MBO(Management Buy Out)は、出資者である株主(委任者)から企業経営について委任を受けた経営者(受認者)が、自らその発行済株式を取得し、当該会社の支配権を取得する企業買収の一形態を意味する言葉です。この記事では、MBOについて詳しく解説し、なぜMBOを行なうと上場廃止となるのかについても解説していきます。
M&A(合併・買収)には様々な方法がありますが、誰が買収や合併を行なうかによって細分化することができます。経営者や経営陣が株主から自社株式を買い取ることは、MBO(Management Buy Out)と呼ばれます。この他にも、従業員が勤務先の企業から株式を買い取り、経営権を得ることは、EBO(Employee Buy Out)、譲受企業が譲渡対象企業の資産や今後期待されるキャッシュフローを担保として、金融機関等から資金調達をして買収を行うことは、LBO(Leveraged Buy Out)と言います。
MBOは、経営者や経営陣が株主から自社株を買い取ることを意味しますが、なぜこのようなことを経営陣は行なうのでしょうか?それは、経営者や経営陣が株式を公開するメリットがないと判断したからです。また、MBOは、もともとの創業者とは違う経営者が、事業の継続を前提として、創業者から株式を買取り、経営権を取得するためにも使われています。経営者や経営陣がMBOを行なう際には、自己資金で株式を買い取ることもありますが、金融機関からの融資や投資ファンドからの出資によって買収資金を調達するのが一般的です。
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・株式会社アデランス(2016年)
株式会社アデランスが2016年に投資会社インテグラルを通してMBOを行いました。当時、当社は経営不振に陥り、新しい経営者を招き、経営改革を抜本的に進めるためにMBOを行い、上場廃止をしました。
・株式会社幻冬舎(2010年)
幻冬社が2010年に、冬幻社の関連会社であるTKホールディングスを通してMBOを行いました。上場維持のコストがかさみ、みずほ銀行が貸付を行い上場廃止をしました。
・吉本興業株式会社(2009年)
吉本興業が2009年に、テレビ局やソフトバンク、ヤフー、広告代理店などの出資と銀行からの借入により500億円を調達し、MBOを行いました。東南アジアへの進出を積極的に進めるために実施されたと言われています。
MBOを行なうにあたっては、まず、経営者・投資ファンドなど、マネジメント・バイアウトを主導する買収グループが、買収のための買収目的会社を設立することから始まります。その後、買収目的会社が、買収対象となっている会社ないし事業部等が所有する資産、あるいは将来キャッシュフローを担保として、投資ファンド等の出資金や金融機関等の借入れ資金を得て、買収対象会社株主の株式を買い取っていきます。その後、買収目的会社が、買収対象となっている会社を吸収合併などすることでMBOが完了します。
MBOは、米国で誕生した買収方法の一つで、1970 年代中頃に新しい取引形態として登場し、1980 年代には一般化して、その総額規模は 1986 年から 1989 年の間におよそ年間 500 億ドルにまで成長しました。日本においても、1990 年代後半から 2000 年代初めにかけて、MBOの件数は、年々増加しており、2019年現在まで微増し続けています。
もともと、MBOは、保有事業の取捨選択に迫られた経営者、または経営陣が投資会社等からの投融資を得て、実行したものでした。特に日本において多かったのは、企業の子会社や、非中核の事業部を分離・独立させることを目的として、この子会社や事業部門の事業部長等が事業譲渡ないし株式を取得することで、従前の事業を前提として、分離・独立した後、事業の執行を継続して行われていました。
しかし、近年、MBOの目的は変化し、事業部門の分離・売却を目的としたものではなく、主として株式市場からの退出を意図した会社の非公開化を目的として行われることが多くなっています。
経営者や経営陣が株主から株式を買い取ってしまえば、市場から当該会社の株式がなくなるので、株式は必然的に上場廃止となります。もちろん、全ての株式を買い取らずに一部の株式を購入する場合もありますが、この場合は、MBOとは呼ばず、自社株買いと呼ばれるのが一般的です。
MBOによって会社を非公開化するという方法は、会社が上場していることから生じる様々なコストを削減できる可能性がある一方で、改めてなぜ会社が上場したのかという点について、その意義が問われることになります。
MBOは、従来の子会社や事業部の経営者・事業部長等の経営陣のみで新会社の経営陣を構成するのが一般的であるので、当該会社内部の状況を十分把握している元々の経営陣が引き続き経営を担うために、買収後の事業計画の見通しを立てやすいというメリットがあります。こうしたメリットがあることから、日本でもMBOによって非公開化する企業が増えてきています。
しかし、会社の非公開化を目指したMBOは、上場会社の少数株主を締め出す(スクイーズアウト/squeeze out)ことによるゴーイング・プライベート(going private)取引であることから、少数株主の利益を損ねる取引であり、法的に訴えられる可能性があるというデメリットがあります。日本におけるMBOが、経営権をスムーズに継承し、事業を継続させ、株主からの意見に左右されることなく経営方針を決定することができ、長期的な視点で経営することを目的として行われているとは言え、既存の株主との軋轢を避けることができない点には注意が必要です。
MBOによる上場廃止(非公開化)は、M&Aの手法の一つとして、従来から注目されていました。MBOによる上場廃止には、上記で説明したような様々なメリットがあるものの、もちろん、デメリットもあるので、きちんとそれを理解して実行する必要があります。そのためには、まずはMBOについてきちんと理解した上で、上場廃止までの手続きをとるようにすることが大切です。