公認会計士は常勤だけでなく「非常勤」として働くことも可能であり、希望の勤務時間や日数に応じて柔軟な働き方を実現することができます。他にも高い時給や独立した際の収入源など様々なメリットがある非常勤公認会計士について、今回は実際の仕事内容や時給、求められるスキルについて解説していきます。
公認会計士には、週5日のフルタイム勤務だけでなく、週3日や時短等の「非常勤」という勤務スタイルも存在します。一般事業会社でいう業務委託や契約社員に近いイメージです。働ける期間が決まっている有期契約になるので、一定の期間ごとに更新するのが一般的です。
子育ての時間を確保しつつ働きたい、起業準備の資金確保のために事業が安定するまでのつなぎとして働きたい等、フルタイムで働くことが厳しい公認会計士の場合は、監査法人での「非常勤勤務」を選ぶことがあります。
ここからは、非常勤公認会計士の働き方を見ていきましょう。
勤務日数は、本人の希望の元、雇用主との合意により形成されるため人により異なります。週2~3日のみ働く人や月で10日のみといった雇用契約を結びますが、一般的には年間100日以上で契約する人が多い傾向にあります。
勤務時間についても、非常勤という雇用形態だけに非常にフレキシブルです。週に数時間や特定の時間のみ勤務するなど流動的であり、フルタイム勤務者よりも短いのが一般的です。
基本的に残業はありませんが、決算期などの繁忙期においては、追加の勤務時間を要求される場合もあります。
ここからは、非常勤公認会計士の仕事内容について解説していきます。
基本的には監査スタッフとしての契約が大半のため、会計監査が主な業務となります。具体的には、財務諸表や内部統制での監査、IPO支援などが挙げられます。
ただ監査法人によっては、公的機関の監査やM&Aアドバイザリー業務などに従事するケースもあります。
いずれにしても、プロフェッショナルな知識と経験を活かして、監査業務に取り組みます。
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監査法人によって異なりますが、補助的に業務をサポートする場合もあれば、常勤と同じように主査業務を行うこともあります。
いずれにせよ、他のスタッフやチームと協力して、クライアントの会計上の課題を解決することが求められます。
では、ここからは気になる公認会計士が非常勤で働く場合の時給を見ていきましょう。
結論から申し上げますと、スキルや実務経験によって時給は変わりますが、一般的に非常勤の公認会計士の時給は4,000~10,000円ほどとなります。
仮に時給10,000円で1日6時間、月10日勤務の場合だと、単純計算で月収60万円になります。
なお、厚生労働省が発表した令和4年の最低賃金である961円と比較すると、非常勤会計士の時給の高さはイメージしやすいのではないでしょうか。
さらに、非常勤公認会計士の時給の水準を知るために、常勤の公認会計士の時給と比較してみましょう。
以下、公認会計士の時給について、監査法人に努めている公認会計士の平均年収を時給に換算したものになります。
年齢 | 平均年収 | 時給換算 |
---|---|---|
29歳以下 | 667万円 | 3,781円 |
30~34歳 | 739万円 | 4,189円 |
35~39歳 | 887万円 | 5,028円 |
40~44歳 | 947万円 | 5,368円 |
45歳~ | 1,067万円 | 6,049円 |
1日7時間、月21日勤務として計算すると、常勤の公認会計士の時給は約3,700~6,000円であると言えます。
このように時給だけを見ると常勤よりも非常勤で働く方が高いように思えますが、社会保険や公認会計士協会の会費など自己負担金 も増える点に注意が必要です。
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また、働く職場の規模によっても時給は大きく異なります。
公認会計士の多くが勤務先として選ぶ監査法人を例に考えると、一般的に中小監査法人で働く非常勤公認会計士の方が、大手監査法人の非常勤に比べて時給が高い傾向にあります。
大手監査法人の時給相場は5,000~6,000円、中小監査法人では6,000~10,000円が一般的と言われています。
理由としては、中小監査法人は大手監査法人ほどの知名度や安定性がない場合が多く、公認会計士を確保しづらいため人手不足が深刻になりやすいことが考えられます。こうした事態を避けるためにも、中小監査法人は時給を高めることで求職や定着を促す必要があるのです。
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上述の通り、時給で考えた際に非常勤公認会計士の方が高いというメリットもありますが、自己負担金が多いというデメリットもあります。
ここでは、そうした非常勤公認会計士のメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。
