日商簿記1級は、難易度の高い資格だから持っていれば食いっぱぐれないのではないかというイメージをなんとなく持っている方も多いのではないでしょうか?
本記事では、それが本当なのか、日商簿記1級に関するリアルな就職・転職事情を解説していきます。
最初に結論からお伝えしておくと、日商簿記1級を持っているだけで食いっぱぐれないということはありません。
では、なぜ日商簿記1級が「持っていれば食いっぱぐれない」と思われているのか、その理由を見ていきましょう。
簿記1級が食いっぱぐれないと思われている1番の理由は、就職・転職で有利になる点でしょう。
実際に簿記1級を取得して転職で困ることは基本的にありません。簿記1級を保有している人は、極めて高度な会計知識を有し、経営管理や分析を行う能力を持ち合わせた会計に関するスペシャリストとして扱われるため、就職や転職に非常に有利です。
経理職ではどの企業でも需要はありますし、工業簿記や原価計算の知識から、製品メーカーなどの製造業でも高く評価されています。また、貸借対照表や損益計算書などの読み取りながら企業課題を発見し、解決のための施策を提案するコンサルタント業でも活躍できます。
簿記1級を取得することで年収アップが期待できます。実際に簿記1級取得者の平均年収は約650万円といわれています。国税庁によると、日本全国の平均年収は458万円のため、簿記1級取得者は平均年収が約200万円高いことになります。
その理由として、簿記1級の求人が大手や上場企業が多いことが考えられます。大手企業の経理で必要な知識は簿記2級では足りず、簿記1級の知識が必要となります。しかし、合格率が約10%と難易度が高いため取得している人が少なく、人材不足により大手に勤められる可能性が上がり、結果として年収アップに繋がります。
3つ目の理由として、簿記1級は税理士や公認会計士資格にステップアップしやすい資格であるためです。
税理士・公認会計士はそれぞれ会計における難関資格として有名ですが、その資格勉強の足掛かりとして簿記1級を取得する方も多いです。また、税理士や公認会計士は独占業務のある職種のため、ステップアップしてこれらの資格を取得することで将来的に安定して稼ぐことが出来ます。
日商簿記1級は合格率10〜15%の難関資格です。そんな難関資格の簿記1級ですが、やめとけという意見が一定数存在します。そのような意見が挙がる理由を解説していきます。
簿記1級はやめとけという意見の中で独占業務がないことが多く挙げられます。同じ会計系の資格で税理士や公認会計士がありますが、これらは先ほどもお伝えした通り、公認会計士の監査業務や税理士の税務書類の作成業務のように独占業務が存在します。しかし、簿記1級は会計・経理などの知識があることが証明されるだけで、法的に規制された業務(独占業務)は存在しません。そのため、簿記1級の資格を取得した人が行える業務は、理論上は誰でも行える業務であり、変わりが効くといった意味では簿記1級を持っていても食いっぱぐれる可能性は十分に考えられます。
つまり、資格の合格難易度や取得に必要な勉強時間に対して、得られるうまみが少ないという観点で「やめとけ」という意見が一定数出てくるわけです。
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会計の業界では、資格よりも実務経験の方が重視されます。そのため、未経験の簿記1級所持者よりも、簿記3級で20年間実務経験を積んだ人の方が需要が高く、転職に有利になります。というのも、企業側が会計や経理の人材を採用する場合、即戦力になる人材が求められるからです。前述の通り、簿記1級は深い会計知識を必要とするため、持っておいて損になることはまずありませんが、あくまでも知識があることを証明できるだけで、実務をこなせるかどうかはまた別の話になります。
つまり、簿記1級を取得したからといってすぐに安泰になるというわけではないため、簿記1級の取得に時間と労力をかけるくらいなら、簿記2級を取得した時点で転職をして経験を積む方が良いという意見が多くなっているのです。
簿記1級がやめとけと言われる3つ目の理由に、シンプルに合格ハードルの高さが挙げられます。
前述の通り、日商簿記1級の合格率は10〜15%と低く、合格に必要な勉強時間は約1,000時間前後と言われています。
学生であれば資格勉強に充てられる時間は十分にあるかと思いますが、社会人でそれだけの勉強時間を確保するのは簡単ではありません。もし転職のために簿記1級の取得を考えているのであれば、もう少し頑張って税理士資格や公認会計士資格の取得を目指す方が将来的な有用性が高いという点で、簿記1級はやめとけと言われることが多いです。
