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貸倒損失の債権放棄における内容証明の活用

HUPRO 編集部
貸倒損失の債権放棄における内容証明の活用

取引先に対する債権が回収できない場合「貸倒損失」を計上することで、かかる法人税を安く抑えることができます。しかし、貸倒損失の計上については税務調査でも厳しくチェックを受ける項目でもあります。本記事では、貸倒損失計上に伴う処理について解説します。

売掛金(債権)も税金の対象

税務の考え方では、請求権が確定した時点で収益が発生します。つまりA社に10万円の売掛金として請求を行った時点で、売上に対する税金を支払わなくてはならないのです。
しかし、この売上については、確実に振込なり手渡しなりでお金として入ってこない場合、売上高とはなりません。

取引先が倒産したりして支払い不能に陥った場合、回収で出来ない金額が確定した時点で「貸倒損失」を計上することで、その分の利益を減らし、税金を戻すことになります。

貸倒損失については、本来は支払うことができたにもかかわらず免除を行うと、債務者に対して実質的な利益供与を図ったと認められ、その免除額は税務上の貸倒損失には当たらないことになります。
恣意的に数字を作ることができないように、厳密に要件が定められており、税務調査でも念入りに調べられる項目の1つです。

貸倒損失を計上できる場合

法人の金銭債権について、貸倒損失を計上できる場合は以下の3つのケースです。

2-1.金銭債権が切り捨てられた場合

次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されます。

(1) 会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額

(2) 法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額

(3) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

つまり、取引先が倒産、または債務超過などで支払能力がないとみなされ、訴えにより一定額のみで切り捨てられた金額以外は切り捨てられた場合です。

2-2.金銭債権の全額が回収不能となった場合

債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。

ただし担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。なお、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません。

仮に、貸倒れがあったとしても、担保がある場合はそれを処分してからでないと損金処理することができないという決まりになっています。

2-3.一定期間取引停止後弁済がない場合等

次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対する売掛債権(貸付金などは含みません。)について、その売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができます。

(1) 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき (ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます。)
なお、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません。

(2) 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

出典:国税庁WEBサイト タックスアンサー No.5320 貸倒損失として処理できる場合

連絡が取れない時には必ず内容証明を

倒産をしたとしても、裁判所などの場所に出てきてくれれば良いのですが、いわゆる夜逃げなどをしてしまって所在不明になってしまう場合があります。

貸倒損失として処理をしても大丈夫かどうか、というのは明確に定義されておらず、個別の事例ごとに判断するというのが原則です。

事実上の貸倒れを証明するには、回収努力をたゆまず行った結果、どうにもならずに債権を放棄するという履歴を残す必要があります。

まずは、回収のために交渉した記録を取ります(電話を行った日時とその内容※不通時にはその旨も記載、メールの履歴、取締役会の会議録、請求書の送付や再発送履歴)

次に、内容証明郵便にて売掛金の請求を改めて行います。もし、受取人不在で返送されて来たら、その封を切らずに保管しておきます。

なぜ内容証明かというと、内容証明というのは送付履歴だけでなく、その内容についても郵便局が証明してくれる文書だからです。

内容証明については、郵便局に以下の書面を提出して送付します。

(1)内容文書(受取人へ送付するもの)
(2)(1)の謄本2通(差出人および郵便局が各1通ずつ保存するもの)
(3)差出人および受取人の住所氏名を記載した封筒
(4)内容証明の加算料金を含む郵便料金
(5)印鑑

内容証明郵便には、字数・行数の制限があり、その所定の様式で記載する必要があります。内容証明以外でもその様式に沿って記入すれば受付可能です。

差出人は、差し出した日から5年以内に限り、差出郵便局に保存されている謄本の閲覧を請求することができます。また、差出人は差し出した日から5年以内に限り、差出郵便局に謄本を提出して再度証明を受けることができます。

出典 郵便局WEBサイト 内容証明

また、「e内容証明」として、インターネットから送付できる方法もあります。

最後に、回収断念に至った経緯と、回収不能であるという立証のために以下の書面などを保管しておきます。

・裁判所等からの通知書、決定書等
・証明書等の外部書類等
・債務者の支払不能を証明する書面(決算書や担保不足を証明する不動産の謄本等)
・登記簿謄本
・不動産鑑定評価書等やその代表者の確定申告書等
・他の債権者や取引銀行、取引先等から事情を聴取した記録簿等
・売買契約書
・納品書
・請求書
・債権放棄通知書(配達証明付内容証明郵便で郵送)

これらの書類を常にすべて用意する必要はないかもしれませんが、「出来うる限りの努力を講じても回収できないということは、もう回収できないでしょう」と誰もが見て判断できる材料を確保しておくことが重要です。

出典:国税庁WEBサイト 法令等 第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ

貸し倒れの時に使う仕訳「貸倒償却」

貸倒れについては、勘定科目をいくつか使い分けることがあります。
事前に「貸倒引当金」を計上していた場合は資産科目に「貸倒引当金」を、費用科目については「貸倒償却」として計上するパターンが1つ。

もっと細分化させて、貸倒引当金を繰り入れたものを「貸倒引当金繰入」、貸倒引当金が余ったので、戻入するぶんを「貸倒引当金戻入」、そして引当金が足りずに使用したものを「貸倒損失」と分けて仕訳する場合もあります。

当コラム内では、貸倒についての記事を他にも公開しています。併せてぜひご一読ください。
参考記事:貸倒とは?貸倒引当金や貸倒損失の処理方法は?
参考記事:貸倒引当金と貸倒損失の違いについて

この記事を書いたライター

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