公認会計士のキャリアパスと言えば、監査法人で働くというイメージが強いかも知れませんが、実は監査法人以外にも幅広い選択肢があり、希望にあったキャリアを選択することが可能です。
今回はそんな公認会計士のキャリアについて、職場選びのポイント、キャリアアップに活かせるスキルなどについて詳しく解説します。
多くの公認会計士がキャリアのスタートを監査法人から始めます。その理由として、公認会計士の取得にあたって習得した知識が最も活かせる職場であること、また資格取得にあたって求められる3年間の実務経験を積める職場であり、そのまま働く会計士が多いことがあります。
まずは監査法人でのキャリアについて、Big4監査法人と中小・中堅監査法人でそれぞれ見ていきましょう。
多くの公認会計士が目標とする就職先として、世界4大コンサルティングファームと提携している日本の大手監査法人があります。それぞれ、有限責任あずさ監査法人、EY新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、PwC Japan有限責任監査法人の4法人が当てはまり、通称「Big4監査法人」と呼ばれます。
Big4監査法人は大企業のクライアントが多い関係で幅広い業務経験を積めるだけでなく、年収が安定しており、福利厚生の充実度や柔軟な働き方が選択できるという点で人気の就職先となっています。
一方で従業員数が多く、上層のポジションになるまで時間がかかってしまうため、いち早くキャリアップしたいと考えている方にとってはデメリットにもなり得るポイントでもあります。しかし、大手ということもあり、中小・中堅監査法人と比較しても給与水準は高いため、長く勤めて着実に役職が上がっていけば、安定して高い年収を得ることが可能です。
参考までに、Big4監査法人での役職ごとの給与レンジを載せておきます。
役職 | 平均年収 | 年齢の目安 |
スタッフ | 500万~700万円 | 22歳~27歳 |
シニアスタッフ | 600万~900万円 | 26歳~32歳 |
マネージャー | 800万~1,200万円 | 30歳~38歳 |
パートナー | 1,500万円以上(最大3,000万円) | 40歳以上 |
Big4監査法人での働き方やキャリアについてより詳しく知りたい方は下記の記事も併せてご一読ください。
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中小・中堅監査法人は前述のBig4監査法人と比較して、従業員数が少なく、クライアントの企業規模も小規模である場合が多いです。そのため、1つの案件に対応するチームメンバーも少ないため、1人当たりの業務範囲が広くなりやすく、早いうちから様々な業務を経験できることが魅力となっています。
一方で、裏を返せば1人当たりの業務量が多くなるということでもあるため、ワークライフバランスを気にする方にとってはデメリットにもなり得ます。また、大手監査法人と比較すると給与水準が劣ってしまうため、高い給与水準を求めて転職を検討される方も一定数いらっしゃいます。
監査法人での経験は公認会計士としての基盤を築く上で重要ですが、それが唯一のキャリアパスではありません。日本公認会計士協会が多様なキャリアパスについてのセミナーを行ったことがあることからも、それがお分かりいただけるでしょう。
参考:『広がる会計士のキャリアパス~組織内会計士の意義と監査法人勤務との違い~』の開催について│日本公認会計士協会
公認会計士が幅広いキャリアパスを描ける理由として、監査業務以外にも以下のような業務に対応できるスキルがあることが挙げられます。
公認会計士は税理士試験免除で税理士登録ができるため、税理士事務所や会計事務所で働く公認会計士も多くいます。公認会計士が会計事務所に所属して働く場合、監査はメインで行わず税理士として会計や税務に対するコンサルティングなどを行います。
会計事務所で働くことで税法に関する知識を深めることができるため、会計知識と併せて税務戦略を立案する能力を身に着けることができます。
一方で、監査業務に対応する機会は監査法人に比べると少なくなるため、監査のスキルの習得ペースは遅くなるでしょう。
上記の就職先以外にも、事業会社の管理部門や経理職において、企業内会計士として働くのも選択肢の一つです。近年、会計実務が高度化し複雑になる中で、企業の財務健全性を担保するために企業内に公認会計士を置く一般企業も増えてきています。企業内会計士の中でも、どのような分類の企業で働くかによって、その役割や働き方も変わってきます。
上場企業の経理・財務部門で働く公認会計士は、月次決算、四半期決算、年次決算、有価証券報告書の作成、連結決算といった主計業務を行うほか、決算期には監査対応や開示業務などにも対応します。海外子会社との連結決算や監査対応などは上場企業でしか経験できないほか、年収やワークライフバランスなども安定しています。
