「課税対象額」とは、所得税などを計算するためのベースとなる金額です。本記事では、給与明細における課税対象額の見方、その計算方法、さらには節税に役立つヒントまで、分かりやすく解説します。
「課税対象額」とは、毎月の給与明細に関係する重要な金額です。
あまり聞きなじみがないかもしれませんが、税金の計算に使われるため正しく理解することが大切です。 ここでは、課税対象額の仕組みをわかりやすく解説します。
「課税対象額」を理解しておくことで以下のようなメリットがあります。
給与明細を「なんとなく見る」から「意味を理解して見る」ことで、納税への意識も大きく変わります。
給与明細は主に「勤怠」「支給」「控除」の3つの項目で構成されています。
その中で、税金の計算に関わるのが「課税支給額」や「課税対象額」です。
用語の違いを整理しておきましょう。
総支給額 | 基本給+残業代+各種手当の合計 |
非課税手当 | 通勤手当など、税金がかからない支給分 |
課税支給額 | 総支給額 − 非課税手当 |
社会保険料 | 健康保険・厚生年金・雇用保険などの控除額 |
課税対象額 | 課税支給額 − 社会保険料 |
つまり課税対象額は、総支給額から非課税手当と社会保険料を差し引くことで求められます。
それでは、給与明細の参考例をもとに、「課税対象額」の計算方法を見ていきましょう。
参考例)
給与明細表の「支給」項目の合計、つまりD:支給合計が、「総支給額」と呼ばれます。
「総支給額」は下記のとおり、A:基本給とB:残業手当とC:非課税手当の合算になります。
ステップ①のD:支給合計からC:非課税手当(例:通勤手当)を差し引くと、E:課税支給額が算出されます。
ステップ②の課税支給額から、F:社会保険料を引いたものが、「課税対象額」と呼ばれます。
給与明細に「課税対象額」が明記されていない場合でも、上記のステップで算出することが可能です。この「課税対象額」をもとに、会社が源泉徴収する所得税を計算します。
所得税は、1月1日〜12月31日までの1年間の所得に対して課される税金です。会社員も個人事業主も、一定以上の収入がある場合は納税義務があります。
所得税の基本的な計算式は、「課税所得 × 税率 − 控除額」です。
ただし、注意点があります。2037年までは「復興特別所得税」が上乗せされるため、計算した所得税にさらに2.1%を加える必要があります。
つまり、最終的な所得税額は下記のとおりです。
所得税の計算方法をさらに紐解いていきます。主に5つのステップで計算することができます。
まずは、その年に得た収入の合計を確認しましょう。
会社員やアルバイト、パートなどの給与所得者は、基本給に加えてボーナスや各種手当などを含めた年間の給与総額が収入となります。
個人事業主の場合は、1年間の売上が収入にあたります。副業収入や不動産収入なども含まれる場合があります。
所得税は年収ではなく、「課税所得」に対して課されます。課税所得の算出方法を見ていきましょう。
「経費」は個人事業主と会社員で以下のような違いがあります。
個人事業主の場合:「必要経費」
実際に使った経費を、帳簿や領収書で証明して申告する必要があります。
仕入れ、交通費、通信費、家賃、消耗品などが対象になり、「必要経費」と総称されます。
会社員の場合:「給与所得控除」
会社員には、個人事業主のように領収書を集めて経費を申告する仕組みは基本的にありません。代わりに、「給与所得控除」という制度があり、これが必要経費の代わりとして機能しています。年収に応じて控除額が決まっており、自動的に差し引かれます。例えば、年収500万円の場合、令和7年現在で、給与所得控除は約144万円です。
出典:「No.1410 給与所得控除」
会社員の場合、年収から給与所得控除を差し引くと、「給与所得」が算出されます。
所得控除は、全部で15種類あります。そのうち年末調整で会社が対応してくれるのは12種類(例:扶養控除、配偶者控除)です。残りの3種類(例:医療費控除)は、自分で確定申告をする必要があります。
以上のように、②ーⅠで出た「給与所得」から、②ーⅡの所得控除を差し引いた額を「課税所得」と呼びます。
ステップ②で算出した「課税所得」をもとに、下記の表から「税率」と「控除額」を確認することができます。
■所得税の速算表(令和6年版)
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 194万9,000円まで | 5% | 0円 |
195万円 から 329万9,000円まで | 10% | 97,500円 |
330万円 から 694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
