帳簿に記録した企業の経営状況や財産状況を、株主などに報告するための書類である財務諸表。税理士試験における財務諸表論は、同試験の簿記論とともに必須科目となっており、会計の具体的な処理方法の理論的な背景ともなります。本記事では、財務諸表論の理論についてその試験対策を解説します。
財務諸表論は、税理士試験の中で会計学に属する科目(簿記論及び財務諸表論)の2科目のうちのひとつです。
税理士試験に合格するためには、全11科目のうち5科目の合格が必要となりますが。そのうち簿記論と財務諸表論の2科目は必須科目となっており、必ず合格する必要があります。
財務諸表論の出題範囲は、国税庁WEBサイトによると以下の通りです。
会計原理、企業会計原則、企業会計の諸基準、会社法中計算等に関する規定、会社計算規則(ただし、特定の事業を行う会社についての特例を除く。)、財務諸表等の用語・様式及び作成方法に関する規則、連結財務諸表の用語・様式及び作成方法に関する規則 出典:国税庁WEBサイト 税理士試験 試験日程・試験科目について
税理士試験の財務諸表論では計算と理論が50点ずつ、合計100点の配点で出題されます。
理論問題については、空欄の穴埋めや正誤の選択問題のほかに記述もあり、理論を覚えた上での記述が求められるのがポイントです。
大問3題のうち、問1、問2は理論問題、問3は計算問題メインとなっており、理論と計算を交えて出題されます。
2019年の財務諸表論は、財務会計の概念フレームワーク、キャッシュ・フローの評価方式、総合問題(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書)などが出題されました。問題の構成は以下の通りです。
第一問(予想配点25点)
問1
(1)
①財務会計の概念フレームワーク(測定値)
➁混合属性会計と全面公正価値会計
⓷金融商品に関する会計基準(その他有価証券)
(2)財務会計の概念フレームワーク(将来キャッシュフローの予測)
(3)長期請負工事における損益配分
(4)売買有価証券の損益認識
(5)棚卸資産の評価
(6)事業投資を目的に保有する資産の評価に関する記述
問2
(1)キャッシュ・フローの評価方式
(2)期待値方式による評価額、最頻値方式による評価額
(3)引当金を期待値方式に基づき評価した場合の評価額
(4)期待値方式と最頻値方式に関する記述
第二問(予想配点25点)
問1
(1)損益計算書原則、貸借対照表原則
(2)原価会計
(3)その他有価証券の評価差額の処理に関する記述
問2
(1)ファイナンス・リース取引
(2)所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引
第三問(予想配点50点)
総合問題
問1 貸借対照表と損益計算書
問2 販売費及び一般管理費の明細
問3 キャッシュ・フロー計算書
出典:国税庁WEBサイト:令和元年度(第69回) 税理士試験問題、答案用紙及び正誤表
国税庁では、毎年の問題に加え、出題ポイントについても解説がされています。是非勉強の参考にしてみてください!
出典:国税庁WEBサイト:令和元年度(第69回)税理士試験出題のポイント
財務諸表論の理論の勉強については、勉強法を調べようとすると
『必ず暗記しなさい』もしくは『暗記は不要』という両極端のコメントを見ることがあります。
これが両方とも合格者ブログなどにあると、どうすればよいか混乱してしまいますよね。
結論から言うと、財務諸表論の理論で不合格になってしまう人は暗記量が足りません。確かにこの後の税法に比べると、財務諸表論は暗記の数も少なく全てを一字一句ピッタリ覚える必要はないかもしれません。しかし、それはあくまで税法と比較した上での話です。
例えば、「繰延税金資産の回収可能性の必要条件について述べなさい」 という問題があったとします。
解答としては
「繰延税金資産の回収可能性</span>は、繰延税金資産の計上の原因となった**将来減算一時差異の解消額**を吸収できるだけの十分な課税所得**が、差異解消時にあることが必要条件となる。そして、この判断基準としては次の三つが挙げられる。
・収益力に基づく課税所得の十分性
・タックスプランニングの存在
・将来加算一時差異の十分性」
となるわけですが、この太字になっている部分は「キーワード」と呼ばれ、自分の言葉で置き換えたり、要約してしまったりすると減点されてしまう語句です。
学習中に語句の意味を理解するために、説明を付け足したり、簡単な言葉に置き換えたりするのは問題ないのですが、理論問題の解答としては、このキーワードをそのまま書く必要があります。
つまり財務諸表論の理論暗記というのは、全てではないにしてもキーワードはそのまま覚えるのが得策なのです。
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合格者体験記を見ていると「財務諸表論は簡単でしたので。あまり勉強せずに合格できました」「ここまでは勉強しましたが、それ以上はしませんでした」といったようなことが書かれている場合があります。
もし税理士試験が、財務諸表論だけであればこのような、ある意味ヤマを張るような勉強法もおすすめできたかもしれません。
しかし、財務諸表論は、税理士試験の中では最初に受けることになることが多い試験であり、さらにこの後に続く税法の試験のほうが、はるかに難しく、勉強時間も必要であるということが、あらかじめわかっています。
つまり財務諸表論である意味手抜きをして合格したとしても、そのような勉強法では、後の科目を突破することができないので、結果的に楽しようとしたツケを払うということになるのです。
限りある時間を有効に活用して、効率よく学習し合格したい!というのは誰もが考えることですが、それは基礎の実力があってこそ。
一番初めに受験することになるであろう財務諸表論ですから、まずは確実に突破するためにまた勉強の仕方をしっかり身に付けるという意味でも、理論をおろそかにせず暗記に取り組む方が今後のためであると言えるでしょう。
財務諸表論は、他の科目に比べると合格率も高く、それがゆえに「簡単」とみなされてしまうことも少なくないですが、それはあくまで他の科目と比較した場合。
高いといっても合格率は15%から30%であり、ほとんどの人は不合格なのです。さらに、最近の傾向としては理論問題でも丸暗記が通用せず、複数の理論を組み合わせたような比較的難易度が高く、細かい知識までを問われるような問題も出題される傾向があります。
同じ必須科目である簿記論は計算問題のみですが、財務諸表論は計算問題と理論問題が半分ずつ出題されるため、両方をバランスよく勉強する必要があります。
とにかく基本を忠実に習得し、基本の論点を確実に押さえるようにしましょう。
最初に理論を勉強することになる「財務諸表論」。ここでしっかりと理論の抑え方を体得することができれば、この後トライする税法の勉強への布石となり、税理士試験の5科目合格への足がかりとなるでしょう。