一方で経理部門や管理部門の組織としての人数が多いため、Big4監査法人と同様にキャリアアップがしづらい環境といえます。
外資系企業では、国際的な財務基準や取引を扱うため、英語力やグローバルな視点が求められます。日系企業以上のスキルが必要とされるため給与水準が高く、キャリアアップの機会が多い風土が根付いていることが特徴です。
ベンチャー企業では、経理の仕事に留まらず経営全般に関わることができます。CFOなど、経営者に近い立場で企業の成長を支える役割を担えるため、より大きな裁量権を持つことができるでしょう。また、ベンチャー企業は他の企業では味わえない新進気鋭の事業やサービスを展開していることがあるため、事業から刺激を与えられるのも魅力といえます。
ただし年収の安定性や水準は低く、残業時間も多くなるなど、労働環境についてはまだ整備されていない部分も多いでしょう。
M&A(企業の買収・合併)のサポートやFAS(財務アドバイザリーサービス)を提供するコンサルティングファームでも、公認会計士は大きな役割を果たします。M&A業務の中でもバリュエーションやデューデリジェンスといったかなり専門性の高い業務に従事するため、ご紹介している職種の中でもトップクラスの給与が実現できます。M&A業務における公認会計士の役割については、以下の記事でも詳しく解説しております。
銀行や証券会社、保険会社といった金融機関での公認会計士の役割は、監査業務だけでなく、リスク管理や内部統制の強化、または新規事業への財務戦略のアドバイザリーなど多岐にわたります。
公認会計士資格を持つことで、独立して事務所を開設することも可能です。税理士としての知識も活かしながら、税務顧問や経営コンサルタントなどを生業とするのが一般的で、自身が事業主/経営者となるため自由度の高い働き方が魅力です。また、実力次第で高年収にも全く稼げない会計士にもなる可能性があるという、ハイリスクハイリターンな働き方とも言えます。
近年増えつつあるのが、フリーランスとして活動する公認会計士です。特定の企業や法人に所属せず、プロジェクト単位で仕事を請け負うことで、柔軟な働き方が可能です。特に、リモートワークや複数のクライアントを持つことで、場所や時間に縛られない働き方ができます。
ご紹介したように様々なキャリアが選べる公認会計士ですが、職場を選ぶ際には以下のような要素について、それぞれのメリットとデメリットを考慮するとよいでしょう。
上述したように、どのような職場で働くかによって実現可能な年収幅は大きく異なります。Big4監査法人や外資系企業、金融機関では高額な年収を期待できますが、独立やフリーランスの道を選ぶ場合は、クライアントの数やプロジェクトによって年収が変動しますので、年収の安定性を選ぶか、上限値の高さを選ぶか、などの判断軸は一つのポイントといえます。
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公認会計士はどうしても仕事量が多くなりがちですが、ワークライフバランスを重視したい場合についてもある程度選択肢が限られてきます。やはり規模が大きかったり、上場フェーズに近い企業ほど、ワークライフバランスの安定性は高いと言えるでしょう。
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根本的に活かせる知識は同じであるものの、監査法人やコンサルではクライアントにサービスを提供するのに対して、企業内会計士は自身が所属する企業の業務に従事します。
また会計事務所であれば、監査業務よりも税務業務の割合が多くなるなど、将来的に習得できるスキルについても働く職場によって変わります。
どのような仕事にやりがいを感じるのか考えた上で、職場も選ぶとよいでしょう。
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監査法人でのキャリアアップのゴールはパートナーと呼ばれる、監査法人の最高職階です。いわゆる共同代表のようなものであり、法人の経営判断に対する意思決定などで、重要な役割を果たすことが出来ます。一般企業でいう役員報酬のようなものが追加で支給されるため、給与水準も大きく上がります。
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企業内会計士は、企業の規模感などに関わらす、CFO(最高財務責任者)を目指すことができます。CFOは企業の財務全体を管理し、戦略的な意思決定に関与するポジションであり、こちらも大きな裁量権や高年収が期待できます。
