税理士試験は、難関資格の一つとして認知されています。科目の平均合格率が10%台であることから容易には合格できない試験ですが、税理士にはなりたいけどそんなに時間がないという方もいると思います。そこで今回は、税理士試験に効率よく合格する方法や独学での勉強法などについて、現役公認会計士が解説します。
税理士試験の合格方法を確認するにあたって、まずその難易度がどのくらいなのか、理解しておく必要があります。試験の難易度を測るにあたっては、合格率と合格に必要な勉強時間を指標とするのが一般的なので、その2点から紐解いていきましょう。
2023年の税理士試験で官報合格となった方は600人で、受験者全体の約1.8%、一部科目合格者を含めると6,525人で約21.9%でした。
これだけでも、全科目合格するのはかなり狭き門ということが分かります。
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税理士試験の勉強時間は、一般的に4,000時間程度と言われています。受験生の就業状況などにもよりますが、全く税務や会計などの知識や資格がない状態から1年で合格するのは難しいです。また独学での合格も非現実的なので、専門学校や予備校に通いながら数年かけて継続的に勉強する必要があります。
このことからも、かなり難易度が高いといえます。
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税理士試験に受かるには、当然ですが税理士試験の受験資格が無くてはならず、学歴、資格、職歴のいずれかにより満たすことが出来ます。
具体的な要件は下記の通りです。
出典:国税庁HP│税理士試験受験資格の概要
税理士試験は、会計学に属する科目(簿記論及び財務諸表論)の2科目と税法に属する科目(所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税)のうち受験者の選択する3科目(所得税法又は法人税法のいずれか1科目は必ず選択しなければなりません。)について行われます。
なお、税理士試験は科目合格制をとっており、受験者は一度に5科目を受験する必要はなく、1科目ずつ受験してもよいことになっています。
税理士試験の合格を効率的につかみ取るには、この科目合格制を利用しつつ、自身の状況にあわせた適切なスケジュールを組む必要があります。それでは具体的な合格へのポイントやコツについてご紹介していきます。
税理士試験は会計科目2科目、税法科目3科目に合格しなければなりません。最短で合格するためには、科目選びが非常に重要となってきます。
まず会計科目2科目については、最短合格を目指すのであれば簿記論と財務諸表論を同時に勉強することが大切です。1科目だけでも結構なボリュームがありますが、簿記論の範囲を全て終えていれば財務諸表論の計算問題は概ね解ける状態になっているはずです。また、財務諸表論で理論を学べば簿記論についての理解も深まってきます。
また、この会計科目2科目の後には3科目の税法が待ち受けており、ここでつまずく受験生も少なくはありません。簿記と財務諸表論同時に勉強することはとても大変ですが、これくらいの負荷に耐えられれば税法のボリュームにも耐えられる体となっているでしょう。ちなみに、これに消費税を加えて3科目受験して合格する人もいますので、これができれば最短合格により近づくことでしょう。
次に税法はどの科目を選ぶのが良いのでしょうか。将来使える税法と言えば、法人税法、所得税法、消費税法、相続税法を挙げる人は多いです。そのため、将来の実務を考えればここから選ぶことが多いと思います。
一方で、最短合格を目指す場合は必須科目の法人税法か所得税法を1つ選び、その他は軽い科目を選ぶことになるでしょう。では、まず必須科目の法人税法と所得税法ですが合格率にはそれほど差はありません。しかし、法人税法のほうが受験者は圧倒的に多いことから母集団には記念受験なども含まれていると考えられます。
確かに法人税法は合併等複雑なものも出てきますが、今まで勉強してきた簿記論、財務諸表論とも密接になっていますし、就職でもやはり法人税法の方が有利とされています。よって、ここは最短合格目線プラス将来性も加味して法人税法を選択することをお勧めします。
