M&Aは企業の吸収・合併を意味し、企業の成長や存続をサポートする重要な役割があります。M&AアドバイザリーはそんなM&Aをサポートする職種ですが、実際そのような業務をやっているのでしょうか?今回はM&Aアドバイザリーの仕事内容やその役割、M&A仲介との違いから、転職で求められるスキルまで解説します!
M&Aアドバイザリーとは、M&Aによって会社を買収したい企業、もしくは自社を売却したい企業から依頼を受け、M&A完了までのサポートをする職種を指します。
依頼を受けたクライアントがM&Aを円滑に行えるようサポートするだけではなく、M&Aによって得られる利益を最大化させるという役割があります。
2023年の日本企業の後継者不在率は53.9%と、いまだに高水準なこともあり、M&Aは積極的に行われている状況です。そんな企業の成長や存続に重要な役割を果たすM&Aに、M&Aアドバイザリーは無くてはならない存在ですので、ニーズの高い職種となっています。
M&Aアドバイザリーは大きく分けて、財務アドバイザー 、法務アドバイザー、その他アドバイザーの3つに分かれます。それぞれの役割と併せてみていきましょう。
財務アドバイザーはFAと呼ばれることもあります。FAはFinancial Advisorの略です。
クライアントのサポート役として、M&A実行のための相談役、周辺アドバイザーとの調整役、相手側との交渉役といったM&Aプロジェクト完了までの全体の推進役を担います。
また、財務面でのDD(デューデリジェンス)も行います。DDについては後ほど解説します。
法務アドバイザーはLAと呼ばれることもあり、Legal Advisorの略です。M&Aを法務観点からサポートする役割があります。M&Aには様々な法律が絡んでいるので、それらに抵触していないか、特にM&Aができなくなるような重大な事項がないかについては確認が必須です。そんな時にM&Aに関わる法務のスペシャリストとして支援を行うのが、法務アドバイザーなのです。
アドバイザーには他にも、証券会社や会計事務所などの独立した評価機関が行うフェアネス・オピニオンや、信用調査機関が行う反社チェックを行うなどがあります。
それではここからはM&Aアドバイザリーの業務内容について見ていきましょう。
まずはM&Aをする(される)ことが、その企業にとって有効な手段なのかを第三者の目線で考えていく必要があります。一企業にとってM&Aは非常に大きな決断といえますので、正しい判断をするための情報収集も行わなくてはなりません。その上でM&Aに進むことになったら、どんな戦略でM&Aを行うかをスケジュールや候補となる企業のリストアップなどを行います。
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資を行う際に、投資先の価値やリスクなどを調査することを指します。
一般的にM&Aでは、譲受け企業(買い手)が対象企業に対し、財務状況、法律問題、営業状況、IT環境など、様々な角度から調査・評価を行ってリスクを把握し、将来のビジネスチャンスを探り、買収にふさわしい企業かどうかを検証します。
当然のことではありますが、買い手はできるだけ安く買いたいし、売り手は高く売りたいものです。その条件交渉のサポートもM&Aアドバイザリーが担う役目の一つで、場合によっては交渉の代行を依頼されることもあります。条件交渉はクライアントの利益を最大化させるにあたって最も重要性が高いので、M&Aアドバイザリーとしての腕の見せ所と言えるでしょう。
条件交渉において無事に交渉が成立したら、契約に進みます。買い手側のクライアントであれば資金調達や契約書作成を、売り手側のクライアントであれば買い手から渡された契約書のリーガルチェックなどをサポートします。
ポストマージャーインテグレーション(PMI)とは、M&A統合プロセスを指し、経営統合、業務統合、意識統合の3段階に分かれています。このプロセスをサポートするのは本来M&Aコンサルタントの役目ではありますが、場合によってはM&Aアドバイザリーの業務になることもあります。M&A後の会計・税務処理に関するアドバイスからシステム導入支援など多岐にわたる業務があります。
M&Aアドバイザリーの手数料は、M&Aを進めていく段階ごとで設定していくこともありますが、成功報酬の最も金額が大きいことがほとんどです。成功報酬はレーマン方式という取引金額に基づいた算出方法が使用されています。