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コンサルティングファームで高い実績を上げることは、キャリアアップに直結します。特に、M&AやFAS分野で専門性を高めれば、企業再編や投資戦略に関与するチャンスが増え、キャリアアップが期待できます。
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独立開業した公認会計士は、自らの事務所を成長させることがキャリアアップと連動します。地域社会や中小企業に貢献しながら、経営者としての成功を目指すことができます。
実は税理士は、公認会計士と学習範囲の重複している部分が多いため、公認会計士を目指している人が並行して目指すことの多い職種でもあります。
さらに公認会計士資格は、弁護士資格や医師免許と並んで三大難関国家資格の1つに数えられるほど難易度の高い資格でもあるため、公認会計士試験の合格を目指している方が途中で税理士へ目標を変えるということもあります。
そこで、公認会計士に向いている人と税理士に向いている人の特徴をご紹介しますので、ぼんやりとこれから公認会計士を目指そうと考えている方は、ご自身の適性がどちらにあるのかを参考にしてみてください。
それぞれの特徴を表にしてみると以下の通りです。
公認会計士は税理士と比較して学ばなければならない範囲が広く、その分キャリアの選択肢も豊富です。しかし、特に監査業務における繁忙期は業務が集中することで多忙を極めます。それにより、「公認会計士は激務だ」という世間的なイメージがついてしまっているのが現実です。
一方で、目指せる年収の水準も公認会計士の方が高く、順当にキャリアを積んでいけば年収1,000万円を超えることも十分に可能です。そのため、「バリバリ働いて安定的に高収入を得たい」という方には向いていると言えます。
また、前述でもお伝えしたように、公認会計士の資格は非常に難易度が高く、勉強時間は最低でも3,000時間は合格までに必要だと言われています。そのため、数年かけて試験合格を目指すことが一般的で、十分な勉強時間を確保できる方や、その間にかかる費用を継続的に確保できる余裕のある方は、覚悟を決めて目指してみるのも良いでしょう。
税理士は税務に関するプロフェッショナルで、中小企業が主な顧客になります。そのため、公認会計士と比較すると1つ1つの案件規模は若干小さくなりますが、その分細やかな税務サポートを行うことになります。
また、税理士を目指している方の中で将来的には独立したいと考えている方も多く、税理士として高年収を目指すのであれば、独立するのが1番の近道になります。公認会計士にも独立という選択肢はもちろんありますが、税理士と比べてキャリアパスが豊富に用意されている公認会計士は、独立以外の道を選ぶ方も少なくありません。そのため、「将来的に独立して自由に働きたい」という方は税理士が向いていると言えます。
また、資格試験の勉強においては、もちろん税理士も簡単な資格ではない上に5科目合格しなければならないという特殊な資格ではあるものの、働きながらの試験合格を目指しやすいという特徴を持っています。特に、税理士試験には科目合格制度という制度があり、一度合格した科目に関しては期限などがありません。さらに科目を1つでも合格していることで転職に有利になるため、資格取得を応援してくれる事務所などに転職をすることで、実務経験を積みながら資格合格を目指すことができます。
これらの特徴から、働きながら資格取得を目指したい方や確保できる勉強時間が限られている方は税理士が向いていると言えるでしょう。
税理士と公認会計士のより詳しい比較はこちらの記事を併せてご覧ください。
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ここまで公認会計士のキャリアパスやキャリアアップの手段についてご紹介しましたが、今の職場で希望のキャリアが描けないと判断した場合、転職を検討する必要があります。公認会計士は非常に市場価値の高い資格であるため、転職活動でそこまで苦労しない方も多いですが、油断は禁物です。
詳細に応募先のリアルを把握しておかないと、転職に成功したとしてもご自身の希望との齟齬がある職場で働くことになりかねません。そんな中で重要なのが、転職エージェントを活用することです。
士業・管理部門特化の転職エージェント「ヒュープロ」は業界特化の特性を活かして、企業のリアルな職場環境や目指せるキャリアをお伝えすることが可能です。公認会計士をお持ちのご登録者のキャリア支援実績も豊富にございますので、是非ご活用をご検討ください。
ここまでの内容を通して、公認会計士のキャリアパスについての理解は深まりましたでしょうか?
