「公認会計士=監査法人」で働くというイメージが強いかも知れませんが、実際は幅広い職場の選択肢があり、希望にあったキャリアを選択することが可能です。
今回は、そんな公認会計士の描けるキャリアや職場を選ぶポイント、キャリアアップに活かせるスキルなどについて詳しく解説します。
多くの公認会計士がキャリアのスタートを監査法人から始めます。その理由として、公認会計士の取得にあたって習得した知識が最も活かせる職場であること、また資格取得にあたって求められる3年間の実務経験を積める職場であり、そのまま働く会計士が多いことがあります。
監査法人での経験は公認会計士としての基盤を築く上で重要ですが、それが唯一のキャリアパスではありません。その理由として、公認会計士は監査業務以外にも以下のような業務に対応できるスキルがあることが挙げられます。
上記のスキルが具体的にどのような職場で活かせるのか、次の章で見ていきます。
それでは公認会計士のキャリアの選択肢として代表的な職場を、7つご紹介します。
監査法人は、公認会計士が5人以上集まって設立する法人と定義され、主にクライアント企業の監査業務などを行います。監査業務とは企業の財務諸表や様々な事象について誤りや違法性がないことをチェックし、証明する業務のことです。監査法人の行う外部監査は特定の企業に義務付けられているため、安定的なニーズがある職種といえます。
監査法人は、大きくBig4監査法人と中小監査法人に分けることができます。どちらを選ぶかでも描けるキャリアは少々異なってきます。
Big4監査法人(PwC、EY、KPMG、Deloitte)は、日本の中でも特に大手の4つの監査法人の総称であり、それぞれの監査法人が世界的な会計事務所と提携しています。
Big4監査法人は大企業のクライアントが多い関係で幅広い業務経験が積めるだけでなく、年収が安定しており、福利厚生の充実さや柔軟な働き方が選択できるというメリットがあります。一方で従業員数が多く、上層のポジションになるまでの期間が長くなってしまうのは、キャリアプラン次第ではデメリットとなることもあるでしょう。
中小監査法人は、クライアント企業の規模についても中小規模であることが多いです。従業員数がBig4に比べると少ないため、ある程度の裁量権を持つことができ、速いスピードで成長することが可能です。一方で、国際案件などの高度な業務の経験は積みづらいでしょう。
それぞれの特徴を把握した上で、キャリアプランに合った規模の監査法人を目指すのがよいでしょう。
公認会計士は税理士試験免除で税理士登録ができるため、税理士事務所や会計事務所で働く公認会計士も多くいます。公認会計士が会計事務所に所属して働く場合、監査はメインで行わず税理士として会計や税務に対するコンサルティングなどを行います。
会計事務所で働くことで税法に関する知識を深めることができるため、会計知識と併せて税務戦略を立案する能力を身に着けることができます。
一方で、監査業務に対応する機会は監査法人に比べると少なくなるため、監査のスキルの習得ペースは遅くなるでしょう。
上記の就職先以外にも、事業会社の管理部門や経理職において、企業内会計士として働くのも選択肢の一つです。近年、会計実務が高度化し複雑になる中で、企業の財務健全性を担保するために企業内に公認会計士を置く一般企業も増えてきています。企業内会計士の中でも、どのような分類の企業で働くかによって、その役割や働き方も変わってきます。
上場企業の経理・財務部門で働く公認会計士は、月次決算、四半期決算、年次決算、有価証券報告書の作成、連結決算といった主計業務を行うほか、決算期には監査対応や開示業務などにも対応します。海外子会社との連結決算や監査対応などは上場企業でしか経験できないほか、年収やワークライフバランスなども安定しています。
一方で経理部門や管理部門の組織としての人数が多いため、Big4監査法人と同様にキャリアアップがしづらい環境といえます。
外資系企業では、国際的な財務基準や取引を扱うため、英語力やグローバルな視点が求められます。日系企業以上のスキルが必要とされるため給与水準が高く、キャリアアップの機会が多い風土が根付いていることが特徴です。
ベンチャー企業では、経理の仕事に留まらず経営全般に関わることができます。CFOなど、経営者に近い立場で企業の成長を支える役割を担えるため、より大きな裁量権を持つことができるでしょう。また、ベンチャー企業は他の企業では味わえない新進気鋭の事業やサービスを展開していることがあるため、事業から刺激を与えられるのも魅力といえます。
ただし年収の安定性や水準は低く、残業時間も多くなるなど、労働環境についてはまだ整備されていない部分も多いでしょう。
M&A(企業の買収・合併)のサポートやFAS(財務アドバイザリーサービス)を提供するコンサルティングファームでも、公認会計士は大きな役割を果たします。M&A業務の中でもバリュエーションやデューデリジェンスといったかなり専門性の高い業務に従事するため、ご紹介している職種の中でもトップクラスの給与が実現できます。M&A業務における公認会計士の役割については、以下の記事でも詳しく解説しております。
銀行や証券会社、保険会社といった金融機関での公認会計士の役割は、監査業務だけでなく、リスク管理や内部統制の強化、または新規事業への財務戦略のアドバイザリーなど多岐にわたります。
公認会計士資格を持つことで、独立して事務所を開設することも可能です。税理士としての知識も活かしながら、税務顧問や経営コンサルタントなどを生業とするのが一般的で、自身が事業主/経営者となるため自由度の高い働き方が魅力です。また、実力次第で高年収にも全く稼げない会計士にもなる可能性があるという、ハイリスクハイリターンな働き方とも言えます。