上述の通り、非常勤の公認会計士の時給は4,000~10,000円であり、他の職種の非常勤と比較してかなり高収入を得られることはメリットといえるでしょう。私生活のために労働時間や勤務日数を減らすと、基本的に収入も下がってしまうケースが多いですが、非常勤公認会計士の場合には、労働時間を減らしても高い給与を得られるため、収入を保つことができるでしょう。
上述の通り、非常勤の公認会計士として働くにあたっては、勤務時間や日数を自身の希望に応じて決めて契約するのが一般的なため、希望に応じたワークライフバランスを実現しやすい点もメリットといえます。基本的に残業がなく、常勤として働くより勤務日数が少ないため、退勤後の時間はもちろん、閑散期など仕事がしばらくない時期には長期間の旅行を楽しむことも可能です。
また、公認会計士が非常勤として働くことは、独立開業した後に経営が軌道にのるまでの収入源確保の手段としても役に立ちます。さらに非常勤として働きながら、他の公認会計士との人脈を広げ、新たな顧客情報の共有などを行うことは独立後の事業拡大にも活かせるでしょう。
一方、非常勤の契約は一般的に1年ごとなどの有期契約で締結されることが多いため、雇用側の都合で契約が打ち切られるリスクもあり、長期にわたって働きづらいという点はデメリットといえるでしょう。
また、非常勤公認会計士として働いた後に他の業界へ転職する場合、非常勤として働いていたことがネガティブに捉えられることがある点にも注意が必要です。
非常勤は一般的に業務委託という雇用形態になるため、雇用される法人の社会保険には加入できず、有給休暇などの福利厚生も利用することができません。また、監査法人の職員であれば法人が会費を負担してくれる公認会計士協会の会費についても、非常勤の場合は個人で支払う必要があります。
そのため、こうした自己負担金が常勤で働く場合と比べて増えることはデメリットといえるでしょう。
時給で比較したときに非常勤として働く方が高く思えても、長期的に働くことを考えた際には必ずしも有利といえない点に注意が必要です。
また、非常勤の公認会計士として働く場合には、規模の大きい案件や業務に深く関与する機会が少ない傾向にあります。大手の場合グローバルに展開している法人がほとんどであり、グローバルで適用されているマニュアルを遵守する徹底した厳しさがあります。それらは社外秘のものでもあるため、信頼性の面からみても非常勤へ任せる業務は自ずと限定的となります。
さらに、既に経験やスキルの備わっている監査業務を任されることがほとんどで、未経験の仕事に携われる機会は少ないため、専門領域の広がりやスキルアップにつなげることは難しいといえるでしょう。
では、公認会計士の非常勤という働き方はどのような人に向いているのでしょうか。
公認会計士として独立開業したのちに、まず必要となるのがお金です。独立直後は、顧客も少なく収入が安定しないことがほとんどであり、地代家賃や研修代などで資金繰りが苦しくなることも少なくありません。非常勤の公認会計士として働くことで、当面の安定した収入を確保しながら、空いた時間で開業した事務所の営業や運営に時間を充てることも可能です。
子育てや介護などの家庭の事情で勤務時間を調整したい場合にも、柔軟な働き方が実現できる非常勤公認会計士は向いているといえます。常勤で監査法人で働く場合には、繁忙期の残業や出張があることが多いため、家庭と仕事を両立することは簡単ではありません。非常勤であれば契約の際に希望に応じて調整できるため、無理のない日数で働くことができます。
非常勤の公認会計士として働くことは、勉強や自己研鑽などスキルアップに時間をかけたい人にも向いているでしょう。弁護士などの資格やMBAなどを学ぶにあたり、勉強時間の確保は重要なポイントとなります。非常勤という働き方であれば、収入を確保しながらも勤務時間や日数を調整できるため、勉強に充てられる時間を保つことができます。
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ここからは、実際に非常勤の公認会計士として働く際に求められるスキルや資格について見ていきましょう。
非常勤公認会計士の求人では、監査経験が必須であることがほとんどです。非常勤として募集している背景は主に人手不足のためです。非常勤公認会計士を新たに採用しても、一から教育・研修することは基本的に少なく、すぐに働ける経験のある即戦力であることが求められます。
具体的には、監査業務5年以上程度のシニアスタッフレベルの実務経験が必要な求人が多いです。
株式会社ヒュープロでは、士業・管理部門に特化した転職エージェントサービス「ヒュープロ」を提供しております。
ここでは、ヒュープロで取り扱っている非常勤公認会計士の一部の求人をご紹介します。
・監査業務(国内・国際)を中心に、ご担当いただきます。部門ごとに案件を細分化していないため、横断的に業務を経験することができます。
・日本基準の財務諸表監査(金融商品取引法監査、会社法監査、各種業法に基づく監査、公開準備会社の財務諸表監査等)だけでなく、ご希望やご経験によっては、海外基準の財務諸表監査(国際監査基準に基づく監査、米国監査基準に基づく監査)もご担当していただく可能性がございます。
・契約期間:12ヶ月
・期間の定め:有
・試用期間:3ヶ月
・必須要件:公認会計士(※論文式試験合格者を含む)かつ3年以上の監査経験、またはUSCPA全科目合格、かつ3年以上の監査経験
