原価計算とは、商品・製品を製造するのにかかるコスト・費用を正しく把握するための計算方法です。製品に対するコストを把握できれば、コスト削減による収益性向上・適切な予算計画の編成や経営判断など、多くのメリットが得られます。
そこで、この記事では、企業の経営のポイントである原価計算の目的や計算方法を総合的に解説します。あわせて、原価計算のスキルを習得するための方法も紹介するので、現役経理担当者の方だけでなく、これから企業の経理部門への転職を考えている方も、ぜひ最後までご参考ください。
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原価計算とは、商品の原価を計算する方法のことです。
売上げのために販売する製品の製造にかかった費用を計算して、製造コストを算出することができます。原価計算で製造コストが算出されれば、同時に、商品・製品が1個売れるたびにどれぐらいの粗利が得られるのかも判明します。
製造業を中心に、多くの企業にとって、「どれぐらいの粗利が得られるのか」という点は、企業の業績を決定的に左右するものです。なぜなら、企業が存続していくためには、安定的に利益を計上していく必要があるからです。
したがって、原価計算を正確に行い、計画的な企業運営を進めていくことが重要となります。
商品を製造するために要するコストを算出する計算方法が原価計算ですが、まずは、原価計算で得られたデータがどのような目的で使用されるのかを説明します。
原価計算でデータを算出する目的は、以下の5つに分類されます。
① 財務諸表目的(財務諸表を作成するため)
② 価格計算目的(商品価格の決定に役立てるため)
③ 原価管理目的(商品の製造が効率的かをチェックするため)
④ 予算編成目的(製造ラインの予算を決めるため)
⑤ 経営計画目的(経営者が中長期的な経営計画を立てるため)
なお、①は財務会計、②~⑤は管理会計に分類されます。財務会計とは、株主や会社の利害関係人などの会社外の人たちのために行う会計業務のこと、管理会計とは、会社内の業務効率化等のために行う会計業務のことで、それぞれ誰のために会計業務を行うのかが異なります。
このように、原価計算は財務会計・管理会計の両者にまたがる役割を担う重要な業務なので、どのような目的から行われるものかをしっかりと確認しておきましょう。
原価計算の目的は、財務諸表目的です。企業は、自社株主や銀行等の融資機関、投資家に経営状況を公表しなければいけませんが、その際に使用される財務諸表の1つである損益計算書(P/L)を作成するために、原価計算は重要な役割を担います。
というのも、原価計算で算出されるデータは、損益計算書における「売上原価」項目に使用されるからです。
例えば、「売上高」から「売上原価」をマイナスすれば「売上総利益(粗利)」が求められるのですが、「売上総利益」は、当該企業の経営状況を示す指標となります。また、「売上原価」の数値は、会社の限界利益を計算するためのデータとしても活用できます。
したがって、原価計算が正しく行われれば財務諸表が適切に作成され、その結果、会社の経営状況を正しく理解できるというメリットを得られます。
原価計算の目的は、価格計算目的です。原価計算によって計算される「製造原価」は、商品の値段を決める際の判断指標となるからです。
商品を売って利益を出すためには、1個あたりの商品につきどれだけのコストがかかるかを理解したうえで、コストを回収できるだけの適切な価格を設定しなければいけません。原価計算が不明瞭なままでは、コストを回収できない不適切な値段で販売してしまい、利益を得られずに事業が継続できないリスクも生じます。
したがって、「製造原価」の数値データを参照して正しい値決めを行うために、原価計算は重要です。
原価計算の目的は、原価管理目的です。原価に含まれる各種製造コストが明確になれば、不要なコストをカットして、無駄な支出を削減できるでしょう。
そもそも、「製造原価」の役割とは、機械的に原価内容を計算することではなく、期間比較を行ってコストを下げる努力に貢献できるようにすることです。
したがって、あらかじめ決めたルールに従って原価計算を行ったうえで、「1年前と比較してどれだけコストを下げることができたか?」というような俯瞰的な視点でデータを見比べ、コスト削減ができているかを評価できてこそ、原価計算に価値が生まれると考えられます。
原価計算の目的は、予算編成目的です。企業の利益目標を達成するには適切な形で原価が設定される必要があり、正しく予算を編成することができれば、支出される費用に関する項目別の予算目標も設定できるからです。
そもそも、製品の製造を行って収益に繋げるためには、「どのぐらいの期間に」「どこから」「どれだけの数の材料を購入し」「どのぐらいの労働力を投入すれば良いのか」という各項目について計画的な管理が必要です。
したがって、予算という形で明確な数値目標を設定し、実績値との比較を継続的に行うことによって、製品製造のコストを正しく把握することが重要と考えられます。
原価計算の目的は、経営計画目的です。
確かに、原価計算は、各製品における個別的な費用・コストに注目するマクロ的な視点を有するものです。
しかし、同時に、製品の費用・コストは企業全体の経営を支える要素でもあるので、原価計算は企業全体の経営方針等を決定する際にも重要な役割を果たすという点を見落としてはいけません。「製品を製造するためのコストがどの程度発生しているのか?」という疑問は、終局的には企業全体の収益性に関わる問題なのです。
したがって、原価計算を正しく行うことによって、全社的な経営計画を実績値に基づいた説得力のあるものにすることが可能となります。
では、ここからは、原価計算の具体的な内容を解説します。原価計算をするにあたっては、製造コストを正確に理解し、計上・分類する必要があります。
原価計算を行うためには、まずは原価を分類(形態別分類)し、一定期間に発生する合計額を集計しなければいけません。