695万円 から 899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円 から 1,799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円 から 3,999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円 以上 | 45% | 479万6,000円 |
出典:所得税の税率│国税庁
所得税は累進課税制度のため、所得が高いほど税率も段階的に高くなります。
先ほど触れたように、所得税の基本的な計算式は下記になります。
この計算式に、速算表で該当する「税率」と「控除額」を入れると、所得税額が算出されます。
税額控除とは、上記で算出された所得税額から直接差し引くことができる控除です。
つまり、「課税所得 × 税率 − 控除額」で求めた税額に対して、さらに税額控除分を引くことで、最終的な納税額が減るという仕組みです。
代表的な税額控除の例として、住宅ローン控除や配当控除などが挙げられます。
先に触れたように、復興特別所得税(2.1%)が上乗せされます。
上記①~⑤のステップにならって、実際に所得税を計算してみましょう。ここでは、年収500万と想定します。
ステップ①:年間の収入を把握する
年収:5,000,000円(給与+ボーナス含む)
ステップ②:課税所得を算出する
②ーⅠ:給与所得控除を差し引く
給与所得控除(令和6年):1,440,000円 ※年収500万の場合
②ーⅡ:所得控除を差し引く
ここでは、以下3つの所得控除があると仮定します。
社会保険料控除 | 500,000円 |
基礎控除 | 480,000円 |
扶養控除(子1人) | 380,000円 |
②ーⅠで算出された3,560,000円から、さらに、3つの所得控除を差し引きます。その上で求められるのが、「課税所得」です。
ステップ③:所得税額を計算する
課税所得2,200,000円は、上の速算表の【税率:10%】 【控除額:97,500円】の範囲に該当します。
上記を踏まえて、所得税は次のように求めます。
ステップ④:住宅ローン控除を適用する
住宅ローン控除は、年末のローン残高の0.7%〜1%が所得税から差し引かれます。ここでは仮に控除額が100,000円とします。
ステップ⑤:復興特別所得税を加算する
復興特別所得税は、所得税額の2.1%を加算します。
最終的な納税額は、【22,972円】となります。
補足ですが、所得控除は「税率をかける前」に使い、税額控除は「税率をかけた後」に使います。
上記の場合、住宅ローン控除があることで、所得税の負担が軽減されることがわかります。控除額はローン残高や年数によって変動しますが、マイホーム購入者にとって非常に大きなメリットです。
所得税を少しでも軽くしたい――そう思ったときに知っておきたいのが、控除制度の活用です。先に触れた「住宅ローン控除」のほかに、所得税を抑えるためのヒントを3つご紹介します。
個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入すると、掛金の全額が所得控除の対象になります。さらに、運用益も非課税となるため、長期的な資産形成をしながら所得税を抑えることができます。老後資金の準備と節税を同時に叶えられる制度です。
個人事業主の場合は、確定申告を青色申告にすることで、最大65万円の「青色申告特別控除」が受けられます。そのためには、帳簿付けや電子申告などの条件を満たす必要があります。
ふるさと納税は、所得税や住民税の控除が受けられる税額控除に該当します。自己負担2,000円を除いた寄附額が控除対象となります。地域の特産品などの返礼品も受け取れるため、節税と地域貢献を両立できます。
冒頭に解説した「課税対象額」の計算方法を理解することは、所得税の仕組みを知る第一歩になります。
「課税対象額」は、毎月の給料からどれくらい税金を引くかを決めるための目安となる金額です。これは給与明細の中で使われ、会社が源泉徴収する所得税の計算に使われます。
一方で「課税所得」は、1年間の収入から必要な経費や控除を差し引いたあとに残る、最終的に税金がかかる金額です。
つまり、課税対象額は月ごとの税金の概算に使われ、課税所得は年末調整や確定申告で最終の税額を決めるために使われるという違いがあります。
給与明細を読み解き、控除制度を活用することで、手取り額の把握や節税につながります。住宅ローン控除やふるさと納税、iDeCoなど、生活に密着した制度を上手に使って、賢く税負担を減らしましょう。