簿記1級に対して賛否両論がありますが、実際に簿記1級取得者が就職や転職においてどれほどの市場価値があるのか、会計業界特化の転職エージェントがリアルを解説していきます。
簿記1級は難関資格と認知されているため、就職・転職においてその知識と向上心は高く評価されています。特に経理や財務での就職・転職を希望している場合は非常に有利に働きます。未経験の場合は特に圧倒的な差別化に繋がり、書類選考の通過率が格段に上がります。
理由として、採用側からの評価が、「教育コストがかからず、将来的に専門性の高いポジションにアサインしやすい」という評価になるためです。そのため、一般的に未経験スタートの場合の年収は300~400万円であることが多いですが、簿記1級取得者の場合は通常の未経験者よりも100万円程高い年収からキャリアを始められる可能性が高いです。
経理経験者が簿記1級を取得する場合、未経験者ほどは転職時の評価に影響が出にくいものの、簿記1級を持っていることで上場企業への転職がしやすくなり、キャリアの幅が広がるといったメリットがあります。転職時の年収についても、「簿記1級を持っているから」というよりは、「簿記1級相当の知識を持っていることで、将来的に管理職や高度なレベルの業務を任せやすい」という評価をされることで年収が上がりやすくなります。特に、将来的にベンチャー企業のCFOや財務コンサルティングに携わりたいという方は、経営者と関わる機会が多くなるため、簿記1級を取得してより高度な知識を身に着けておくことがおすすめです。
いずれにせよ、簿記1級が直接評価に影響するというよりは、「簿記1級相当の知識があることに対して、その将来性を評価されやすい」というのが転職市場における簿記1級のリアルな価値です。
一方で、高い給料よりも普通の給料であまり忙しくない職場への就職や転職をしたいという場合、必然的に中小企業などに勤めることになるかと思いますが、その場合は簿記1級がオーバースペックとなってしまうため注意が必要です。その場合は簿記2級でも十分に転職や給与アップが狙えるので、ぜひ下のリンクから求人を探してみてください。
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税理士志望の場合、簿記1級を持っていても就職における影響は経理ほど大きくありません。
元々は税理士試験科目である簿記論と財務諸表論(合せて簿財と呼ばれることが多い)の受験資格の1つに簿記1級の保有が設けられていたため、他の受験資格を満たすことが難しい人は簿記1級を取得してから税理士試験に臨むというのが鉄板ルートでした。しかし、2023年に受験資格が改定され、誰でも簿財の受験が可能になったことで、税理士志望者が簿記1級を取得する必要性が低下してしまいました。
これにより、税理士を目指すなら最初から税理士試験を受験する方が良いという見方になり、転職市場では簿記1級保有者よりも、簿記2級を持っている経験者や税理士試験科目合格者の方が有利な状況になっています。
簿記1級はどの年齢で取得するのかが重要になってきます。未経験での転職を目指している場合は、一般的には30代前半までといわれています。特に企業の経理や会計事務所などは、業務が出来るのかを重視されるため、30代後半以降で資格を持っているだけでは採用が厳しい場合があります。このように、年齢が上がるに連れて実務経験の重要性が増していくので、早めに簿記1級を取得し経験を積みましょう。
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上場企業では連結決算が必ず行われますが、連結会計の知識が学習範囲に含まれているのは簿記1級のみです。そのため、上場企業で経理職に就く場合に簿記1級を取得していると、大いに役立てることができるでしょう。
前述で簿記1級取得者が上場企業へ転職しやすくなるとお伝えしたのは、これが理由です。
金融機関でも簿記1級は活かすことができます。
銀行や証券会社で融資や投資を行う際、企業の財務諸表の分析や企業評価において高度な会計知識が必要となるため、簿記1級における商業簿記・会計学の知識を特に活かすことが可能です。また、融資相手や投資先が製造業の会社であれば工業簿記などの知識も活かすことができます。
言わずもがなですが、会計事務所でも簿記1級は活かすことが出来ます。基本的には、簿記2級まででも経験を積み、税理士試験の科目合格を目指していれば簿記1級相当の知識量を得ることは可能ですが、簿記1級は会計に関して非常に高度な知識を身に着けることができるため、持っているに越したことはありません。
