税理士の資格を取得するためには、税理士試験で合計5科目に合格する必要があります。一方、税理士資格を取得していなくても、税理士試験の複数科目に合格している場合には、会計事務所などで評価され、年収アップを実現できることもあります。そこで今回は、税理士試験の科目合格と年収の関係についてご紹介します。
税理士試験に合格するためには、必修科目で2科目、必修選択科目で1科目、選択科目で2科目の計5科目を突破することが必要です。税理士試験は科目合格制を採用しているため、一度合格した科目は再度受験する必要がなく、税理士試験自体に合格するまでキープしておけるという特徴があります。
そのため税理士業界において、どんな科目をいくつ合格しているのかは、その人材の能力を評価する際の重要な指標としても機能しています。これは他の多くの資格試験と異なる、税理士試験のユニークな特徴といえます。
税理士試験の科目合格数については、会計事務所などにおける採用の可否にも大きく影響します。特に大手などで税理士法人などでは、即戦力を求める傾向が強くなっており、税理士試験の合格科目数が採用選考に大きく影響してきます。
一方、新人を育てるための余裕が比較的ある会計事務所では、科目合格が少なくても学歴やコミュニケーション能力などによって採用される可能性も高くなっています。その場合は、年齢、それまでの経験などの他の要素は重要になってきます。
科目合格者の市場価値は、かつては今ほど高いものではありませんでした。そんな市場価値が高まってきた背景として、税理士のなり手不足や高齢化による税理士業界の人手不足があります。
科目合格者は税理士の独占業務はできないものの、高い知識を活用して税理士補助業務に対応したり、全科目合格後に税理士として活躍してくれることが期待できます。そのため各社が積極的に採用するようになり、市場価値が高まっていったのです。
税理士試験の科目を持っていればいるほど、それだけ税理士に近い知識や能力を有していると判断されますので、それだけ評価も上がっていきます。
多くの会計事務所が資格手当として給料アップの制度を設けていることからも、それがお分かりいただけるでしょう。
具体的な金額は会計事務所などによって異なりますが、1科目合格するごとに月給で5,000円~7,000円程度上がることが一般的です。
数字だけではそれほどの魅力は感じないかもしれませんが、資格自体を取得していなくても、科目に合格したことが履歴としてキープされ、かつそれが評価対象として給料にも関係してくるという資格試験は多くはありません。科目合格という形で細かく評価や年収アップの対象になる税理士試験は、それだけでも多くの魅力を有しています。
また、会計事務所で勤務しながら税理士試験を受験して科目合格していく場合、科目合格自体による年収アップに加えて、勤続年数による年収の増加も期待できるのが一般的です。2つの要素が組み合わさることで、思った以上の年収の増加につながります。
税理士の年収事情についてはこちらのコラムでも詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
税理士試験の合格科目数と評価や年収が連動することはお分かりいただけたと思いますが、具体的にどのくらいの上昇に繋がるのでしょうか?科目数別に見ていきましょう。
税理士試験を受けるにあたって、まずは必須科目の簿記論もしくは財務諸表論を受験するのが一般的です。いずれの科目を取得していたとしても、1科目分の資格手当に加えて、30万円程度の年収アップが期待できます。転職活動などで上手く年収交渉ができれば、資格手当とあわせて50万円ほどの年収アップを狙える可能性もあります。
2科目めには1科目めに受けなかった必須科目を受験し、簿記論および財務諸表論の保持者となるのが一般的です。2科目合格者は資格手当が1科目分増える以外は、1科目合格者との年収差はあまりないでしょう。ただし、転職活動における評価は高くなる傾向にあるので、特に未経験からの転職の場合などは有利になります。
3科目合格したあたりから評価がかなり上がってくる傾向にあります。注意点としては3科目なら何でも良いというわけではなく、必修科目の会計2科目と、必修選択科目の税法1科目の合格が望ましいところです。
3,4科目合格になると、あと1,2科目取れば試験合格者となる人材というだけでなく、税理士の基礎的な知識の多くの部分を持っているという判断をされるのが、高い評価をもらえる要因です。
特に大手の税理士法人は人気が高いため、3科目以上の合格を必須資格として求人募集するたことも少なくありません。また、採用の条件として必須ではなくても、複数科目に合格していることは会計事務所への転職にあたって、大きなアドバンテージとなり得るのです。
提示される年収も、無資格者に比べると100万円ほどアップすることが期待できます。3科目合格までの道のりはかなり長いものの、税理士でなくてもここまでの評価がもらえるのは、モチベーションにもなるでしょう。
