会社の役員報酬は自由に決めて良いものではなく、経費として扱うために一定の決め方に従って算出する必要があります。そこで、この記事では、役員報酬を決めるためのルールや基本的な手順、一人会社や合同会社などでの役員報酬の算出方法などを総合的に解説します。会社を設立したばかりの経営者の方はぜひご参考ください!
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まずは、役員報酬を受け取ることができる役員にはどのような役職が含まれるのかを整理します。役員報酬については会社法上の厳しいルールが課されるので、その対象者を明確にするのは重要な作業です。
取締役とは、会社の経営方針を決定する取締役会を構成するメンバーです。
株式会社には必ず設置される機関で、多くの株式会社において代表取締役が選出されたり、社外取締役が置かれたりします。ただ、取締役はあくまでも会社法上の役員概念なので、経営者や社長と必ずしも一致するわけではありません。
会計参与とは、会社における決算書類を作成する任務を担当する機関です。税理士や公認会計士などの税務・会計の専門家が選出されることが多いですが、専門資格を取得している士業従事者に限られません。
監査役とは、会社の経営・財政状況が適切に運用されているかをチェックする機関で、内部監査システムの構築や取締役などの任務違背行為の有無等に関する重要な役割を担っています。
取締役が会社に対して損害を与えた場合には、会社を代表して当該取締役を相手とする訴訟を担当するなど、会社における重要な機関に位置付けられます。
委員会設置会社の場合に置かれる執行役や、会計監査人を設置する旨を定款で定めている株式会社において設置される会計監査人は、会社法上の「役員等」に含まれますが、役員報酬が問題となる役員には含まれません。
会社法上の役員として役員報酬の決め方が問題となるのは、あくまでも取締役・会計参与・監査人の三者だけなのでご注意ください。
役員報酬は、従業員給与と同じように、会社から支払われる人件費の一種です。会社は従業員の労働の対価として給与を支払いますが、同様に、役員に対して役員報酬を支払うという関係です。
従業員給与と同じように、厚生年金保険料の控除や源泉徴収を受けることになります。
このように、役員報酬は従業員給与と変わらないような側面がある反面、会社法や法人税法上の厳しい制限を受けるという現実があります。
本来なら、会社が労働者に対して給料をいくら支払うかは会社側の自由のはずなのに、なぜ役員報酬に限っては厳しい法規制が敷かれているのでしょうか?
大前提として理解しなければいけないのは、従業員給与や役員報酬という人件費は経費なので、税務上は損金として法人税の課税対象額から差し引くことができます。
つまり、社長などがお手盛りで経営者陣の役員報酬を決めることができてしまうと、それだけ法人の利益が少なくなるので、法人税を過度に減額するなどの不適切な節税を認めてしまうことになりかねません。税務署がこのような節税手法を認めないのは当然でしょう。
そこで、どこまでの役員報酬なら損金として課税対象にならず、他方で、どのような役員報酬ならお手盛りとして課税対象とできるのかを明確にする必要があります。したがって、特に役員報酬に限っては、会社法上・法人税法上の厳しい制限が加えられることになります。
では、役員報酬を損金(費用)として計上するには、どのようなルールを遵守する必要があるのでしょうか?法人税の節税のために必須の知識なので、参考にしてください。
原則として、役員報酬の決め方は定期同額給与という方式で行われることになります。
定期同額給与とは、定期的に同額の条件で支払われる役員報酬のことで、従業員のように残業代などを理由として毎月の給料が変わることがありません。
定期同額給与として役員報酬が経費として損金扱いになるためには、以下のルールを守る必要があります。
①毎月、同じ金額である
②会社設立時または事業年度の開始から3ヵ月以内に決定・変更している
①について、定期同額給与である以上、定期的に同額の役員報酬として支給しなければいけないのは以上の通りです。
②について、法人税法上、口約束などで役員報酬に関する定めをするだけでは足りず、株主総会議事録を作成する必要があります。また、会社設立時や事業年度の開始から3ヵ月を経過した後に役員報酬に関する定めを決定・変更することは許されますが、損金として扱うためには3ヵ月ルールを守らなければいけないという点には注意しましょう。
会社設立時や事業年度の開始から3ヵ月を過ぎても定期同額給与は決定・変更できますが、以下の部分が損金として計上できなくなります。
・増額した場合:増額分
・減額した場合:以前の役員報酬における超過分
例えば、事業年度開始から4ヶ月間は毎月50万円の役員報酬にしていましたが、5ヶ月目以降は毎月70万円に増額変更した場合について考えてみましょう。この場合には、5か月目以降の増額分20万円について残り8ヶ月分、合計160万円を損金として計上できなくなります。
また、事業年度開始から4ヶ月間は毎月50万円の役員報酬、5ヶ月目から毎月30万円に減額変更した場合には、当初の50万円における20万円の超過分の4ヶ月分、合計80万円を損金として計上できなくなります。
以上のように、3ヵ月ルールを守らない定期同額給与は損金として扱うことができないとされるものの、以下の場合には、さらに例外的に、損金として認められることになります。
①役員の職責の変更、職務の重大な変更など、やむを得ない事情による役員報酬額の変更
②懲戒処分や病気など、やむを得ない事情による役員報酬額の変更
③経営状況の悪化などが原因となる役員報酬額の変更
①について、非常勤取締役が常勤取締役に職責変更されたことによって役員報酬が増額された場合や、逆に非常勤取締役に職責変更されたことによって役員報酬が減額された場合には、3ヵ月以降に役員報酬が変更されたとしても損金として計上できます。
また、②③のように、定期同額給与額を変更せざるを得ないようなやむを得ない事情がある場合には、合理的と認められる範囲において役員報酬を損金として扱うことができます。