原価計算における「原価」とは、以下の3つです。
そこで、原価計算における3つの原価、材料費・労務費・経費について詳しく見ていきましょう。
材料費とは、製品を作るために使用する材料や原料の価格のことです。製造量が増えるにつれて材料費も増える、という一般的な傾向が見られます。
材料費は、素材・原材料費、購入部品費、燃料費、工場消耗品費、消耗工具器具備品費に分類できます。
労務費とは、製造現場の労働者などの人材に対して支払う給料・賃金・賞与手当て・退職金などの人件費のことです。製造から販売に至るまでのラインに関わる労働力への対価がすべて含まれます。
労務費は、賃金・給与・雑給・賞与手当・退職給与引当金の繰り入れ・福利厚生費に分類できます。
経費とは、材料費・労務費以外の費用のことです。製品を作るためには、材料と人以外にも必要なものがたくさんあります。原価計算では、人材・材料以外にも製造に必要なものが計算根拠に含まれます。
経費は、測定経費・支払経費・月割経費・発生経費というカテゴライズによって項目分けがされ、それぞれの項目に諸経費が分類されるという構造で算出されます。
以上のように、原価は材料費・労務費・経費の3種類に分類できますが、これとは別に、すべての原価は、直接費と間接費に分類できます。
直接費とは、どの製品に使用されたコストかが直接把握できる費用のことです。間接費とは、複数の費用にまたがって使用されたコストや製造現場以外で使用される費用のことです。
したがって、以下のように、原価は3×2の6種類に分類されることになります。
上記のように分類した費用を一定期間にわたって集計し、商品を作るために要した費用の内訳を計算するのが原価計算です。
費用の内訳を正確に知ることができれば、商品を作るプロセスのどの部分に多くのコストが発生しているのかを知ることができます。そして、コストの原因が明らかになれば、具体的な対策を検討することが可能になるでしょう。
このように、原価計算は企業が効率的に利益を出していくために役立つ情報を提供することに繋がるのです。
以下では具体的な事例を設定するので、各原価のイメージを掴みましょう。
例えば、アンパンとカレーパンの2種類のパンを作って販売している事業者について考えてみましょう。
まず、材料として購入した「アンとカレー」は、それぞれアンパンとカレーパンに使ったことが明らかにわかりますから、これらは直接費(直接材料費)です。
他方、パン粉や砂糖、さらには工場を動かすために使った水道光熱費といったような費用については、アンパンとカレーパンのどちらにもかかっている費用といえます。したがって、これらは間接費用として処理することになります(※パン粉や砂糖は間接材料費、工場の水道光熱費は間接経費です)。
さらに、工場の作業員がアンパンやカレーパンなどの「商品を作ること」に使った時間の賃金は直接費(直接労務費)に分類します。一方で、工場の掃除をしたり、朝礼をしたりなど、「直接的には商品の製造と結びつかない時間」は間接費(間接労務費)に分類することができます。(※なお、直接工や間接工といったように、あらかじめ作業内容で分類した雇用を行っている場合には、直接工の労務費はすべて直接労務費、間接工の労務費はすべて間接労務費に分類することもあります)
以上のような形で、各企業が製造ラインに関わるすべてのコストを計上して、原価計算を行っています。
以上のように、原価計算は、製造ラインにおける個別的業務判断の際に役立つだけでなく、企業全体の経営判断にも影響する重要な仕事です。原価計算ができる人材に対する需要は高く、多くの企業の経理部門において当該スキルが求められるので、就職・転職活動の際に役立つでしょう。
転職時に役立つ原価計算のスキルを習得するための方法として考えられるのは、以下2点です。
現在、経理・会計業界は人材不足の課題を抱えているので、未経験者でも素養があると判断されれば、経理部門として採用されます。そこで、原価計算を行っている経理部門の求人案件にチャレンジし、実際に企業の中で原価計算に触れながら実地訓練をするのが、原価計算スキル習得の近道でしょう。
ただし、「製造業だから原価計算をやらせてもらえるだろう」と安直に考えるのではなく、しっかりと求人情報を見て、原価計算に携わることができるのか確認しなければいけません。また、求人票に原価計算と記載があっても、未経験者は簡単な入力業務しかやらせてもらえないというケースもあるので、転職採用面接の際には、担当者に確認を取るようにしてください。
未経験のままいきなり実務にチャレンジするのが怖いという方は、日商簿記に挑戦して原価計算に関する学習を進めるのもおすすめです。
特に、初学者でも日商簿記3級であればすぐに合格できるでしょうし、その次の段階である日商簿記2級は転職市場でも需要が高いスキルなので取得するだけでもメリットは大きいと考えられます。しかも、日商簿記2級に合格できるだけの力があれば、実務でも原価計算処理に困ることも少ないので、その後のキャリア選択の幅も広がるでしょう。
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今回は、原価計算の基本的な考え方について解説しました。
製造業関係の企業では、原価計算が正しく行われなければ、現状のコスト状況の把握・コスト改善のチェック機能・製品に関する経営判断が難しくなります。原価計算を正しく運用することで、最終的には企業の収益性自体がアップするほど、原価計算は重要な役割を担っています。
原価計算を知識として理解しておくことは大切ですが、より重要なことは、適切な原価計算を活用して、具体的にどのような施策を導入するかです。今回解説した内容から、自社で導入できる具体的な施策を検討してみてはいかがでしょうか?
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