公認会計士を独学で合格することができるのでしょうか?これから目指すことを考えている人の多くが最初に悩む点です。
そこで、今回は公認会計士の短答式試験及び論文式試験の特徴や難易度、独学での合格の可能性とその理由について解説します。
公認会計士の仕事に興味はあるけど、どうすればよいかよく分からない方は多いと思います。これから公認会計士試験に挑戦するかどうか検討している方、専門学校に通うべきか独学で挑戦するか迷っている方はぜひ参考にしてみてください。
結論からいうと、独学での試験合格は難しいと言えます。公認会計士を目指すほとんどの人が、予備校に通う、もしくは通信講座などを使って学習を進めています。理由は以下の3つです。
公認会計士試験は、財務会計論、管理会計論、監査論、企業法、租税法、選択科目(経営学等)という科目で構成されています。つまり会計に関する科目から、会計とは直接関係のない法律や経営に関する科目、監査という会計士特有の科目があり、試験科目の専門性が高く講義を聞かなければ理解が難しいという特徴があります。そのため多くの受験生が予備校に通い、受験対策講座を受けたりしています。
公認会計士試験は問題量に対して試験時間が短いことから制限時間を計って何度も練習する必要があります。試験時間中にどの問題を解き、どの問題を捨てるかを判断しなければなりません。その感覚を養うためには各専門学校が提供する答案練習(通称:答練)を解く必要があります。答練には本番と同様に必ず正答すべき問題と、捨てるべき問題が混ざっているため最適な実践演習となります。また論文式試験の場合、自分で答案を作成しただけではどれだけの点数が付けられるか判断できません。答練を解き第三者に採点してもらって初めて自分の答案の良否を判断することができ、それを改善していくことができます。
公認会計士試験は長期戦です。どの科目から、どれくらいのペースで勉強を進めていくべきか一人ではなかなか決められません。実際に独学で合格した受験生に聞いてもどのぐらい勉強したのかわからないというケースがあるほどです。
しかし専門学校が提供する講義をペースメーカーとすれば自然と進捗管理ができ正しい順番で学習できます。また答練の結果を確認することで、自分が今どれくらいの順位にいるかを確認することができるためモチベーションの管理をすることができます。
それでは、そもそも公認会計士試験とは、どのようなものなのかご説明します。
公認会計士試験は、受験に際して必要な資格はなく誰でも受けることができます。
試験の難易度は非常に高いと言われており、最終的な合格率は10%前後となります。
公認会計士試験は、短答式試験と論文式試験の2種類に分かれており、どちらにも合格する必要があります。それでは、それぞれの科目を見てみましょう。
短答式試験
短答式試験は、年に2回(5月と12月)に行われます。
科目は、財務会計論、管理会計論、監査論、企業法の4科目です。マークシート形式の試験で、短答式試験に合格後2年間は短答式試験が免除されます。
合格基準は、70%を基準として公認会計士・監査審査会が認めた得点比率で決まります。また、各科目40%に満たない点数の場合不合格となることもあります。
論述式試験
論述式試験は、年に1回(8月)に行われます。
科目は会計学、監査論、企業法、租税法、の4科目が必須となり、選択科目で経済学、経営学、民法、統計学の中から1科目選んで受験します。短答式試験同様に、合格した科目については2年間免除の対象となります。
合格基準は、60%を基準に公認会計士・監査審査会が認めた得点比率で決まります。担当試験と同様、各科目40%に満たない点数の場合、不合格となることがあります。
それでは、合格まで一般的にどれほど年数がかかるのかみてみましょう。
公認会計士試験の合格に必要な時間は最低でも3,000時間ほどと言われています。
1日に掛ける時間や勉強法によっても変わりますが、勉強を始めてから2〜4年ほどかかると思って良いでしょう。仕事をしながら働いている場合は特に勉強時間を確保しづらいですが、1日5時間ほどの勉強時間を目安にしたいです。
では、それだけ難易度の高い公認会計士試験を独学で合格するのは、どれほどの割合だと推定できるのでしょうか。先ほど述べたように、公認会計士試験の受験に必要な学習時間は3,000〜5,000時間ほどですが、独学で学習するとなると、より学習スケジュールの管理や効率的な勉強法を時間をかけて模索していく必要があります。