以上のように、臨時改定事由や業績悪化改定事由などは、会社にとって避けられないものです。同時に、役員報酬は法人税額に直結するものなので、会社経営に大きな影響を及ぼすものです。
したがって、役員報酬額の変更にやむを得ない理由があると認められるかに自信がない場合には、必ず税務署や税理士などの専門家に確認するようにしましょう。
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役員報酬の決め方の二つ目が、事前確定届出給与です。以下の要件を充たす場合には、従業員と同じく、役員にもボーナス・賞与を支給することが可能となり、これらを損金として扱うことができるようになります。
・株主総会の決議から数えて1か月以内など、定められた期限内で税務署に届出書を提出
・提出内容通りの時期・金額を役員に支払うこと
事前確定届出給与は、定期同額給与よりも損金として認められる条件がシビアであり、届出書で報告した内容に相違点があれば、損金と認められないケースもある点に気をつけましょう。
役員報酬の決め方の三つ目が、利益連動給与です。これは上場企業で多く用いられる役員報酬の算定方法で、当該事業年度における利益の指標と役員報酬算定額の基準を事前に決めておき、これに沿った内容の金額が支払われた場合に、損金として計上できるとするルールのことです。
利益連動給与で役員報酬を決するには同族会社(株主の数が3人以下でこれらと特殊な関係にある個人・法人が議決権の半数を保有している会社)であってはならず、金額算定ベースとなる指標を有価証券報告書に明記して株主や投資家などにチェックされる状態にしなければいけません。
役員報酬の決め方における基本的な手順は、次のようになります。
①株主総会や定款で役員報酬の総額を決定
②取締役会で役員別に報酬額を決定
③社会保険加入の書類を年金事務所に提出
④住民税の届出を役員が住む市区町村へ行う
①について、会社法第361条は、役員報酬の総額にいくら充てるかは、株主総会や定款で決めると定めています。定款でも規定できますが、実際には株主総会で決議を行うのが大半です。
株主総会決議では、まず招集通知における議題の内容として役員報酬に関する議案を提示します。過半数の賛成で議案は通り、決議時には、株主総会議事録を作成して必要事項を記録する必要があります。
②について、取締役会では、株主総会で決議された総額をもとに役員別の報酬額を決め、同じく議事録を作成します。取締役会の過半数の賛成で認められますし、個別の取締役への支払い額については代表取締役の決定に委任することも可能です。これは、報酬総額について株主総会のチェックが既に入っているため、会社財産が過度に脅かされるおそれがないからです。
③④の流れで、実際に役員報酬を支払い、会社経理上適切な処理を行いましょう。
上記が、役員報酬の決め方における基本的な流れですが、中小・零細企業やスタートアップ時によく見られる、オーナーが1人の「一人会社」では流れが少し異なります。
一人会社では、オーナーが自らの役員報酬の金額を決め、株主総会の議事録にその旨を記載します。取締役会の開催と議事録は必要ありません。一人会社の取締役会等の省略に関しては、判例上も認められている合法な手続きです。
合同会社や有限会社では、株主総会ではなく「社員総会」で役員報酬を決め、金額などの詳細を「同意書」に記録します。会社を設立して間もない場合は、臨時社員総会で役員報酬を決め、同じく同意書に記録します。
上場企業では、役員報酬の決め方については有価証券報告書での開示の義務化が、2019年3月期から適用されています。役員報酬がどのような方針に基づいて決定されたか、業績連動報酬とそれ以外の比率、業績連動報酬を算定した基準となる指標の目標や実績などの開示が必要です。
役員報酬をいくらにするか決めるうえで最も一般的なのが、売上と経費から利益を算出し、利益のうちどのくらいを役員報酬に充てるか決める方法です。経費は、前期分などこれまでの実績をベースとし、今期の事業計画を踏まえて、予定外の出費があっても足が出ないような余裕のある金額を設定します。
売上は、安定した売上があればよいですが、スポット的な売上が多い場合などは、低めに見積もって確実に達成できる金額を設定しましょう。見込みの売上から経費を引いて税引前利益を出し、法人税などの税金を引いて、予想される税引後利益の金額を算出し、そのうちどれくらいを役員報酬に充てるかを決めます。加えて、社会保険料を算出するベースとなる標準報酬月額も意識しましょう。
例えば、役員報酬を490,000円にしたいとします。この場合、485,000円から515,000円までが標準報酬月額が500,000円と設定されており、485,000円でも515,000円でも同じ社会保険料です。それなら、標準報酬月額の幅の上限に役員報酬を設定したほうがお得といえます。なお、標準報酬月額には、通勤費なども含まれることに注意しましょう。
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以上が、役員報酬が損金として認められるための決め方に関するルールです。定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与のいずれの決め方であったとしても、一定のルールを守ることが求められます。
手続きには株主総会や取締役会での決議が必要ですが、一人会社では株主総会の議事録で対応が可能です。また、役員報酬の金額を決めるには、過去の実績などから低めに売上を設定し、社会保険料も意識したうえで、余裕のある金額を決めるようにしましょう。
役員報酬は節税にも直結する重大な経理上の処理になるので、経理部に専門的な知見のある人材を採用したり、税理士・公認会計士などの専門家に外注して適切な処理を求めるのが重要です。いい加減な扱いをしていると税務署から追徴されたり等のペナルティが課されるリスクもあるので、しっかりとした会計処理をするように意識してください!