手会計事務所もあります
例えば、トーマツでは、独自開発の「Audit Analytics®」をこれらの分析に用いており、数値分析や予測モデリングなど様々なツール開発を行っています。
AIは、正確かつ短時間での計算処理や、膨大なデータの記憶や検索・チェックといった分野は得意ですが、直感的な処理を伴う状況の判断や、対人コミュニケーションについては現在のところ行うことができません。
こうしたことから、AIの活用はあくまで公認会計士が行っていた業務のリソースを一部負担してもらうことで、今まで人力ではサンプルチェックまでしか手が回らなかったようなのデータまでを含めより多く分析することで、不正を発見しやすくするといったような補完的な役割を期待しています。
AI についての最も大きな誤解としてあげられるのは、例えばいずれはドラえもんや鉄腕アトムのように、人間の知的処理をほとんど代行できると思われているところです。
確かに、AI研究の最終的な目的は、このような汎用人工知能で人間と同様の知能レベルを再現するといわれており、 2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点:コンピュータが人間の知性を超える点)が実現するといわれていますが、現状から見るとまだまだ道のりは遠いというのが現状のようです。
現段階のAI は、人間が作成したプログラム通りに機能するのみです。そのため、AI の活用にあたっては、AIが読み込める形式で、分析可能な数値データを作成しなくてはなりません。
多くの企業や組織には会計システムや販売管理システムが導入されており、監査に使う主なデータは、インプット段階からデジタル化が可能ですが、各企業でシステムが異なることがほとんどです。AI が読み込める形でデータを作成するという、今までとは異なる作業が生じます。
そして、会計監査には、まだまだアナログな処理があります。
例えば、段ボールの中に保管されている証憑を探したり、添付書類と精算データの内容を照合したり、添付書類は支払を証明するために必要なものが揃っているかを確認したり、といった地道な作業です。こうしたことを踏まえると、監査を全自動で AI で行うことは、まだまだ難しいと言えるでしょう。
むしろ、今まで行っていた単調で反復的な作業については、AIにできる限り分担することで、その空いたリソースを使って、より高度で正確な判断を下したり、多くの監査をこなしたりといった、公認会計士としての本来の仕事に、注力できる環境が整ってくるのではないでしょうか。
公認会計士とAIが協調して監査を行っていくことが、これからの公認会計士には求められてるともいえます。
AI に取って代わられるのではなく 、AI をどれだけ会計監査に効率的に活用できるかどうかが、これからの公認会計士に求められるスキルの一つとなるでしょう。