「公認会計士=監査法人」のイメージに反して幅広いキャリアがある中で、監査法人以外の選択肢を知らない方の中では、監査法人は激務だというイメージを持っている方も多いのではないかと思います。そこで、実際に監査法人からのキャリアチェンジによってワークライフバランスを実現した事例をご紹介します。
元々は大手監査法人に勤務されていた方で、ワークライフバランスを求めて転職を決意。独立か転職か悩んだ末、監査法人以外の選択肢にも目を向けてみた結果、年間休日120日以上でフルフレックス勤務やリモートワークが可能なコンサルティングファームへの転職に成功。見事ワークライフバランスを実現しました!
このように、監査法人以外のキャリアパスを選択することによって、ワークライフバランスを重視した働き方を実現することも可能です。
また以下では、様々なキャリアを歩む公認会計士の方々へ、より詳しくお話を伺ったインタビュー記事をご紹介しますので、気になるものがあれば是非ご覧ください。
ここで、本メディア「Hupro Magazine」において掲載させていただいているインタビューの中で、実際に公認会計士としてキャリアを歩まれている方の事例をご紹介します。
スローガン株式会社の取締役執行役員CFOである北川様は公認会計士になって監査法人に就業したのち、学生時代にインターンをしていた上場企業である同社へ転職されました。詳しいキャリアは以下の記事よりご確認ください。
大学時代に公認会計士試験に合格されBig4監査法人で勤務後、スタートアップ企業に転職された中島様の事例です。資金調達などの業務を経験し、スキルアップを実現されています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
エンジニアとして社会人のキャリアをスタートさせ、シンガポールで働きながら公認会計士に合格、その後会計事務所に就職された末吉様のキャリアインタビューです。公認会計士の中では異色のキャリアといえますが、業界未経験の方には参考になる記事かと存じます。ぜひご一読ください。
こちらも異色のキャリアといえますが、公認会計士を持ちながらお笑いコンビ「Gパンパンダ」として活動する星野様のキャリアインタビューをご紹介しています。お笑い芸人を目指す条件の一つとして、食っていける資格を取得することを親に設定されたことが、星野様が公認会計士を目指したきっかけだそうです。ご興味のある方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。
いかがでしたでしょうか。今回は公認会計士のキャリアパスについて様々な観点からご紹介しました。気になるキャリアパスは見つかりましたでしょうか?もし今監査法人にお勤めで、監査法人以外のキャリアをご検討中であれば、是非一度、ヒュープロへご相談ください。
また、これから公認会計士を目指そうと思っている方も、実際に公認会計士になった後のキャリアイメージがよりクリアになって、モチベーションアップにつながれば幸いです。幅広い選択肢の中から、ご自身の希望条件に合った理想の働き方を選択しましょう。