一般的に10%ほどの合格率と言われる公認会計士試験ですが、独学であれば、より少ない割合となってくることがわかります。
では、公認会計士試験受験を独学で受験するメリットとデメリットをご説明します。
メリット、デメリットを踏まえて、独学での受験にチャレンジするかどうかを検討すると良いでしょう。
予備校の受講代などがかからない
予備校や専門学校、通信講座の受講料はかなり高額です。一般的には70〜150万円ほどはかかると言われています。
独学で受験をする一番大きなメリットは学費をかけずに済むということでしょう。
最近は、使いやすい参考書や実際に予備校で使われているようなテキストも手に入れることができるので、費用をかけずとも勉強することはできます。
自分の予定に合わせて勉強スケジュールを立てられる
二つ目は、時間の融通が利きやすいということです。働きながら勉強をする場合、予備校のように決められた授業時間で学習するということが難しい方もいるでしょう。
独学であれば、自分の都合の良い時間に合わせて勉強スケジュールを組み、自分のペースで勉強を進めることができます。
モチベーションを保つのが難しい
独学の場合、予備校と違い、近くに同じ目標を目指す仲間がいないため、モチベーションを保ちにくいことがあります。公認会計士の試験は長い戦いです。いろんな不安や疑問を一人で抱えるのは辛いでしょう。
使用できる教材が限られる
予備校では、独自に作られた最新の教材で勉強を進めることができます。しかし、独学の場合は自分で教材の収集を行わなければならず、一般に販売されている参考書の使用がメインとなるため、使う教材に限りがあります。
効率的な勉強方法を教えてもらえない
公認会計士の試験範囲は膨大です。そんな試験内容を効率よく勉強する方法を自分で導き出すことは、なかなか難しいでしょう。
中長期的なスケジュールの管理や、学習方法は予備校や専門学校で教えてもらえることが多いです。
それでは、公認会計士試験に独学で合格するためにはどのように勉強を進めれば良いのか、解説していきます。
前述のように、公認会計士試験の合格には相当な時間勉強をする必要があります。ご自身の状況にもよって変わってきますが、学生の場合は学業との両立、社会人の方は仕事との両立をしながら学習を進めていく必要があります。
予備校で組まれたカリキュラムに則って学習を進めることができない分、自分自身で隙間時間を使った学習スケジュールを立てる必要があります。
独学での受験では、なかなか試験の最新情報や傾向などを掴むことができません。予備校に通っていれば得られるような情報をしっかりとキャッチアップするためにも、積極的にコミュニティへの参加をしたり、SNSなどで情報収集をしていく力も必要です。
ただし、SNS上などでの誤情報に惑わされないように、自分で情報を取捨選択していく必要があります。
独学で公認会計士試験の合格を目指す上で、重要なのがモチベーションの維持です。
周りに一緒に同じ目標を目指す仲間がおらず、孤独な戦いになりやすいため、挫折する人も少なくありません。
情報収集の項目でも述べたように、SNSで勉強仲間を探したり、予備校の答案練習会に参加するなどして、共に戦う仲間を見つけ、励まし合うことでモチベーションを保つことをお勧めします。
独学では難しいという説明をしてきましたが、それでも独学で合格を目指したい方、あるいは独学で勉強せざるを得ない方もいると思います。そういった方はまず短答式試験までは独学で勉強することを目指してみてはどうでしょうか?理由は以下の3つです。
短答式試験までは財務会計論、管理会計論、監査論、企業法の4つです。論文式試験になるとこれに加え租税法と選択科目が加わります。4つの試験科目であれば自身で勉強の進捗管理が行いやすいはずです。また論文式試験と異なり、短答式試験ではマークシートでの解答になるので、自分自身で採点することが可能です。
簿記1級取得を目標として勉強すれば財務会計論、管理会計論の勉強になり、短答式試験に直結します。また公認会計士試験の勉強を続けることができるか不安で、専門学校代を払って契約することに躊躇してしまう方も多いと思いますが、簿記1級に合格すれば自信がつき公認会計士試験へ挑戦しやすくなると思います。実際に簿記検定で自分の適性を判断してから公認会計士試験を本格的に目指すという受験生は多いです。