また、法人税法に合格して所得税法を受ける人もいます。これは、将来のことを考えて両方合格しようという強者となります。一方で所得税を先に受けて法人税を受ける人は少ないです。つまり、法人税法よりも所得税法のほうが受験者の層が厚いというイメージがあるため、合格率にそれほど差が無いとしても受験者層から判断して法人税法を受験したほうが最短合格には適していると言えます。
その他の科目については、勉強時間の少なさで選ぶのであれば事業税、住民税、国税徴収法などとなりますし、実務でも役立つ科目と言えば相続税、消費税等となります。実は勉強時間が少ないことと合格率は同義ではなく、勉強時間が多くとも消費税法や相続税法は受験生も多い為その受験者の層の違いによって合格率も異なるのです。勉強時間がとりづらい場合は軽い科目を、そうでない場合は主要な税法を取り込んでも良いと思います。
先述した通り、税理士試験は難関資格であるため、経理や会計業界での就業経験や、関連分野の学習経験が無い状態から試験勉強を始めると、ゴールの遠さから効率的な勉強が進められなかったという声も少なくありません。
ですので、税理士試験勉強における基礎的な知識を習得するゴールとして日商簿記2級の取得を目指すのも、有効な手段です。日商簿記2級を取得しておくと、会計科目の簿記論および財務諸表論を効率的に学習することが可能です。別の資格を取るという選択は遠回りに感じるかもしれませんが、試験範囲の関連性が高いため、決して無駄な勉強をしているわけではないのです。
税理士試験の合格を目指すにあたって、独学か予備校や通信講座を利用するかというのは、受験生の多くが迷うポイントとなるでしょう。ここでは独学で勉強するメリットとデメリットを挙げますので、それを踏まえてご自身に合った方法を選んでいただければと思います。
税理士試験の予備校や専門学校、通信講座にかかる学費や受講料はかなり高額です。一般的に5科目合計の専門学校などの学費は80万円以上、通信講座は20万円以上はかかると言われています。独学で受験する一番大きなメリットは上記のような費用をかけずに済むということでしょう。最近は、使いやすい参考書や実際に予備校で使われているようなテキストもフリマサイトや中古などで安価で手に入れることができます。また、Youtubeやnoteなどで無料で勉強方法を閲覧することが出来る部分もあるため、これらをうまく活用すれば、数万円程度の出費で勉強することができるでしょう。
二つ目は、時間の融通が利きやすいということです。特に働きながら勉強をする場合、予備校のように決められた授業時間で学習するということが難しい方もいるでしょう。独学であれば、自分の都合の良い時間に合わせて勉強スケジュールを組み、自分のペースで勉強を進めることができます。
税理士試験は各科目の難易度が高く独学では理解が難しいという特徴があり、学習に最低でも4,000時間かかるほど範囲も膨大です。
そんな試験内容を効率よく勉強する方法を自分で導き出すことは、なかなか難しいでしょう。中長期的なスケジュールの管理や学習方法は、予備校や専門学校で教えてもらえることが多いです。
予備校では、独自に作られた最新の教材で勉強を進めることができます。しかし、独学の場合は自分で教材の収集を行わなければならず、一般に販売されている参考書の使用がメインとなるため、使う教材に限りがあります。
そのため、最新の税制改正への対応や傾向分析も自分で行う必要があります。
その感覚を養うためには各専門学校が提供する答案練習(通称:答練)を解く必要があります。答練には本番と同様に必ず正答すべき問題と、捨てるべき問題が混ざっているため最適な実践演習となります。
また論文式試験の場合、答練を解き第三者に採点してもらって初めて自分の答案の良否を判断することができますが、独学では自身の採点しか当てにできないのです。
独学の場合、予備校と違い近くに同じ目標を目指す仲間がいないため、モチベーションを保ちにくいことがあります。複数年かかるのが一般的な税理士試験勉強において、いろんな不安や疑問を一人で抱えるのは辛いと感じる方もいらっしゃいます。
独学での税理士試験合格は可能であるとはいえ、その難易度はかなり高いというのが実情です。5科目全ての試験合格者を意味する官報合格者のうち、独学での合格者の割合は10%以下と言われています。つまり、受験生全体の中では1%にも満たないということですので、独学での合格の難しさがお分かりいただけるのではないでしょうか。ですので、最短での合格を目指したい方であれば、予備校や通信講座の利用が有効であると言えます。
