公認会計士は、社会的に知名度や信頼性が高い会計や監査に関する専門家です。多くの企業からのニーズが高い一方で、目指す人が増えたことから公認会計士の数が「多すぎる」という意見もあがっています。本記事では、実際どのくらいの公認会計士がいるのか、そして本当に過多になっているのか、多角的に見ていきます。
まずはじめに、「多すぎる」と言われる公認会計士の人数について見ていきましょう。
日本公認会計士協会が発表している会員数等調によると、2024年公認会計士として登録されている人数は36,677人でした。
正直、この数字を見ても多いとも少ないとも感じにくいかもしれません。そこで、ここ10年の登録者人数の推移も紹介します。
公認会計士の登録者数は、直近10年間で下表のように推移しています。
一度登録すれば基本的には永久に登録しておくことができるので、減少に転じることはないものの、大きな緩みも無く増加を続けていることがお分かりいただけるでしょう。
また、2000年まで登録者数は17,000人程度であったことも踏まえると、人数の増加はかなり増えたといえます。
それでは、ここまで人数が増加したのはなぜなのでしょうか?
出典:日本公認会計士協会│会員数等調
公認会計士の人数が増加傾向である理由として、「試験制度の見直しで合格者が増加した」、「資格の魅力が大きい」、「社会的ニーズが高まっている」の3つが挙げられます。
公認会計士になるには、公認会計士試験に合格する必要があります。つまり、この試験の合格者数の増加と公認会計士の登録者数の増加の相関性は非常に高く、当然試験合格者数の数も増加しています。
この増加傾向の背景には、試験制度の見直しがあります。かつては、受験資格として大学もしくは短大卒業資格が必要でしたが、この見直しにより受験資格が無くなり、受験者数が増加しました。また、公認会計士のなり手を増やすべく、試験の合格基準も下げられました。
この制度見直しは2006年とかなり昔の話ではありますが、これがなければ現在のような増加傾向にはなっていなかったかもしれません。
公認会計士は資格取得の難易度がかなり高い分、独占業務という公認会計士しかできない業務があるなど、取得するメリットはとても大きいです。取得しておけば、仕事に困ることはほとんどないと言っても過言ではありません。
このような魅力が広まったことで、試験合格を目指す受験生が増えたことも公認会計士の増加に影響しています。
不正会計問題が相次いだことにより、企業の財務情報の信頼性を保証する公認会計士の需要はより一層高まりました。さらに、コンプライアンス意識が強まる中で、金融商品取引法や内部統制制度に対応する必要が出てきたため、会計士の役割がより重要視されるようになったのです。
公認会計士の人数は継続的な増加傾向にあるとはいえ、公認会計士の主業務である「監査」の重要性は引き続き高い状態にあります。それにもかかわらず、公認会計士の人数に対して「多すぎ」という声があるのはなぜでしょうか?その要因を解説します。
「多すぎ」と言われる理由として、実際に「多すぎる」時代があったことが大きいと考えられます。
その状況が起きたのが、先ほどご紹介した試験制度の見直し翌年である2007年以降です。2007年は公認会計士試験の合格者数が約2倍になりました。試験合格者は2年(現在は3年)の実務経験をすることで公認会計士に登録できましたが、2008年に発生したリーマンショックの影響もあり採用が鈍化し、監査法人などへの就職が叶わない「待機合格者」と呼ばれる人が発生しました。
このように、採用ニーズに対して公認会計士や試験合格者が飽和したことから、「多すぎ」というイメージが今でもあるのでしょう。
公認会計士の業務の一部がAIや発達した会計ソフトによって、効率化・自動化されつつあります。そのため、今後は公認会計士に対する需要が減っていく可能性もあります。そのため、公認会計士にしかできない業務に対して、その人数が多く感じられることもあります。
公認会計士の数が増加したことにより、公認会計士を取り巻く環境にも変化がありました。
リーマンショック後からは回復しているものの、それ以前よりも公認会計士の転職は難しくなっています。もちろんニーズはある程度高いため、職場を選ばなければ働くことは可能でしょう。
その一方で、Big4監査法人などの人気求人においては、同じ採用枠に多くの公認会計士の応募が集中することも珍しくなく、その場合はプラスアルファのスキルや経験の有無が合否の分かれ目になるでしょう。
かつては監査法人で働くか独立開業するのが一般的だった公認会計士ですが、なり手の増加に伴って他の業界で資格を活かした仕事をするケースも増えています。資格取得に当たって得た知識を、どのような仕事に還元したいのかというキャリアプランの選択肢が広がったのは、公認会計士にとってはプラスの変化といえるでしょう。
ここでは、公認会計士の監査法人以外の代表的なキャリアパスについてご紹介します。
FAS系コンサルティングファームは主にM&Aや企業再生に関する業務を行いますが、クライアント企業の財務状況の評価や判断が求められるため、公認会計士の知識が活かせる仕事です。
年収が高水準であることやプラスアルファのスキルを身に付けられることなど、魅力も多いです。
事業会社の財務部や経理部において、自社の財務に関する業務を行うのも選択肢の一つです。ベンチャー企業であればCFOとしての需要がありますし、上場企業では年収も働き方も安定した環境で働くことができるでしょう。
公認会計士のスキルは国際的にも市場価値が高いため、日系企業の海外子会社や外資系企業において海外で働くケースも増えています。グローバルな活躍ができ、他では経験できないスキルを積むことができるでしょう。
海外で働く場合は、英語力やUSCPA(米国公認会計士)を取得しておくと、より活躍の幅が広がるでしょう。
今回は「公認会計士は多すぎる!」という意見について、実際の人数や「多すぎ」と言われる理由などを解説しました。
公認会計士資格を活かせる分野は今後も広がり続けると予想され、キャリアはより一層多様化していくでしょう。その一方で、公認会計士の増加傾向も続いていくとみられるので、英語力やITスキル、マネジメント力などといったプラスアルファのスキルがあることが、活躍するための条件になっていくと考えられます。