公認会計士試験合格者となった後には3年間の実務経験または実務補習の修了、修了考査合格の3つの要件を満たす必要があり、これを満たさないと公認会計士を名乗って仕事はできません。本記事では、その中でも修了考査について、試験から合格発表の日程や受験者の合格率、勉強のスケジュールなどについてご紹介します。
修了考査とは、公認会計士を目指す人が論文式試験に合格後、実務経験および実務補習の受講を終えた後に合格する必要がある試験のことです。
公認会計士試験に合格後は公認会計士準会員という肩書が与えられます。その後、正式な公認会計士になるためには、3年の実務経験や実務補習をこなして、修了考査に合格して名簿登録をする必要があります。そうすることで晴れて「公認会計士」になることができるのです。
修了考査では、以下5つの科目を2日間にわたって受験する必要があります。
①から③は試験時間が3時間、④は2時間、⑤は1時間となっています。そのため修了考査は2日間に分けて計12時間で実施されます。科目は選択式などではなく全科目を受験する必要があり、筆記試験になるため、かなりハードな試験だといえるでしょう。
日本国内における会計に関する理論と実務という広範囲にわたるものであり、実務補習で勉強する内容が中心となります。
内容としては、公認会計士が財務管理や監査業務をメインとしていることがうかがえる科目です。また③の試験では、法人税、所得税、消費税、相続税という国税と地方税に関する幅広い知識を問われるのが特徴といえます。
2023年(令和5年)の修了考査は下記のような結果でした。
それぞれの数字について見ていきます。
受験者数は1,958名で前年の2,000名から42名減少しました。
ただ直近10年の平均は約1,864名であり、その数値よりは高水準であったことが分かります。
一方、合格者数は昨年より103名増加しており、それにより合格率も76.4%と昨年の69.6%に比べて6.8%上昇し、修了考査の開始以来、過去最高の数字となっています。
昨年からそれぞれの男女比や合格者の年齢についても発表されているので、より詳細に傾向が見られるようになっています。
男女比については男性の比率が圧倒的に多く、合格者の平均年齢が29.8歳であったことから2,30代が多いことも推測できます。こちらは公認会計士試験の論文式合格者の傾向と同様です。
結論から申し上げますと、受験者にとっては著しく難関ではないが、一般的には難しい内容です。どういうことでしょう??
修了考査は公認会計士試験に合格した人だけが受ける試験の為、受験者の習熟度合いはかなり高いと言ってよいでしょう。
さらに論文式試験合格後の実務補習や実務経験を積んだ上での受験となるため、試験の対策や勉強をする前からかなりの資質を持っているのです。
もちろん、修了考査までの期間が勉強しやすい環境であるのは間違いありませんが、1週間前からの「詰め込み型」の勉強でも合格する方はいるのが実態です。
過去17年の合格率を分析してみました。
上述の通り、令和5年度(2023年度)の合格率は過去17年間で最も高い76.4%となりました。
これまで、過去17年の傾向としては、合格率が高かった翌年は合格率が低くなるという繰り返しが多かったため、受かりやすい年があるといわれることもありました。
しかし最近では、最も合格率が低かった2018年からの3年間以前を過ぎた後は増加傾向が続いており、今年は過去最高水準の合格率となりました。
修了考査の配点は科目ごとに大きく異なります。
会計・税・監査はそれぞれ300点、経営は200点、法規倫理は100点となっており、会計・税・監査の3つの科目だけで900点/1200点のため、この3科目で合否がほぼ決まるといってもよいでしょう。
特に会計と税は範囲が非常に広いため対策が必要であり、公認会計士試験の受験時に租税法が苦手だった場合は、はやめに勉強を始めることが重要です。
会計は試験範囲が非常に広いことが特徴で、短答式・論文式試験の財務会計論に加えて、IFRSや税効果の回収可能性分類、開示論点などを学ぶイメージです。
公認会計士試験時代に苦手意識があった場合は、答練を軸に学習を進めながら、テキストに立ち戻りながらの学習が有効でしょう。
上述の通り、この科目を落とすことは非常にダメージが大きいため、合格水準を超えられるよう、広い試験範囲の中でも自分にあった最適な学習プランを考えることが重要です。
修了考査の中でも最も壁となるのはこの税科目であるといえるでしょう。難易度も非常に高く試験範囲が非常に広いため、苦手な方はとにかく早く対策を始めることが重要です。
得意だった方でも、監査法人では税金に触れる機会があまり多くないうえに、事業税や相続税、グループ通算税制など公認会計士試験では出題されない範囲も多いため、十分な時間を割いて対策することが必要です。