税理士試験は誰もが全ての科目を受けなければ合格できないというわけではありません。なぜならこの試験には「科目免除」というシステムがあるからです。
科目免除とはその文字通り、特定の要件において一部もしくは全ての科目の受験を免除されることです。
科目免除が可能な要件には大きく分けて、「学位取得による科目免除」、「特定資格取得による免除」、「国税従事による科目免除」の3つがあります。
まず「学位取得による科目免除」は大学院の単位取得により認められ、税法に属する科目であれば2科目、会計学に属する科目であれば1科目が免除されます。
次に「特定資格取得による免除」は弁護士もしくは公認会計士の資格を保有していることで認められ、全科目が免除されます。
最後に「国税従事による科目免除」では国税局などで国税従事者として働くことで認められ、所属していた年数によって一部科目の免除か全科目免除かが変わります。
ただし、公認会計士など全科目免除を受けられる資格は一般的に税理士よりも難易度が高いとされているため、初めて勉強するという受験生が最短および効率的に合格を目指すのであれば、官報合格もしくは大学院の単位取得による免除を利用しての合格を目指すのが一般的とされています。
ここまで税理士試験における、受験科目の選び方や勉強方法について見ていきましたが、最後に試験勉強全体での注意点を紹介します。
ご自身の生活を守るためにも、働きながら税理士試験の勉強をするという方が多いです。もちろんそれ自体は全く問題ないのですが、職場環境の良し悪しが試験勉強の量や質を担保できるかを大きく左右するという点は認識しておく必要があります。
繰り返しにはなりますが税理士は難関資格であるため、市場価値は高いです。
その一方で、税理士事務所や税理士法人、一般企業の経理職以外で活かせる職場は限られているため、全く税理士と関わりのない仕事をしている場合は、試験勉強に対する理解や応援する環境がある職場であるケースは少ないでしょう。そうなると、残業で思うように勉強できなかったり、予備校に通学できない可能性も出てきます。
税理士資格が最大限に活かせる職場である税理士事務所や税理士法人は、試験勉強を応援する環境が整備されているケースが多くありますので、そのような職場に転職して勉強を進めるのが良いでしょう。
税理士試験は合格率が一桁台であることが当たり前の難関資格です。いかに上手く、いかに長く勉強したとしても、合格できないというケースも往々にしてあります。
税理士になる一番のメリットは、税理士有資格者にしか許されない業務である独占業務を行えることです。これは一部科目の合格のみであったり、全科目合格しても税理士登録していない人が行うことが出来ません。つまり税理士になるまでは、知識の習得や転職・就職活動でのアピールはできるものの、新しい仕事ができるわけではないのです。
そのような資格試験の合格に拘って多くの時間を割いてしまうのは、場合によっては勿体ない可能性もあります。例えば、転職活動のアピールポイントとして資格取得を目指している場合については、*一部科目を持っているだけでもかなり有利*になります。また、もし1科目も持っていない場合でも日商簿記2級の勉強に切り替えて取得することでも、転職への近道になるでしょう。
このように、幅広い選択肢を見据えながら試験勉強を進めていくことをオススメします。
税理士試験の応援環境がある事務所で働きたい、資格を活かして転職したい、という方は、士業・管理部門特化の転職エージェントである「ヒュープロ」を是非ご活用ください。業界最大級の求人数を誇るため、ご希望にマッチした求人を多数ご紹介することが可能です。また、一人では行うことが難しい書類添削や面接対策でもご登録者様から高い満足度を頂いているため、転職にご不安を抱えている方につきましても、お気軽にご相談いただけますと幸いです。
今回は税理士試験の合格方法について、解説しました。
最短で税理士に合格するには、科目選び、その他の資格からの取得、大学院など戦略がとても大事になります。
税理士になることが最大の目的であれば最も早く取得できるコースを選択し、仮に遠回りになったとしても将来に役立つ勉強がしたいのであれば選択科目は慎重に選ぶ必要があります。