税理士と行政書士はともに国家資格ですが、業務内容や試験の難易度など、異なる点がたくさんあります。今回はこれからどちらの資格を目指そうか検討している人に向けてその違いを解説した上で、両方の資格を取得するダブルライセンスのメリットについてもご紹介します。
まずは、税理士と行政書士の仕事にどんな違いがあるのか見ていきましょう。
税理士事務所などで働く税理士の仕事を簡単に説明すると、クライアントから会計情報を受け取って仕訳などの処理を行って特定の形に整える税務業務、それらの情報の申告を代行する申告業務、正しい税申告ができているかや節税できる可能性があるかをチェックするコンサルティング業務などがあります。
また、税理士にしか認められていない独占業務を行うこともできます。独占業務には、税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つです。税理士の独占業務については、以下の記事で詳しく紹介しています。
行政書士は「書」という文字が入っている通り、官公庁に提出する書類などの作成や代行をする専門家です。行政書士にも独占業務が存在し、以下の3つが該当します。
独占業務以外にも、許認可申請や外国人の在留資格の取得など、仕事は多岐にわたります。
どちらも国家資格ではあるものの、その試験難易度には差があります。それぞれの難易度について、合格率と必要な勉強時間から分析します。
2023年までの5年間の平均合格率は税理士試験が19.16%、行政書士試験が11.90%でした。ただし、税理士試験の合格率については試験合格に必要な5科目うち1科目でも取得した人の割合であり、2023年の試験で5科目合格に至った人のみに絞ると、全体の1.8%のみです。
つまり、合格率の観点では税理士の方が試験難易度が高いといえます。
一般的に、税理士と行政書士の資格を取得するために必要な勉強時間は、それぞれ以下の時間が目安と言われています。
もちろん、勉強をスタートする時点での知識(法学部や経済学部出身かどうか)や、資格試験だけにどれだけ集中して時間を使えるのか(働きながらかどうか)にもよりますが、これだけの総学習時間を達成するには少なくとも、行政書士なら1年、税理士なら3年程度は
本腰を入れて勉強する必要があるでしょう。
よって、勉強時間で見ても税理士試験の方が難易度が高いといえるのです。
当然、総合的に見ても税理士の方が難易度が高いのです。
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によると、行政書士の平均年収は551.4万円、税理士の平均年収は746.7万円でした。どちらも平均に比べれば多い額ではあるものの、税理士の方がより高い金額であることが分かります。
この年収差が発生する要因としてこれまでご紹介した、独占業務のレベルおよび試験の難易度の違いがあります。これらの要素によって、税理士の希少性がより高くなっているため、その分年収にも反映されやすくなるというわけです。
出典:職業情報提供サイト jobtag
通常、どちらの資格も試験を受けて合格となりますが、特定の条件の対象者については、試験を受けずに合格の認定を得ることができます。それぞれの免除条件について、ご紹介します。
科目合格制を採用している税理士試験は、合格に必要な5科目のうち一部の科目が免除になる条件と、全ての科目が免除になる条件があります。
一部科目免除には、「大学院での学位取得による免除」、「10年以上の国税従事者」などの条件が該当します。全科目免除には、「弁護士や公認会計士の資格を取得している」という条件が該当します。税理士試験の免除制度について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
行政書士試験は科目合格制を採用していないものの、試験免除の条件が存在します。
具体的には、「税理士・公認会計士・弁護士・弁理士のいずれかの資格を有する」もしくは「公務員として17年以上(中卒の場合は20年以上)の金属経験がある」ことが条件です。
つまり、税理士は行政書士試験が免除される一方で行政書士は税理士試験が免除されないということです。このことから、敢えて「どっちが上か」を述べるのであれば、税理士といえます。
ここまでご紹介した、税理士と行政書士の違いを表でまとめましたので、改めてご参照ください。
項目 | 税理士 | 行政書士 |
---|---|---|
仕事内容 | 独占業務あり | 独占業務あり |
試験難易度 | 行政書士より高い | 税理士より低い |
平均年収 | 746.7万円 | 551.4万円 |
免除条件 | 行政書士試験が免除される | 税理士試験は免除されない |
担当できる独占業務の違いはあるものの、税理士は行政書士試験を免除されることから、税理士ならどちらの業務についても対応することができるのです。
今回ご紹介した税理士と行政書士の違いを踏まえて、どちらの資格を選ぶべきかご判断いただければと思うのですが、迷ってしまう場合は以下の観点で目指してみることをオススメします。
どちらも認知度の高い国家資格なので転職やキャリアアップに活かせますが、より幅が広がるのは税理士です。ですので、将来的にもキャリアに活かしたいという人については、税理士の取得を目指すのがよいでしょう。
なるべく早く資格を取得して就職や転職に活かしたいという方については、必要な勉強時間が少ない行政書士を目指しましょう。単純計算ですが、行政書士は税理士の4分の1の時間で取得が可能なので、時間を最優先に考えるのであれば行政書士を取得するべきです。
税理士と行政書士では、担当する業務が異なるため、向いている人の特徴も異なります。簡単に言えば、「細かい数字を扱うことに抵抗が無い人」は税理士、「コツコツと書類を作成するとに抵抗が無い人」は行政書士が向いています。
どちらかの資格のみを目指すのではなく、両方の資格を持つダブルライセンス保持者になるのも選択肢の一つです。
ダブルライセンスがおすすめな理由をご紹介します。
