地上権について詳しく知っている方は、多くないと思います。貸借権との違いを詳しく説明するとともに、地上権の用途についてもご紹介します。
家を建てたいと思った時、土地が自分のものではないのに勝手に立ててしまうと違法になってしまいます。なぜなら第三者の土地に建物を建てるとき、その土地を借りてそこに自分の所有する建物を建てることを可能とする「借地権」を設定する必要があるのです。
借地権には「地上権」と「貸借権(土地貸借権)」の2種類ありますが、どちらも建物を所有するための権利であることに違いはありませんが、明確な違いがあります。
まずはそれぞれの用語について、解説していきます。
地上権とは、「他人の土地において工作物または竹木を所有するため、その土地を使用する権利」(民法256条)をいい、契約を結ぶことで設定されます。工作物とは、道路、地下街など地上、地下にある建築物全般をいいます。竹木とは樹木や竹林を指しています。
土地を使用する人を地上権者、使用させる人を地上権設定権者と呼びます。
貸借権とは、「賃貸借契約に基づき賃借人が土地(地下又は空間を含む。)を使用収益できる権利」(民法第601条《賃貸借》)をいい、地上権と同じく契約を結ぶことで設定されます。
参考:国税庁 第1号の2文書
他人の土地を借りて建物を建てる場合、「借地権」を設定する必要があります。「借地権」が設定された土地に建物を建てると、土地所有者と建物所有者が別になるという法律関係ができます。
前述したとおりどちらも建物を所有することを目的とするものですが、地上権は物権、賃借権は債権という違いがあります。
そして物権である地上権のほうが債権である賃借権よりも権利として強いのです。
この二つの違いについて、様々な場合に分けて説明していきます。
地上権の場合、地上権設定者には登記に応じる義務があります。登記簿には、地上権が設定されている旨の記載がされるので、登記簿を見ることによってその土地に地上権の設定がされていることがわかります。
地上権者は、その土地を使用することができます。しかし、それ以外にも地上権は強い権利であるために地上権を譲渡したり、土地を賃貸するすことができます。それに対して賃借権は貸主の承諾を得なければ、これらのことをできません。
地上権は最短、最長の制限はなく永久地上権とすることも可能です。貸借権は、最短期間はありません。最長期間は20年を超えることはできませんが、都度更新をすることができます。
地代は、地上権の要素ではありませんが、実際は地代を支払うことを契約内容にすることがほとんどです。支払方法は、賃貸物件のように月払いではなく、契約時に一括で支払うのが一般的です。
地代を決める要素は、土地所有者に対する制約度合いや、建築物の構造などです。相場としては土地購入代金のおおよそ2~7割程度になっています。賃借権の場合、要素として必須で契約内容になります。
地上権は物権であり、その権利を誰にでも主張することができますが、貸借権は基本的に土地賃貸人だけしか権利を主張することができません。
これらのことから、地上権は土地を借りた人にとって有利な権利、貸借権は土地を貸した人(地主)にとって有利となる権利であると言えます。
地上権は物権で権利性が強いため、地上権者は建物に対して強い支配権を及ぼすことができます。土地の所有者には不利になりますので、実際は地上権はほとんど使われていません。権利性の弱い賃借権が採用されることが多いのが実情です。
地上権が設定されるのは、建物を建てる場合より、鉄道の高架、高速道路、地下鉄の建設などが多いです。地上権を設定することにより、補修工事の必要があるときに、地主の承諾を得ることなく自由に行うことができます。
地下鉄など大規模な工作物を建設する場合、地上権を取得するために多額の費用が掛かってしまいます。そのため、地下鉄は公道の下しか通すことができず、公共インフラ整備の点から大きな障害となっていました。
それを解消するために2001年に大深度法が制定されました。これは、地下40メートルより深い空間には地上権が及ばず、公共のために使用できる内容になっています。これによって、土地所有者は地代を支払わずに、地下鉄を建設することができるようになりました。
地上権は、土地や美術品などと同じように時間の経過や使用によって価値が減少するものではないので減価償却資産にはなりません。
似た様な言葉で「法定地上権」というものが存在します。地上権は土地を借りて建物を建てる権利で、建物の譲渡等を自由に行うことができます。
一方この法定地上権というものは、もともと土地と建物の所有者が同じで、競売などにかけられて、それぞれの所有者が違う人になった場合、建物に自動的に地上権が設定されることを言います。
例えば、Aさんの所有する土地にAさんの建物が立っていましたが、借金が返せず建物を売りBさんが所有することになりました。このときBさんは土地の所有権を持ってはいませんが、法定地上権が適用されるため、建物の譲渡や改築を自由に行うことができます。
同じ字が使われているものの、異なる権利ですので注意しましょう。
地上権だけを理解しかいしようとすると、なかなかわかりづらいかもしれません。そういうときには賃借権と比較すると理解がスムーズに進みます。法律関係を理解していないために、不利な契約を結ぶことにもなりかねません。どうしても理解できない場合には、専門家に相談することも視野にいれておきましょう。
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