監査の内容としては、監査の実務でありそうな状況を提示されて、「この場合はどうするべきか?」といった問題が多く、実務経験が重要となってきます。さらに答えのほとんどは監基報に載っているため、日ごろの経験をベースにして答練を軸に学習を進めながら、理解が不十分な箇所については監基報などで確認するのがよいでしょう。
経営科目は、いわゆる経営学にあたる分野が100点、IT分野が100点と分かれており、それぞれ学習が必要です。
経営学分野は、基本的に各種指標の計算問題など突飛な問題は出題されないため、答練やテキストなどの計算方法を身に付け、繰り返し練習することで対策できるでしょう。
IT分野については、馴染みがない場合もあるため、テキストなどを一通り見て学習し、頻出用語は単語と定義を書けるように対策することが有効でしょう。
職業倫理科目は、配点は低いですが意外と範囲が広く、この科目で足切りを食らうこともあるため注意が必要です。倫理規則の主要部分を通読し、頻出用語とその定義は書けるように対策したり、また補習所の法規倫理分野の問題を活用して学習するのもよいでしょう。
人によりますが、早い方ですと修了考査試験を受ける1年以上前から、遅い方ですと試験の1週間前からという方もいらっしゃいます。一般的には夏頃から始める人が多いですが、必要な勉強時間は、受験生のバックグラウンドにより大きく異なるでしょう。
修了考査では幅広い税務関連の知識が求められるため、受験生時代に租税法は苦手だったが他の科目でカバーした方や、監査法人での実務の中で税金周りの科目を担当したことがない方は相当期間の勉強が必要だといえるでしょう。
また、実際に監査法人での勤務経験がなく、事業会社の経理部門のみという方などの場合も、早めに勉強を始めることをおすすめします。
また、監査法人にお勤めの方ですと試験休暇が10日間与えられ、有給休暇と併せて3~4週間ほど試験勉強期間を設ける方が多いです。ただ監査クライアントの決算期によっては全く休みを取れない方もいらっしゃいます。
ここからは、修了考査が行われる試験日程のスケジュールと、直近の試験の日程について見ていきましょう。
例年であれば修了考査試験は、12月の第2週目の土日に2日にわたって実施されます。
試験日程の発表は、例年4月の中旬に、日本公認会計士協会のHPにて発表されます。例年の出願期間は、10月の中旬から11月の初旬までで、インターネットから可能です。
合格発表は翌年4月初旬であり、同時に前年度の試験問題と解答用紙もPDFで閲覧できるようになります。
令和6年度(2024年度)の修了考査は、12月14日(土)・12月15日(日)に実施予定です。
合格発表は令和7年(2025年)の4月4日(金)を予定しています。
では、ここからは修了考査に合格した後の流れについて見ていきましょう。
公認会計士試験に合格し、3年間の実務経験や実務補習制度を経て、晴れて修了考査にも合格した後にしなければならないのが、公認会計士登録です。
そして、試験後から並行しての就職活動を継続しましょう。この章では、特に公認会計士の登録について詳しく説明します。
公認会計士登録にあたり、必要書類を準備し、日本公認会計士協会に提出する必要があります。その後、毎月1回の登録審査会開催日での審査会で書類が問題なく受理されると、公認会計士登録が完了となります。年にもよりますが、審査会での受理から1週間ほどで登録通知が届くようです。
公認会計士登録に必要な書類は、19種類あります。(詳細は以下リンクの日本公認会計士協会WEBの3ページ目を参照)
その書類の中でも大きく2つに分けられます。1つは、各地域のお役所で手続きが必要な住民票や戸籍謄本。もう1つは金融庁や法務局、監査法人に書類作成を依頼して入手する「業務補助等の報告書受理番号通知書の写し」「登記されていないことの証明書」「勤務証明書」です。
〈参考記事〉
修了考査に不合格だった場合、再度受験することが可能です。
修了考査の合格率は、約70%です。逆にいうと約30%の方々は、不合格となる試験です。不合格となった場合にどうなるかというと「悔しい」という精神的な影響だけで、実務上はそんなに困ることはないといわれています。
ただ、監査法人にお勤めの方で公認会計士の資格が無いと主査を担えないという可能性や、税理士登録をして独立開業するための期間が長引くという可能性はあります。
なお、公認会計士試験の短答式試験とは異なり、期限付きの免除期間が設けられる訳ではありません。そのため不合格後も何回でもチャレンジ可能です。
では、実際に修了考査に合格して公認会計士として登録した後には、どのようなキャリアが描けるのでしょうか?