税理士と行政書士のそれぞれの仕事は、業務に重なる部分が多くあり、同時にお互いがお互いに補完し合う関係になっています。両者はまったくの無関係な仕事なわけではなく、税理士からすれば「行政書士の資格や経験がないとできない仕事」がありますし、行政書士からしても「税理士の資格や経験がないとできない仕事」があるので、仕事の幅を広げやすいというメリットを得られるでしょう。
例えば、相続に関する業務を例に挙げてみましょう。相続が発生した場合には、①相続財産や相続人を調査し、相続放棄などの意思確認等を行って円滑に相続が進むように財産の目録書や遺産分割協議書を作成する必要があります。そして、相続財産の配分が終われば、②各相続人に配分された財産について、相続税関係の調整を要することにもなるでしょう。
ここで重要なのが、前半部分①は行政書士しか仕事を受け持つことができないということ、そして、後半部分②は税理士しか扱えないということです。つまり、行政書士業務と税理士業務のどちらか一方しか取り扱っていない事務所では、相続に関する一連の顧客ニーズを充たすことができないのです。他方、行政書士と税理士のダブルライセンスで活躍している専門家であれば、相続開始から税務上のアフターケアまで、すべてを一連の流れで処理することができます。クライアントの要望を最大限迅速に達成できるので、集客に役立つでしょう。
税理士は主に税務を扱う仕事ですが、財務諸表論や簿記論等のテクニカルな税務処理はさておき、その前提には税法関連の知識が求められます。選択科目などにおいて相続税法等の法律に習熟しなければいけないことからも、税理士にはある程度法的素養が求められます。
一方で行政書士は、法律関係の書類作成や申請業務を主たる仕事として活躍する専門職です。民事法や行政法に関する知識に精通していなければ行政書士は務まりません。つまり、行政書士も法的素養が当然に求められるということです。
民事法、刑事法、行政法と、それぞれの法分野において必要とされる詳細な知識に違いはありますが、法律解釈能力や要件論などの前提能力はすべての法領域において共通して求められるものです。つまり、税理士も行政書士も法的素養という面において共通していることから、税理士が行政書士として職務をこなすのは難しいことではありません。
税理士と行政書士では業務が重複したり連続する分野がありますが、同時に、税理士でなければできない仕事、行政書士でなければできない仕事も明確に棲み分けられています。
両者の具体的な業務内容については項を改めて紹介しますが、ここでのポイントは事務所経営の多角化によって収益増加を狙えたり、経営上のリスクマネジメントを図れるという点です。
そもそも、ダブルライセンスで仕事をする以上、それぞれの資格のみで集客を狙えるために、経営基盤はしっかりします。さらに、例えば税理士は決算期などに仕事が忙しくなる傾向がありますが、それ以外は比較的業務は暇になります。そのような税理士稼業の狭間のタイミングでしっかりと行政書士として仕事を集めることができれば、事務所経営も安定するでしょう。
税理士も行政書士も、それぞれ専権事項として扱える業務範囲が異なります。したがって、お互いがお互いの足りない部分を補うことで、よりクライアントの要望を実現できます。
行政書士の仕事は実に多岐に渡りますが、税理士業務との連続性という観点からは、以下の業務が挙げられます。
これらの業務は行政書士の資格と実務知識がないと対応が難しいですから、ダブルライセンスで活躍していない税理士事務所で顧客からこの類の相談があった場合には、提携している行政書士などに業務を依頼しているのが実際のところです。
しかし、ダブルライセンスのもとで仕事をしている税理士であれば、この種の業務を自分の会計事務所で完結できます。上述の通り、相続関連業務は最初から最後までサポート可能です。営業にあたって行政の許認可が必要な業務を代行してしまえば、そのまま会社設立後の当該法人の税務サポートに関する継続契約の獲得にも役立つでしょう。
このように、税理士が行政書士の資格でも仕事を受任することができれば、中長期的な仕事の獲得にも繋がるのです。
逆に、行政書士の側からすると、所得税の確定申告や法人税の申告と言った業務は税理士の独占業務ですから、これらの業務にまで手を広げたい場合には、本来であれば税理士との提携が必要になります。
しかし、ダブルライセンスのもとで仕事をしている行政書士であれば、法律相談の流れで税務コンサルティング業務なども提供できるので、より顧客の経営に資することができるでしょう。
注意しなければいけないのが、税理士資格を取得している人が、明日から急に行政書士としての仕事ができるわけではない、という点です。税理士資格取得によって行政書士試験は免除されますが、行政書士として仕事をするには、行政書士会への登録作業等が求められるからです。
専門性の高い行政書士業を営むためには、日本行政書士連合会の行政書士名簿に会員登録をしなければいけません。各都道府県の行政書士会に申請をする必要があるので、1ヶ月程度の時間を要します。
登録する自治体によって費用は異なりますが、登録費用や入会金などをあわせると約30万円程度を要します。
行政書士登録をすませた後は、税理士法人とは別に行政書士法人や行政書士事務所を開所しなければいけません。税理士法人の看板だけでは行政書士業務を遂行できないのでご注意ください。
税理士や行政書士を目指すにあたって、転職活動に活かしたいという動機を持つ人も多いでしょう。どちらも働く職場の選択肢を広げるのに非常に有効な資格といえますが、より確実に成功させたいという方は、ぜひ士業・管理部門特化の転職エージェントであるヒュープロをご活用ください。非公開求人のご案内はもちろん士業への転職成功率をアップさせる履歴書や職務経歴書の書き方や面接での受け答えまで、余すことなくお伝えします。全て無料でサポートさせて頂きますので、まずはご相談からお待ちしております。
今回は、税理士や行政書士の資格を目指す人向けに、それぞれの資格の違いやダブルライセンスになるメリットについて解説しました。税理士や行政書士は、いずれも難関資格に分類される試験ですが、資格を取得することで業務守備範囲は確実に広くなります。
資格取得後のキャリアプランでお悩みの方は、ぜひご参考にしてください!