簿記1級を取得することでの実情を分かってきたかと思いますので、これらを踏まえたうえで、どのような人に向いているのかを紹介していきます。
まずは年収をアップさせたい人にオススメです。簿記1級の高度なスキルと知識を持つことによる価値を認めてくれる企業が多くあります。また、簿記1級ほどになると、資格手当がつくことも少なくありません。同じ企業に所属していても資格を取得するだけで年収が上がったりもします。
経理としてキャリアの幅を広げたい人にも簿記1級はおすすめです。
前述でも何度かご説明しているように、大手企業の経理部門では、高度な簿記の知識とスキルが求められるため、簿記1級の資格取得に必要な会計処理や連結決算の知識を踏まえて、企業の財務データを正確に分析することができ、適切に帳簿管理をすることができます。この業務は、簿記2級の知識では出来ない業務となっていて、明確に簿記1級を取得する理由となります。
また、転職市場の章でもご説明したように、将来的にベンチャー企業のCFOや財務コンサルティングに携わるなど、経理としてのキャリアの幅を広げたいという場合も、簿記1級は非常に有用です。
公認会計士を目指す前段階として簿記1級を目指すのもよいでしょう。簿記1級を取らないと公認会計士を受けられないわけではないので、簿記1級を取得せずに、そのまま目指す人もいます。しかし、これらの士業はかなり難易度が高いため、何年間も勉強して、結局挫折するという方も多くいらっしゃいます。そのため、簿記や会計業務に適正なのかを図るためや、少しずつステップアップを目指すために、簿記1級を取得するという選択はよいと考えられます。
ここまで、簿記1級は取得のメリットが多いとご紹介しました。しかし、簿記1級が全ての転職において活かせるというわけではありません。以下の点に注意した上で、転職活動を進めていきましょう。
簿記1級は難易度が高く、会計業界で広く活かせる資格といえます。しかし、前半でご紹介したように資格よりも実務経験が重視されることもあるため、資格に甘んずることなく志望動機や自己PRなどについても用意しておく必要があります。
簿記1級は会計スキルのアピールになる一方で、自身の「人となり」を説明できるものではありません。なぜその企業を選んだのか、どのようにその企業に貢献できるか、などのアピールを自分自身でしなければ、内定を勝ち取るのは難しいでしょう。
こちらも先述しましたが、簿記1級は転職においてオーバースペックになってしまうケースがあります。下位資格である簿記2級が幅広い企業で活かせる一方で、簿記1級で習得できる知識はややニッチな分野が多く、その分いかせる仕事も限られてきます。
簿記1級を活用できる求人に応募したいという場合は、業務内容や業務レベルをしっかりと確認するようにしましょう。
分かりきっているという方も多いかもしれませんが、他の業界を目指したいという方には簿記1級はおすすめできません。例えば、食品メーカーの営業に転職したい場合、簿記の知識は全く活かせないわけでは無いものの、選考における評価には繋がりにくいでしょう。
どんな職種にも活かせる資格でないということには、留意しておく必要があります。
簿記1級を活用して転職に成功したい皆様、ぜひ士業・管理部門特化の転職エージェントであるヒュープロをご利用ください。業界最大級の求人を保有しているため、簿記1級が高い評価を得やすい税理士事務所や企業の経理職の求人をご紹介可能です。
また、書類添削や面接対策でも高い評価を頂いています。
まずはご相談から、お待ちしております!
簿記1級を所有していれば本当に食いっぱぐれないのかについて解説してきました。実際は、簿記1級の需要は高いものの、上手く活かせなければ食いっぱぐれる可能性は十分にあります。会計業界では実務経験の方が優遇されやすいため、早期での転職を目指している方は簿記2級まで取得して、転職先で実務を積む方が良い場合もあります。そういった意味では簿記2級でも十分に活躍できますし、逆に30代以上の転職では簿記1級があまり意味をなさない可能性もあり得ます。
「簿記1級は食いっぱぐれない」というイメージに踊らされて闇雲に簿記1級の取得を目指すのではなく、自身の目指したいキャリアと現在の状況をしっかりと見据えた上で必要であれば取得を目指しましょう。
また、既に簿記1級を持っている方は、年収アップやキャリアの幅を広げるチャンスでもありますので、宝の持ち腐れにならないように、上手く活用してキャリアアップを目指してみてください。