ここからは、公認会計士の方に人気な就職先についてご紹介します。公認会計士は幅広い分野で需要があり、さまざまな職場で活躍できる専門家です。資格を活かしてどんな働き方をしていきたいかというキャリアプランに応じて、就職先も決めていきましょう。
監査法人とは公認会計士法に基づき、会計監査を行う法人のことです。
公認会計士の約9割ほどが監査法人に就職するといわれ、最も代表的な就職先と言えます。
公認会計士は税理士試験の全科目が免除されるため、税理士として登録し、
税務申告や税務のコンサルティングを行う税理士事務所に就職するのも選択肢の一つです。
将来的に独立を考えている公認会計士の方に人気なのがコンサルティングファームです。
中でも、公認会計士は財務・会計に関する高度な専門知識を活かして、特に会計領域のコンサルティングで活躍することが多く、企業の経営改善やリスク管理、M&Aアドバイザリーなどの業務に携わります。特に財務やM&Aに特化したコンサルティングファームは「FAS(Financial Advisory Service)」と区別され、近年注目を集める就職先の一つです。
企業の財務諸表作成や税務申告が主な仕事で、税制や会計基準が複雑化するのに対応し、企業の財務健全性を維持するためのアドバイスを提供します。管理部門や経理職において、企業内会計士として一般企業の中で会計士として働くことが多いです。
〈参考記事〉
最後に、修了考査に合格した後に転職する場合のスケジュールについてご紹介します。
公認会計士の転職活動・就職活動は実は修了考査の前後から始まっています。正式に公認会計士として登録したタイミングで、年収アップやスキルアップのために、転職・就職を希望する方が大きく増加します。今回は就職までの準備について、弊社のキャリアエージェントが実際にご支援した公認会計士の方の転職体験を基に解説します。
転職先の情報収集は、試験の合否に関わらず、いずれ必ず必要な情報になってきます。そのため、試験後すぐにでも情報収集を始めて他の受験生に一歩リードしたほうが良いでしょう。公認会計士として先述した就職先のうちどこに行きたいかという方向性も決めておく必要があります。
皆さんそれぞれが将来、転職後にやりたいことがあるかと思います。独立したりベンチャーの社外取締役になったりと、さまざまな選択肢があります。いずれにしても、将来的な大きな目標を見据え、転職を経てどのように成長したいかや転職の目的をはっきりさせる必要があります。修了考査後の転職は、人生の岐路の一つですので、ぜひ有意義な選択になるように考え抜きましょう。
一般的に、応募から選考を経て、内定までは通常1~2週間です。この短い期間の間で、どこに入社するか決める必要があります。事前の情報が不足していると焦って決めることになってしまうので、事前に情報収集することが重要です。入社する会社を決めた後には、現在勤務している会社に辞表を出して入社準備を行います。
応募先の会社の業界によっては求人が多く出るなど採用活動を活発に行う時期もあるため、こうしたタイミングなども考えながら転職活動を行うことが重要です。
〈参考記事〉
個人で転職活動を行う場合、数ある公認会計士の転職先の中から応募する企業を選び、企業研究や選考対策を行うとなると、かなりの時間が必要です。さらに働きながらであることを考えると、さらに時間と労力が必要となるでしょう。
そこでオススメなのが、転職エージェントを利用して効率的に転職活動を進める方法です。
就職・転職活動にあたって、自分で応募する求人を探したり面接の日程調整をするのは骨が折れるものです。そこで活用すべきなのが人材エージェントです。希望の条件やご自身の経歴などを伝えることで効率的に求人を提供され、日程調整もエージェントが実施してくれます。また書類添削や面接対策といった選考準備に対しても、専任アドバイザーによるサポートが充実しています。
さらに業界特化型エージェントにおいては、金融機関や士業バックグランドを持つ人材の転職支援実績を多く有しているため、企業として一定の選考に係るナレッジや企業とのパイプラインを有しており、転職に関するリアルな情報提供が可能です。
士業・管理部門の転職エージェント「ヒュープロ」では、監査法人や公認会計士事務所、一般企業の財務職などでの転職をお考えの皆様のキャリアをサポートさせていただいております。
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今回は、公認会計士の修了考査について解説しました。
修了考査の概要を早めにつかみ、適切な対策をすれば、大きく失敗することはありません。また、試験終了後も気を抜かず就職活動を行い、転職エージェントをうまく使えば着実に目標へ近づけます。各段階でやり残すことがないように一つ一つ準備して行きましょう。