会計士試験にかかる費用を少しでも抑えたいという方は、短答式試験に合格後、論文式試験のみ専門学校に申し込むことで専門学校にかかる費用を抑えることができます。短答式試験合格者を対象として論文式試験合格のための講義を用意している専門学校もあります。さらに奨学金制度を採用している専門学校もありますので経済的な理由で会計士試験への挑戦を躊躇している方は検討してみて下さい。
独学での受験を目指す方へ、お勧めのテキストをご紹介します。
一般的に合格者に話を聞くと市販テキストより、やはり予備校テキストのほうが良いという意見が多数です。特に、試験段階で言うと論文式試験、種類で言うと問題集(答練)、科目で言うと財務会計論では、明らかに予備校テキストに分があります。
今回はあくまで、独学者以外にも一般的に人気でおすすめされているテキストをご紹介します。参考までにご確認ください。
『財務会計講義(第20版)』
桜井久勝 (著)
中央経済社(2019)
この本の帯にはこう書かれてあります。「日本一読まれている財務会計のテキスト」本当にそんなにすごいの?とちょっと信じられない方もいるかもしれませんが、この本は実際にベストセラーで1位です。
実際に背景から分かりやすく記載されていて理解が進む本でもあります。ただこれ1冊で公認会計士の理論対策ができるのかというと足りません。
『管理会計』
岡本 清、尾畑 裕、広本 敏郎、挽 文子 (著)
中央経済社(2003)
岡本先生が書かれた本で2008年に出版されかなり古い本となります。
ただ、管理会計の根本部分である原価計算のルールは昔から一切変わっていないので、考え方を学ぶ・理解する場合において非常に有用な参考書となります。
また、部分的に分からず基礎の基礎から調べたいときにも重宝することができ、独学者の強い味方といってもいいでしょう。
この本は見た目は入門・基礎レベルのことが書かれてあるのでたいした事ないのでは?と感じる方もいらっしゃいますがそれは全く違います。
短答式試験は基本的には計算問題が解ければいいですが、論文式試験においては「基本的な考え方」を理解していないと書けない事が多くなります。当たり前だと思っていることをいざ聞かれると意外と書けないものです。
なぜならそれは本質の理解ができていないからといえますが、この本を読む事によって当たり前と思っている事柄を深く理解する事ができるでしょう。
また、深い理解をするためには専門家の難しい本を読む必要がありますが、この本はとても分かりやすく書かれてあり、本を読むのが苦手な方であっても十分に理解をする事ができるでしょう。
管理会計論でこの書籍より分かりやすく書かれたものは市販ではおそらくありません。
スタンダードが分からない方や分かりやすい管理会計の本を探している人にはおすすめとなります。
他にも、会計士試験受験生向けのテキストについてまとめた記事があります。詳しくは下記をご覧ください。
最後に、公認会計士の試験に合格後、活躍するためのキャリアプランをご紹介します。
公認会計士試験に合格した後にすぐに公認会計士として活躍できるわけではなく、3年間の実務経験を積むことが義務付けられています。
また、公認会計士の登録には、実務経験を積んだ企業で業務補助等証明書を発行してもらう必要があるので、就職先は非常に大切です。
監査法人への就職
一般的に、公認会計士の実務を積むためには監査法人への就職をすることが多いです。公認会計士として登録するには実務経験に加えて、修了考査に合格する必要があるので、勉強との両立に理解がある監査法人で働くことが良いとされているからです。
監査法人への就職を成功させるカギ
監査法人への転職はスピード勝負です。公認会計士試験の合格発表後、監査法人は一斉に採用活動をスタートします。合格発表後、約2週間で内定が決まる短期決戦であるのが監査法人の就職活動の特徴です。
そのため、試験受験が終わったら、情報収集やエントリーシートの準備、面接対策などを始めておくことをお勧めします。
いかかでしたでしょうか。自分の勉強の進捗や学習状況、不足している知識によって適したテキストは変わってきますが、上記で挙げた教材はインプットをはじめ、問題集で立ち止まって振り返った際に助けてくれるものです。
また、テキストは安い買い物ではないので、自分にとって読みやすいものなのか、本当に必要か、一度店舗で手に取ることをお勧めします。