M&Aは売り手企業と買い手企業のマッチングから成約までが一連の流れのようにも感じられますが、成約後の双方のシナジー効果を最大化させることも疎かにできません。そのために重要な役割を果たすM&A後の経営統合をPMIと呼びます。本記事ではそんなPMIの重要性や流れ、成功させるポイントをご紹介します。
PMIはPost Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略称であり、企業のM&A(合併や買収)後に行われる経営統合プロセスのことを指します。M&Aが完了した後、売り手企業と買い手企業の企業文化、業務プロセス、システムなどをスムーズに融合させ、シナジー効果を最大限に発揮することがPMIの目的です。
PMIが不十分だと、M&A自体が失敗に終わることも少なくありません。その一方で当事者間のみで対応するには難易度が高く、M&A仲介などのコンサルタントに依頼するのが一般的です。
PMIはM&Aによるシナジー効果を最大化すること、および成約前に想定していなかったリスクを最小化するために重要な役割を果たします。
M&Aでは、売り手企業の事業や不動産だけでなく、文化やビジネスモデルについても買い手企業に統合されます。そのため、これらの両者間の違いをうまく埋めなくてはなりません。
例えば、合併した企業間で意思疎通がうまくいかなかったり、経営方針が統一されていなかったりすると、既存社員と売り手企業から入社した社員の対立や離職、統合の遅れによる業績悪化などのリスクがあります。逆にPMIを成功させることで、新たな市場や技術が生まれるなど、M&Aによるシナジー効果を最大限に高めることができるのです。
PMIは、M&Aが成約しそうな段階で準備を始めるのが一般的です。ただし理想としてはM&Aの初期、すなわちデューデリジェンスの段階から始めておくのがよいでしょう。
財務状況や営業状況など、様々な視点から売り手企業の調査を行うデューデリジェンスはPMIとの共通部分も多く、この段階から統合後のリスクになりそうな部分が無いかの洗い出しをしておくことで、スムーズな移行が実現できるでしょう。成約後、早期にPMIに取り掛かることは、従業員の不安や混乱を軽減し顧客や取引先への影響を最小限に抑えることに繋がります。
上述の通り、PMIはM&Aの初期段階から準備を始めるのが理想的です。
そのため、企業の規模やM&Aの性質によって異なりますが、PMIに少なくとも1年はかかります。短期間で統合を進めることも不可能ではありませんが、あまりにも急速に統合を進めると、それだけ摩擦や混乱を招くリスクが高まります。一方で、統合を長期間にわたって行う場合は、システムやプロセスの最適化に十分な時間をかけることができますが、経済的コストも増加し、タイミングの遅れによってシナジー効果を失う可能性があります。そのため、計画的かつ柔軟な進行が求められます。
PMIの一般的なフローは以下の通りです。
M&Aの方向性や目標を設定し、両社の業務プロセスやシステムを調査・分析します。統合に関わるメンバーを選定し、組織構造の変更や重要な業務の優先順位を決定します。
M&Aの方針が決定したら、クロージングしてから数カ月以内に行うべき統合作業を計画するランディング・プランの策定を行います。クロージングしてから3ヶ月~6ヶ月以内に行う作業を計画に入れるのが一般的です。
さまざまな経営領域の中でも、管理面と事業面の見直しが主です。管理面は組織・規定類・経営管理の見直し、コミュニケーションの推進、人事・労務面の変更などが実施されます。事業面は原材料費などの原価見直しや販管費・管理費の見直しです。
買収や合併が成立した直後の段階で、迅速な意思決定を行うためのリーダーシップ体制を整えます。この段階では、特にコミュニケーション戦略が重要で、従業員や顧客への影響を最小限に抑えるためのアプローチが必要です。
人事やIT、財務システムなど、具体的な組織統合を進めます。各部門の役割や業務プロセスの見直し、システムの統合、業務フローの標準化などが行われます。
統合が進んだ後も、統合の効果を測定し、業績をモニタリングするフェーズです。この段階では、適応が必要な部分を調整しながら、統合の最適化を図ります。
経営陣が強いリーダーシップを発揮し、組織全体を統合します。迅速に意思決定が行われるため、スピード感を持って進行できる一方で、従業員の意見や現場の声が反映されにくいというデメリットがあります。
現場の従業員の意見やフィードバックを取り入れつつ、統合プロセスを進める手法です。従業員のモチベーション向上や現場での実行力が期待できますが、その分の時間はかかってしまいます。
組織の中で複数のチームが協力しながら進行させる手法です。異なる部門が協力して進めていくため、バランスの取れた統合が可能ですが、こちらも比較的長期間になります。
PMIを成功させるためには、いくつかの要素が必要になってきます。
M&A後のシナジーや目指すべき方向性を経営陣が明確にし、全社的に周知徹底させることが重要です。全てのステークホルダーに共通の目標を持たせることで、統合プロセスがスムーズに進みます。逆にこの部分が抽象的だと、事業全体や所属する従業員が散漫になってしまうでしょう。
無理のない現実的なスケジュールでPMIを進めていくのも重要なポイントです。リソースや能力に応じた柔軟な調整を行わず短期間に無理な統合を進めると、失敗する可能性が出てきます。
統合プロセスの透明性を確保して社員に十分な情報共有を行うことも、PMIの成功に不可欠といえます。また、各部署や現場の意見を聞くことで、統合の実態に即した改善が可能となります。
PMIプロジェクトには、適切な専門知識を持つメンバーを選出し、組織内外からバランスの取れたチームを編成することが成功の鍵です。
PMIは、企業のM&Aにおいて最も重要なプロセスの一つです。成功には、初期段階での計画や継続的なコミュニケーションが不可欠です。
短期間での統合を目指してしまうと、M&Aの意味が無くなってしまう可能性が出てきてしまいます。適切な手法を選び、経営陣のリーダーシップを発揮することで、企業はM&Aによる成長のチャンスを最大限に活かすことができます。