「制度会計」と「管理会計」という言葉を聞いたことはあるでしょう。どちらも企業で働く会計人材が携わる主要な業務です。数値という同じ材料を料理するものの、両者はその目的が異なるため手間も出来上がりも大きく異なります。端的に言えば目的が違うのです。
まず、制度会計について。企業内の業務区分でいえば、たとえば「決算」と呼ばれるものが該当します。一言でいうとこちらは「義務として行う会計」です。制度会計は基礎となる法令に応じて「財務会計」と「税務会計」に分かれますが、いずれもその目的は「外部の利害関係者に財務数値を報告すること」です。そのため一定程度の客観性・比較可能性が求められ、会計基準や税制など従うべきルールも明確です。
実務上は、携わる部門は基本的には「経理部」です。また、季節性の強い業務であり繁忙期は期末日~株主総会までの約3か月です。1年間の企業の業績を財務諸表として定量的に集計し、有価証券報告書などの報告書類を作成します。
先のような目的のため企業によって大きく業務内容が変わることはありませんが、業種・業態によって工数をかけるポイントは異なります。たとえば全国に多数の販売拠点を有する小売業では減損会計の影響が大きく、協議も含め会計処理に相当の工数を割く傾向があります。
その他の特徴として、制度会計には外部のチェック者が関与します。すなわち監査法人や顧問税理士です。彼らは企業の敵ではありませんが、決算で固めた数値のチェックを第三者として行い必要に応じて修正の指摘を行うため、感覚的には厄介な相手です。
このように制度会計は、決められたルールに従い、過去~現在までの企業の業績を数値に起こす業務であり、その点において過去志向といえるかもしれません。
次に管理会計について。企業内の区分でいえば、「予算管理」などと呼ばれるものが該当します。こちらは「経営のために必要な範囲で行う会計」です。もっと自由です。極端な話やらなくてもいいものです。何故かと言えば、管理会計の目的は、経営に必要な範囲・濃度でやればいいのです。
実務上携わる部門はまちまちですが、最終的な取りまとめをする部隊はいわゆる「経営企画部」のような部署が一般的かと思います。毎年の予算編成業務は事業年度の後半(3月決算であれば1月~2月)にピークを迎えますが、制度会計と異なりそれ以外の非定型の突発業務も多いです。経営会議などで検討されたトピックに応じて、特定のセグメントの業績推移や特定製品群の採算性を分析したり、組織の変更に応じた費用配賦のシミュレーションをしたり、その都度経営層のメッセージをくみ取り定量的に「視える化」することが求められます。
先のような目的もあり、業種・業態、さらには企業ごとに分析手法にバラツキがあるのも特徴です。一般的な分析の切り口としては「地域別」「チャネル別」「製品グループ別」などが挙げられます。この切り口のあんばいは市場環境に大きく左右され、成熟市場では分析軸まで含めコモディティ化が進んでいることもあります。また、金額以外の分析軸が同等以上に重要視されます。たとえば販売数量やシェアは、営業マンのような現場部門へのメッセージとしては明確であるため、現場向けKPIとして用いられることも多いです。
その他の特徴として、会計人材以外の多数の部署との協働が重要になります。予算一つとっても、販売部門や製造部門、人事労務部門や物流部門等々あらゆる部署とコミュニケーションをとる必要があります。経営企画部門のみでの机上の空論では管理会計の実行は難しいです。経営層のメッセージを反映させつつも、現場部門への「ニンジン」になるような予算及びKPIを作りこむことが肝要です。
このように管理会計は、経営層のニーズに応じて企業の現在~未来(のあるべき姿)を数値に起こす業務であり、その点において未来志向といえるかもしれません。
さて今まで見てきた制度会計と管理会計ですが、どちらの方が大事でしょうか。教科書的に言えば、「どちらも大事」です。最初からどちらかに特化するつもりでステップアップするのはお勧めしません。たとえば、前提知識として制度会計のスキル・経験を備え、それを活用して状況に応じた管理会計業務に取り組んでいく、というステップがベターなように思います。
なお、教科書から離れた個人的な意見としては、管理会計の目線というのは避けて通れず、キャリアアップするほど重要になっていくと考えられます。サンプル数は少ないですが諸先輩方の話を聞く限り、CFOの目線でいうと制度会計よりも管理会計の見地を求められる機会の方がずっと多いようです。
制度会計も管理会計も企業の根幹的な業務の一つであり、今後もなくなることはないでしょう。ただし、「IT」に奪われる業務は少なからず存在します。特に制度会計においては、伝票起票や売上債権の消込・調整など定型的な割合が多い業務は今後RPA化が進むといわれています。ロボットに取って代わられないような「考える会計人材」であり続けることがより重要になっていきそうです。
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