事業譲渡などのM&Aの際に営業権という言葉を耳にされた方もいるかもしれません。では、営業権とは一体何なのでしょうか。また、営業権を取得した後の経理処理についてもあわせて解説します。
営業権とは、企業の有する無形の資産のことをいいます。具体的には、企業が持つノウハウやブランドイメージ、顧客情報といったものがこれに該当します。M&Aの場面における、いわゆる「のれん」が営業権にあたります。営業権は無形の資産であり、目に見えない価値を有するものですから本来は資産計上されません。しかし、事業譲渡などM&Aによる場合には、買い手によってM&Aの対価として評価され、勘定科目によって買い手の企業内にて資産計上されます。
営業権は事業譲渡を受ける会社によって評価されることで初めて数値化されます。では、買い手はどのような点を重視して営業権を評価すればよいのでしょうか。営業権の評価方法には以下のような方法が用いられています。
①時価純資産法 | 時価純資産法とは、企業が有する資産のうち、貸借対照表から純資産を時価で算定し、一株当たりの株式価値を出す評価方法です。 |
②簿価純資産法 | 簿価純資産法とは、純資産額に基づいて一株当たりの純資産を出す評価方法です。 |
③類似業種比較法 | 類似業種比較法とは、国税庁が発表する業種別月平均株価を使い、事業譲渡側(売り手側)企業の評価する方法です。 |
④類似企業比較法 | 類似企業比較法とは、事業譲渡側(売り手側)企業と類似している企業の平均株価を基に、配当額、利益額、純資産額を調整し、算出した株価を評価する方法です。 |
①と②は企業が有する資産価値を基準に営業権の価値を算出する方法です。他方で③と④は、同種の業種や企業から売り手企業の価値を推測する方法といえます。
以上のような方法の他に、売り手企業が将来生み出すであろう収益を予測し、それを基準に評価する方法もあります。このように、営業権の評価方法や計算方法決まった方法がなく、事案ごとに適切な方法を選択して評価するという処理がなされています。ですが、②や③はあまり一般的に使われておらず、①による方法がよく使用されているようです。
①の方法による場合、営業権の計算式は以下のようになります。
事業譲渡額=譲渡資産時価+営業権
営業権=実質利益(過去の利益)×評価倍率
評価倍率はどのくらい利益が見込めるかによって変動するため一律に計算できるものではありませんが、一般的には2倍~5倍の範囲内で変動するようです。
つまり営業権の価値は事業譲渡の金額が、売り手の純資産を上回る金額といえます。例として純資産額が10億円の会社を15億で事業譲渡をした場合には、差額の5億が営業権の資産価値となります。
営業権は、目に見えない資産として経理上は無形固定資産として計上されます。営業権は事業譲渡の後は、買い手企業のもとでブランドイメージやノウハウとして利益をあげる中で長期にわたって活用されるものです。
したがって、営業権の価値相当額は長期にわたって負担されるよう反映させる必要があることから、減価償却によることになります。営業権は無形資産に該当するため、償却方法は定額法による計算となります。また、減価償却に当たり耐用年数は5年と定められています。
さらに営業権の減価償却費の計算に当たっては、平成 29年度税制改正により、平成 29年4月1日以後に取得した営業権の減価償却費の計算において、取得した事業年度の償却限度額の計算上、月割計算をするよう改正されました。
したがって、具体的な計算方法は以下のようになります。
償却限度額 = 当該事業年度の全期間分の償却限度額 × 事業の用に供した日から事業年度末日までの月数÷当該事業年度の月数
なお、当該事業年度の全期間分の償却限度額は、営業権の譲渡対価を耐用年数で案分することによって算出されます。
日本では、基本的に営業権の償却は必須です。理由としては無形資産であるブランド力やクライアントとのネットワークは、時間とともに変化していくと考えられているからです。
一方、国際会計基準では、営業権の償却は原則禁止されています。理由としては以下のものがあります。
・営業権償却には合理的根拠がない
・価値が下がってから減損処理を実行すれば良いと考えられている
・営業の価値は減らないと考えられている
実際に国際会計基準では、営業権償却は基本行われません。
例外的に、統合後に営業権の価値が著しく低下した場合のみ、減損処理を実施します。国際会計基準の方が、営業権償却がないため、より大きな利益が期待できます。しかし売却側としては、企業価値を明確に数値化できる要因が減ってしまうリスクが生じます。
以上のように国際会計基準と日本の会計基準では、営業権の償却に関して大きな違いがあります。
具体例で見てみましょう。例えば、A社がB社を11億円の対価で平成29年11月30日に事業譲渡を受けたとします。この時、B社の純資産価値が10億円とB社に支払った事業譲渡の対価とには1億円ほどの差があり、実際にA社はB社の営業権を1億円と評価していたという事例を考えてみましょう。
まず、当該事業年度の全期間分の償却限度額は1億円÷5=2000万円です。
次に、事業の用に供した日から事業年度末日までの月数は、年度末が3月とすると11月からで5か月となります。
最後に当該事業年度の月数は、12か月です。したがって、この場合の、平成30年度の償却限度額は、
2000万×(5分の12)= 8,333,333円
となります。改正前は、営業権の計上額を5年で除した金額に、当該事業年度の月数を乗じて計算した金額が償却金額となっていました。そのため、事業年度の途中で営業権を取得した場合でも1年分減価償却額を計上できましたが、改正後はできなくなっているため注意が必要です。