取引価格 | 料率 |
---|---|
基準額5億円までの部分 | 5% |
基準額5億円超~10億円の部分 | 4% |
基準額10億円超~50億円の部分 | 3% |
基準額50億円超~100億円の部分 | 2% |
基準額100億円超の部分 | 1% |
M&AアドバイザリーとM&A仲介の違いは、そのクライアントに対する位置づけにあります。「売りたい企業」および「買いたい企業」からみると契約の違いとも言えます。
M&Aアドバイザリーは売り手と買い手いずれか一方の企業の担当になるのに対し、M&A仲介は両者と契約を行います。M&A仲介は両者から報酬を受け取るのが一般的ですが、M&Aアドバイザリーは契約した一方のみから報酬を得ることが多いです。
買い手や売り手にとって、M&Aアドバイザリー契約でもM&A仲介契約でも、費用は大差ないですが、利益相反の生じないM&Aアドバイザリー契約の方がクライアント側からすると望ましいと言えます。
M&Aアドバイザリーはクライアントにとって心強い味方ですが、クライアントのために注意しなければならないポイントが多くあります。その中でも重要な3点について解説します。
M&Aを行う企業は、M&Aアドバイザリー会社に会社の技術・ノウハウなどの内部情報を事細かに提供する必要があります。中には社外秘の情報が多く含まれていることもあり、取り扱いは慎重に行わなければなりません。万が一、情報漏えいしてしまうと、会社の価値が下がってしまったり、クライアントの競合他社がノウハウを取り入れてしまう可能性があります。高い信頼性のもとで依頼されていることを、しっかりと認識しなければなりません。
M&Aは億単位の大きな金額が動きますので、M&Aアドバイザリー会社を選ぶ企業は信頼性に加えて支払う金額についても意識します。成功報酬に見合うだけの利益がM&A後に創出可能かどうかという視点で価格を判断していくので、意思決定するクライアントの立場で、報酬などの価格を設定する必要があります。
M&AアドバイザリーはM&Aに関するアドバイスの他に、候補企業の探索及び情報収集、企業価値評価、条件交渉、デューデリジェンス、契約書・資料の作成など多岐に渡る業務が可能なため、何を実施し何を実施しないのかを、契約時に明確に決めておく必要があります。万が一、M&Aアドバイザリーも企業もやらずに漏れてしまった業務があると、M&A完了が遠のくリスクなどがあります。
経験については、まずは「M&A業務に実際に携わったかどうか」が最も重要になってきます。それ以外の経験ですと財務コンサルティング、特にPMO、CXOレイヤーに対するコンサルティングの経験があると評価が上がる傾向にあります。他にもコンサルティングファームや監査法人出身、証券会社など金融業界出身の方も求められています。
M&Aアドバイザリー業務ではM&Aにおける利害関係者との調整や交渉が必要です。したがって、クライアントリレーション能力、コミュニケーション能力が求められるでしょう。
M&Aでは複雑なプロセスが多く、多数の利害関係者が関与するため、円滑に進められるプロジェクトマネジメント能力が必要とされます。進捗(しんちょく)管理や課題管理、リスク管理ができる高いスキルもあると良いでしょう。
財務系スキルは、財務モデリングや事業計画策定に係る専門的かつ実務的なノウハウ、デューデリジェンスといった専門的なスキルが求められます。
基本的にM&Aアドバイザリーになるには資格が必要そうだと思われがちですが、実際は資格不問の求人がほとんどです。ただし、税理士や公認会計士、中小企業診断士のような資格があるとプラスの評価がされることがあります。とはいっても、経験やスキルが優先されることがほとんどです。
M&Aアドバイザリーの年収は所属する企業と役職によって大きく変わってきます。また、1件ごとの金額が非常に大きいため、インセンティブがある企業だとさらに幅が広くなります。具体的な金額で言うと、最低でも500万円程度が相場ですが、5000万円以上稼ぐ方もいるような状況です。高年収を目指せることはこの業界が転職市場において人気である理由の一つとなっています。
M&Aアドバイザリーは業務が複雑で広範囲の知識が必要な分、年収も高く、成果によってはさらに稼ぐこともできるような職種です。一方で企業のM&Aという重要な局面をサポートする責任の重さを理解しつつ、完了したら大きな達成感を味わえるという意味でも魅力的なので、興味があればまずは求人を見てみてください!