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税理士の簿記論と日商簿記1級、どちらが難しい?

公認会計士 大国光大
税理士の簿記論と日商簿記1級、どちらが難しい?

難関資格の一つとされる税理士試験には、様々な科目が存在します。そのうちの登竜門と言われる科目が簿記論です。一方で、税理士試験の受験資格の一つにもある日商簿記1級試験。転職の際に履歴書に書いてあると採用担当者にも積極的にアピールできる資格の一つと言えるでしょう。それでは、この税理士試験の簿記論と日商簿記1級、どちらが難しいかを現役公認会計士が解説していきます。

簿記論と日商簿記1級の合格率による違い

税理士試験の簿記論の合格率は例年12〜13%程度で推移しています。つまり、10人に1人以上は受かる試験と言えます。
一方で、日商簿記1級は10%前後を推移しており、6%程度の時もあれば13%程度の時もあり、波があると言えます。
これだけ比べると同じくらいもしくは日商簿記1級の方が難しいのではと思われるかもしれません。しかし、税理士試験の簿記論は日商簿記1級合格者も多く受けていることから母集団としてはより高いレベルの受験者がいると考えられます。というのも、日商簿記1級に合格してから簿記論を受ける人はとても多いですが、簿記論に受かってから日商簿記1級を受ける受験者はそれほど多くないと言えるからです。

また、資格取得に積極的な企業であれば日商簿記1級に合格したら給与がアップするという会社もあります。しかし、会計事務所を除き一般事業会社の場合は簿記論を取得していても給与アップが無かったり、それほど上がらなかったりすると、日商簿記1級の方が受験する意欲が高まるとも言えます。中にはあまり勉強しなくてももしかしたら受かるかもという軽い気持ちで簿記1級を受ける人もいるかもしれません。
これらを考えると合格率では日商簿記1級の方が低いように見えますが、実質的には税理士試験の簿記論の方が難易度は高いものと言えます。また、日商簿記検定は年に2回受験できますが、税理士試験の簿記論は年に一度しかありません。よって、簿記論の1回の試験にかけてくる熱意も相当なものになるでしょうし、過去に複数回受験した上での受験生も多いことから、簿記論の受験生の層は厚いものと考えられます。

簿記論と日商簿記1級の範囲による違い

簿記論と日商簿記1級の範囲はそれほど違いがありません。どちらもいわゆる会計処理全般を問われる試験であるからです。
しかし、その内容の深さは全く異なります。まず、試験問題にしても簿記論は日商簿記1級の5倍程度のボリュームがある上に試験時間は日商簿記1級が1時間半に対して簿記論は2時間でその問題を解かなければなりません。よって、簿記論は理解力に加えてスピードも要求されます。
また、内容についても日商簿記1級についてはしっかりと勉強していれば満点も狙うことができる難易度ですが、簿記論ではその試験委員の色も出ますので、いやらしい問題も少なくはありません。このような問題を捨て問として見切る能力があればいいですが、そこに固執してしまって取れるはずの問題も取り損ねてしまうかもしれません。また、捨て問と思っていたら実は言い回しの違いだけで簡単な問題にもかかわらず取りこぼすかもしれません。
これらを考えるとやはり税理士試験の簿記論の方が難易度は高いと言えます。ただし、日商簿記1級には工業簿記や原価計算が存在することから、それらを苦手とする受験生からすると、簿記論の方がとっつきやすいという人もいるかもしれません。

簿記論と日商簿記1級、勉強時間の違いは?

とある専門学校のパンフレットによると、簿記論にかかる勉強時間は450時間、日商簿記1級にかかる勉強時間は700時間とあります。しかし、簿記論にかかる時間は日商簿記1級程度の知識を有している前提と考えられる為、実際には800時間程度はかかるものと思います。ですので、簿記論と簿記1級どちらを受けようか悩んで簿記論にするよりも、簿記論を学ぶために簿記1級を取得しつつ勉強するほうが効率的であると言えます。
ちなみに、簿記1級に合格すると簿記論の範囲の8割程度をカバーできるという話が良くありますが、逆に簿記1級でしか使わない原価計算等もあるため、どちらを優先して取得するかを考えて効率的に勉強する必要があります。

簿記論と日商簿記1級、就職の際はどちらを取得するべき?

このように、簿記論の方が難しい試験であることはよくわかったと思います。ではこの両者を比べた時にもやはり簿記論を取ることが正解かというと、その先にどのようなキャリアを進むかによって異なります。
会計事務所に就職するのであれば、断然簿記論の取得をお勧めします。難易度が高いということと、今後財務諸表論、税法と順当に税理士としての道を進んでいくこともアピールできるからです。
一方で、一般事業会社の場合は簿記論を持っていても、採用担当者があまり資格について詳しくないと、日商簿記1級よりも下の資格と勘違いしてしまうことがあります。反対に日商簿記1級は難易度がわからなくても周りに持っている人はあまりいないはずなので、評価の対象となりやすいと言えます。もっとも、日商簿記1級合格後に簿記論を取得するという流れで両方獲得できたらさらに良いというのは言うまでもありません。

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
カテゴリ:資格試験

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