5科目に合格すると、晴れて税理士試験に合格したことになります。ただし、2年間の実務経験および税理士登録をしなければ税理士を名乗ることができません。試験合格までに実務経験を積んでおらず、登録のために会計事務所などで実務経験を積む方も多いですが、そのような方の年収はもう一段階上がっていきます。金額だと、3,4科目合格者プラス50万円ほどです。
5科目合格者は近い将来に税理士として活躍が見込まれるため、多くの会計事務所からの高いニーズがあります。そのため、転職活動においては複数社からの内定をもらえる可能性が高く、年収交渉によってさらなる年収アップも実現しやすいでしょう。
上述のように一部科目合格でも年収が上がりやすい税理士試験ですが、11科目のうち評価されやすい科目を取っておくことも重要なポイントです。所持している科目数に応じてどの科目を取るのが良いか、紹介していきます。
これから税理士試験を受ける場合はセオリー通り、必須科目(簿記論、財務諸表論)のいずれかを受けるのがよいでしょう。必須科目のいずれかに合格している場合は、もう一方の必須科目を受験するのがオススメです。
正直、必須科目を取ったからと言って、他の科目から取るのに比べて年収が高くなるわけではありません。しかし、他の科目から受けて1,2科目持っている方に対して、採用側は「どうしてこの科目から受験したのだろう…」と不思議に感じてしまいます。もちろん理由があって他の科目から受けるの自体は問題ないですが、科目ごとの難易度を踏まえても簿記論や財務諸表論から受験するのがよいでしょう。
選択必須科目および選択科目の中でどれを選ぶか、迷う方も多いかもしれませんが、特に選択科目の中の相続税法と消費税法は評価されることが多いです。
中でも相続税法の知識が活かせる相続業務は、税理士業務の中でも専門的でクライアントからもらえる報酬も高い業務です。そのため、相続業務を取り扱っている会計事務所の給与体系も高いので、年収アップが狙いやすくなるでしょう。
税理士科目合格者として年収アップを目指すにあたって、いくつかのポイントをご紹介していきます。
一般的に規模の大きい会計事務所の方が年収が高い傾向にあります。特に最大手のBIG4税理士法人では、高年収が期待できます。要因としては、クライアントに上場企業や大企業が多いことや、それに伴って国際税務やM&A業務など専門性の高い業務に対応していることが挙げられます。
高年収なこともあり非常に倍率の高い税理士法人ではありますが、年収アップを目指すにあたっては、転職先の選択肢に入れるべきでしょう。
例えば、先ほどご紹介した相続税法を取得したのであれば、相続業務を取り扱っている会計事務所で働くのがよいでしょう。BIG4などの大規模な税理士法人であれば幅広い業務に対応していますが、個人の会計事務所では扱ってない事務所の方がむしろ多いです。
せっかく相続税法を取得したのであれば、最大限に評価されやすい相続業務に対応している事務所に応募するのが、より年収アップを目指せる道といえます。
税理士試験は簡単な試験ではないため、複数科目に合格するためにはある程度まとまった勉強時間を確保できる環境も重要になります。そのため、他の業界で働きながら税理士試験の突破を目指している場合は、税理士の業界に転職するタイミングを考慮することも大切です。
例えば、今働いている職場が勉強時間を確保しやすい労働環境であれば、税理士試験で3科目以上合格してから税理士業界への転職活動を開始するのも1つの方法です。早めに業界に入りたくなる気持ちもありますが、大手の事務所などは忙しい場合も少なくなく、転職後に税理士試験を突破するための十分な勉強時間を確保できるとは限らないからです。
初心者のうちは勉強時間を取れる労働環境で複数科目に合格し、勉強に慣れてきたら複数科目合格という実績とともに税理士業界に就職し、実務経験を積みながら残りの科目を突破していくのも有効です。
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ここまで科目合格者の転職先として会計事務所をベースに解説していきましたが、他にも以下のような職場で評価されることが多いです。
科目合格者には税理士の独占業務はできないものの、基本的には税理士と共通した知識を活かせる職場で活躍が見込まれます。これらの職場への転職について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
今回は税理士試験の科目合格者の年収事情について、解説していきました。税理士にならなければ年収にはインパクトを与えられないというイメージがある方もいらっしゃったかもしれませんが、一部科目でも年収アップに活用できるというのがお分かりいただけたのではないでしょうか。科目合格後の年収アップをするなら、やはり高年収が期待できる職場への転職が最短ルートといえます。
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