近年増えつつあるのが、フリーランスとして活動する公認会計士です。特定の企業や法人に所属せず、プロジェクト単位で仕事を請け負うことで、柔軟な働き方が可能です。特に、リモートワークや複数のクライアントを持つことで、場所や時間に縛られない働き方ができます。
ご紹介したように様々なキャリアが選べる公認会計士ですが、職場を選ぶ際には以下のような要素を考慮するとよいでしょう。
上述したように、どのような職場で働くかによって実現可能な年収幅は大きく異なります。Big4監査法人や外資系企業、金融機関では高額な年収を期待できますが、独立やフリーランスの道を選ぶ場合は、クライアントの数やプロジェクトによって年収が変動しますので、年収の安定性を選ぶか、上限値の高さを選ぶか、などの判断軸は一つのポイントといえます。
公認会計士はどうしても仕事量が多くなりがちですが、ワークライフバランスを重視したい場合についてもある程度選択肢が限られてきます。やはり規模が大きかったり、上場フェーズに近い企業ほど、ワークライフバランスの安定性は高いと言えるでしょう。
根本的に活かせる知識は同じであるものの、監査法人やコンサルではクライアントにサービスを提供するのに対して、企業内会計士は所属する企業の業務を行います。
また会計事務所であれば、監査業務よりも税務業務の割合が多くなるなど、将来的に習得できるスキルについても働く職場によって変わります。
どのような仕事にやりがいを感じるのか考えた上で、職場も選ぶとよいでしょう。
監査法人でのキャリアアップのゴールはパートナーと呼ばれる、監査法人の最高職階です。いわゆる共同代表のようなものであり、法人の経営判断に対する意思決定などで、重要な役割を果たすことが出来ます。一般企業でいう役員報酬のようなものが追加で支給されるため、給与水準も大きく上がります。
企業内会計士は、企業の規模感などに関わらす、CFO(最高財務責任者)を目指すことができます。CFOは企業の財務全体を管理し、戦略的な意思決定に関与するポジションであり、こちらも大きな裁量権や高年収が期待できます。
コンサルティングファームで高い実績を上げることは、キャリアアップに直結します。特に、M&AやFAS分野で専門性を高めれば、企業再編や投資戦略に関与するチャンスが増え、キャリアアップが期待できます。
独立開業した公認会計士は、自らの事務所を成長させることがキャリアアップと連動します。地域社会や中小企業に貢献しながら、経営者としての成功を目指すことができます。
公認会計士は非常に市場価値の高い資格ですが、同じ公認会計士を持っている方との差別化を図るためには、プラスアルファのスキルを持っておくのがよいでしょう。ライバルとの差別化ができることは、キャリアの選択肢を広げることにも繋がるのです。ここでは、具体的なプラスアルファにオススメのスキルについてご紹介します。
外資系企業やBig4監査法人などではグローバルな対応が必要になってくるため、英語力がプラスアルファのスキルと捉えられやすいです。具体的には最低でもTOEIC700点以上があると、英語力の証明がしやすくなります。公認会計士に求められる英語力に関しては、以下の記事もご参照ください。
近年、外資系企業だけでなく日系企業でも、国際財務報告基準(IFRS)を導入する企業が増えています。このような企業のほか、海外案件が増えつつあるM&A・FAS系のコンサルファームでも、国際財務報告基準(IFRS)のスキルは大いに活かせます。
このスキルを習得するためには、USCPAを取得するのが効果的です。公認会計士とのダブルライセンス保持者になれば、上記のような職場での就業において有利になるでしょう。
どの職場であっても、一定数の企業ではマネジメントができる人材の採用をしたいと考えています。そのため、会計や監査のスキルに加えて、マネジメント経験があれば、優遇する企業が多くなります。
ここまで公認会計士のキャリアパスやキャリアアップの手段についてご紹介しましたが、今の職場で希望のキャリアが描けないと判断した場合、転職を検討する必要があります。公認会計士は非常に市場価値の高い資格であるため、転職活動でそこまで苦労しない方も多いですが、油断は禁物です。
仔細に応募先のリアルを把握しておかないと、転職に成功したとしてもご自身の希望との齟齬がある職場で働くことになりかねません。そんな中で重要なのが、転職エージェントを活用することです。
士業・管理部門特化の転職エージェント「ヒュープロ」は業界特化の特性を活かして、企業のリアルな職場環境や目指せるキャリアをお伝えすることが可能です。公認会計士をお持ちのご登録者のキャリア支援実績も豊富にございますので、是非ご活用をご検討ください。
今回は公認会計士の描けるキャリアパスについて、ご紹介していきました。最後に、日本公認会計士協会が公開している「公認会計士キャリアマップ」というものを参考までにご紹介します。
出典:日本公認会計士協会│公認会計士キャリアマップ
この資料は女性公認会計士について解説されていますが、男性も同様といえるでしょう。こちらでは様々なキャリアが並列に表示されているものの、やはり多くの会計士が監査法人でキャリアを積んでおり、独立や企業内会計士(組織内会計士)が次いで多いといえるでしょう。
ただし、もちろん働いている人が多いからそこで働かなければいけないというわけではありませんので、ご自身の希望のキャリアパスが描ける職場で働くことを目指しましょう。