・歓迎要件:主査(主任・現場責任者)経験 1年以上/ビジネスレベルの英語力
420〜560万円
・賃金形態:時給制
・時間額(基本給):6,000円~8,000円
・想定月額:330,000円~440,000円
・昇給:有
・財務諸表監査
日本基準の財務諸表監査(金融商品取引法監査、会社法監査、各種業法に基づく監査、公開準備会社の財務諸表監査、特殊法人監査、その他)/海外基準の財務諸表監査(国際監査基準に基づく監査、米国監査基準に基づく監査)
・内部統制監査
金融商品取引法に基づく内部統制監査(J-SOX)/米国企業改革法(404条)に基づく内部統制監査
・その他証明業務
※クライアント…MDS(非金融)/製造・流通・サービス業界(自動車・エネルギー、化学・医薬及びその他産業資材、小売・消費財及びサービス、情報・技術・エンターテインメント業界)
・必須業務経験:大手コンサル、監査法人に2年以上勤務経験がある方
・必要資格:公認会計士、またはUS CPA資格保有(全科目合格可)
28〜60万円
時給一律7000円(月40H~86Hでのご就業を想定)
条件さえ合えば非常に魅力的な働き方である非常勤公認会計士ですが、実際に働くためにはどのように求人を探せばよいのでしょうか。
主に以下3つの方法が挙げられます。
一番スムーズなのは、元々勤務していた監査法人で、退職後もヘルプなどできるよう事前に退職前に相談しておき、非常勤で入れる道を作っておくことが理想です。他の業界と比較して、監査法人は退職者も少なくないため、いわゆる「出戻り」にも寛容な傾向があります。また監査法人側としても、未知数の求職者を採用するよりも、業務レベルなどを把握している退職者を再雇用する方が安心のため、元いた職場に問い合わせることで非常勤として採用される場合があるかもしれません。
また監査法人勤務の間に人脈を作り、非常勤で雇ってもらえる先を設けておくことも一つの手です。こちらについても、監査法人側は人物や業務レベルを知っている人物からの紹介であれば信頼度が高まり、比較的安心して雇用できるメリットがあるため、非常勤として採用される可能性は高いでしょう。
管理部門に特化した人材紹介会社等に登録をして、情報収集をした上で非常勤スタッフとして働くのもオススメです。
転職エージェントというと常勤の募集が多いイメージがありますが、非常勤の募集も多く取り扱っています。さらに業界特化型エージェントにおいては、金融機関や士業バックグランドを持つ人材の転職支援実績を多く有しているため、企業として一定の選考に係るナレッジや企業とのパイプラインを有しており、転職に関するリアルな情報提供が可能です。WEB上では入手できない非公開求人や監査法人以外の税理士法人やコンサルティングファームなど非常勤求人も紹介してもらえます。
士業・管理部門の転職エージェント「ヒュープロ」では、非常勤公認会計士への転職をお考えの皆様のキャリアをサポートさせていただいております。
将来に向けたキャリアパス・キャリアプランのご相談や、転職市場のご説明などももちろん可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
最後に、非常勤公認会計士を目指す方からよく寄せられる疑問についてQ&A形式でご紹介していきます。
結論から申し上げますと、一部の監査法人では監査業務未経験のでも非常勤として採用することもありますが、その数は非常に少ないと言えます。上述の通り、一般的には実務経験が4~5年ほどあるシニアスタッフレベルが非常勤採用の基準となることが多いです。ただ、昨今は会計士業界の人手不足が深刻化しているため、監査未経験でも非常勤として採用するケースもあるといえます。
会計士業界には、在学中に公認会計士試験に合格した方が監査法人で非常勤職員として働く「学生非常勤」という働き方があります。公認会計士試験に合格後、監査法人の就職活動を行い内定が出た監査法人において、在学中は非常勤職員として働くことができます。
一部の監査法人では、非常勤でフルリモート可能な求人もあります。コロナ禍以降、上場企業ではリモートワークが推進されているため、上場企業をクライアントにしている監査法人でも合わせてリモートワークを認めるケースも多いです。そうした企業をクライアントとする監査法人ではフルリモートで働くことも可能でしょう。
監査法人で非常勤として働く場合、他の非常勤との掛け持ちも可能です。非常勤を掛け持ちして働くことで、人脈を広げたり、契約更新されないリスクの低減、稼働日数を増やして稼げるといったことが魅力といえるでしょう。
法人によって異なりますが、税理士で非常勤として働く場合の時給は約3,000~4,000円が一般的です。そのため、税理士の非常勤の仕事だけでしばらく食べていくというのは難しい場合もあるでしょう。
今回は、公認会計士として非常勤で働く際の時給について解説しました。
非常勤で最低限の収入を確保しつつ、自ら開業したり、自らのアイデアを形にするために奔走するなど、多様な働き方ができるのが公認会計士の魅力です。報酬面にもしっかり意識を向けつつ、将来の自身のなりたい像に向かって、取得した公認会計士の資格を存分に活用しましょう。