純資産から資本金を差し引いた金額である剰余金。いわゆる「儲け」にあたり、株主への配当や自己株式の取得は主にこの剰余金から行われています。しかし、剰余金は会社が好きなだけ使っていいわけではなく、法律によってその分配可能額が定められています。本記事では、剰余金における分配可能額について解説いたします。
かつて株取引をしたことがある方はご存知かもしれませんが、もともと、株主への配当については、株主総会の決議を受けて行う「期末配当」と、取締役会の決議を受けて年1回行う「中間配当」、あわせて年2回に制限されていました。
これが、平成18年の5月施行の新会社法によって、株主配当は期中においていつでも何度でも行うことが可能になりました。
しかし、剰余金を好きなだけ株主に分配されたり、自己株式の取得に使われたりしてしまっては、いざという時に会社の財産がなくなってしまって債務超過に陥り、会社自体の存続が危うくなる危険性が出てきます。
そこで、いわゆるステークホルダー(会社における債権者などの利害関係者)保護のために、剰余金を分配する際にも適切な財産を確保するため、会社法によって財源規制をかけて、剰余金による配当の可能限度額を定めたものが、剰余金における分配可能金額です。
剰余金があれば制限ないで分配が可能というわけではなく、株式会社の純資産額が300万円を下回ったときは、株主に対して「剰余金の配当」を行うことはできません。
旧商法では、株式会社1000万円、有限会社300万円という「最低資本金制度」が定められていましたが、現在は撤廃されています。そのため、いざという時の債権者に対する弁済のための資金として、最低でも300万円は確保しておかなければいけないという考えに基づいています。
これは、もともとの純資産額が300万円あったとしても、配当や自己株式の取得を行ったり、資本金や準備金の減少に伴う払戻しをしたりして、結果的に300万円を下回ってしまう場合も制限されます。
分配可能額の算定は3つのステップを踏んで計算します。
まず、決算日における剰余金の額を求めます。
資産の額に自己株式の帳簿価額を加え、負債の額と資本金および準備金の額、その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額を控除することにより算定されます。
決算日における剰余金=資産+自己株式の帳簿価額の合計-負債-資本金・準備金-法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額決算日における剰余金の額
結果的に、以下の式で表されます。
決算日以降分配時点までの剰余金の増減を反映させ、分配時点での剰余金の額を求めます。
分配時点における剰余金=決算日における剰余金+下記調整額(①~⑥)
(代表的なものとしては、「剰余金」から「資本金の額又は準備金」への振替額 「剰余金の配当」を実施した場合の準備金積立額など)
最後に、(2)で求めた分配時点における剰余金から、自己株式の帳簿価額等を差し引いて分配可能額を求めます。
分配可能額=分配時点における剰余金+下記調整額 (①~③)
(※代表的なものとして、その他有価証券評価差額・土地再評価差損などがあります。評価差益の場合は、分配可能利益に含まれず、評価差損の場合のみ、分配可能額から控除します。)
もし、資産の部に「のれん」が計上されている場合には、①のれん等調整額と②資本等金額(※)を比較して分配可能額から控除します。
(※) ①のれん等調整額=のれん(資産の部)×1/2+繰延資産 ②資本等金額=資本金+資本準備金+利益準備金
こうしても求められた分配可能額の範囲内で、自己株式の取得や、株主配当を行うことになります。
なるべく簡単になるように解説しましたが、剰余金の分配可能額については、株主と債権者との間の利害の調整が必要になるため、その算定には、大変複雑な評価と計算が必要です。
上場企業においても、決算後に株主総会で承認を得た配当金額が、検証してみたら剰余金の分配可能額を超えていたことが後ほど指摘され、結果的に配当金を引き下げることになったという事例があるくらいなので、問題点がないとはいえない制度ですが、公認会計士試験などではかなり深く問われるところなので、受験を考えている方は、ぜひ押さえておきましょう。