台湾の半導体大手の工場進出や国内半導体企業の増設など、活気づく熊本県。株式会社大成経営開発は熊本県熊本市の本社と東京や大阪、ベトナムにも拠点を持ち、クラウドをフル活用して業務を展開しています。経営にまつわるワンストップサ―ビスを強みに、全国に顧客を持っています。
代表の石本泰大氏は、2020年4月に代表に就任。若手従業員を増やす中で、顧問先と共に発展していく。地方を拠点に業務を強化していく背景にある哲学について、
HUPRO編集部が伺いました。
―代表に就任した経緯を教えてください。お父様が創業者ということで、後継者となることは以前から決まっていたことなのでしょうか。
石本:父(創業者の石本義弘氏)が創業した当時、僕はまだ小学生でした。自宅兼事務所だったので、会社と一緒に育ってきたようなものです。ちなみに、その時の社員第一号の女性が、2代目の前代表です。
私も、大学卒業後は別の会計事務所に就職しました。働いてみて、実際に楽しかった。父からは「絶対、(大成経営開発へ)入ってくるな」と言われていましたが。そのような状況だったので、後継者になる予定はまったくありませんでした。ただ、前代表が病気をしたことで、代表を替わる人物が必要になりました。
私が入社したのが約8年前です。父はそのときも、ずっと反対していました。実際に僕が代表に就任したのが2020年4月。もしかすると、父は今でも賛成していないかもしれません。
―お父様の賛同を得られない中、それでも3代目の代表に就任されたのはなぜですか。
石本:よく指摘されているように、中小企業の事業承継は借入金や保証人の問題など、難しいことが色々とあります。しかし、誰かが引き継がなければならないと考え、決心しました。社員のどなたかに引き継いでいただけたら良かったのかもしれませんが、先ほど言ったように代表者となることで保証人等の色々なリスクを取れるかというと、やはり難しい面がありました。
それから、僕も以前の事務所で働いていて、顧客の経営者の方たちと経営の話をするのが楽しいと思っていました。税務会計上の細かい数字も大切なのですが、例えば「今は利益がこれくらい出ていますから、3年後5年後にどういう姿が理想ですか?理想を実現するために、こうしていきましょう」など、大局観を持って経営の話をするのが好きだったということもあります。
―では、ご自身の経験から、事業承継の難しさは身を以て感じていらっしゃるわけですね。
石本:はい。同様の課題を抱えたお客様の気持ちはよく分かります。事業承継にあたっては、自社の株価や相続税の問題が指摘されますし大変なことなのですが、もっと大変なことは、数字では計れないことにあるのです。顧客のことであったり、既存の社員のことであったり。代表者が変わるということで、関係者も環境が変化する可能性がありますので敏感になっている状態ですので。
極端な言い方をすれば、株価や相続税は、お金で解決できるのです。でも、顧客や社員などの対応は、人の心が働く部分ですから、お金ではどうしようもありません。こうした面での苦労は、多少は理解して差し上げられるのではないかと思います。
―貴社が掲げているビジョンを教えてください。
石本:ちょっと大きいのかもしれませんが、「会社は何のために存在するのか」ということを、常に考えてもらうようにしています。ここでいう「会社」とは、私たち大成経営開発のことです。従業員、お客様、のために。会社という存在をうまく利用して、お客様もお取引先も、個人も幸せになろう。そのために、皆で会社にフォ―カスして仕事をしましょうよ、という考え方ですね。
弊社は最も多いときで、僕が入社する前ですが約100人の社員がおりました。今は50人以下の社員数ですが、売上は下がっておらず、逆に増加しております。理由としては、クラウドサービスをカスタマイズしてうまく使っていることと、ベトナムの事業所を活用していることです。一人当たりの生産性をいかに向上させるかに、重きを置いております。そのうえで社員に還元し、皆で豊かになろうよと思っています。したがって、今後も根拠がない中では人を増やすつもりはないのです。それよりも、生産性の向上を意識しています。
―人員減は、退職者の補充などがなかったということでしょうか。
石本:人数が減った要因は、以前はパ―トの方で記帳代行をする女性が何十人といたのですが、今はクラウドを活用し、ベトナム事業所で、ベトナム人で日本語・英語が堪能な現地社員が、日本の会計ソフトに入力してくれています。日本側にクラウドの責任者を二人配置しており、ベトナム側で入力し、完了したら日本側に報告という流れ。業務フローが見えやすいので、作業がスムーズに進むのです。
―掲げているビジョンを解釈すると、自分たちの存在と仕事を、常に自問せよということになりますね。
石本:そうですね。この仕事は、経営者の方と相対し、大切なお客様のお金や機密情報を取り扱う思い責任があります。だからこそ、やりがいがあると思っています。経営者の方は、自分の財布の中を見られたくないのに、それをお金払って「お願いします」と見せているわけですね。
経営者というのは、誰にも話せない悩みを必ず抱えています。経営者仲間の飲み会に行っても、数字の話や借金、人に関する話などはなかなか、心の底から話せません。それを話せる相手は、全てを知っている会計事務所です。このような経営者の方の良き相談相手になっていくために、私たちも常日頃から自己研鑽に努め良きパートナーとなれるようにしています。
常に悩みを抱えている経営者にとっては、弊社が遠方の会計事務所であるということも、情報が漏れないという面で大きいようです。人口の少ない地方都市では、辞めた社員が近くの他の会計事務所に転職することも少なくないようです。例えば、山梨県甲府市に顧問先があるのですが、同市の人口は19万人程度です。会計事務所の数も基本的には人口に比例しますので、情報が漏れることを嫌う経営者の方にも安心して選んでいただいております。
―顧客の割合は、熊本県の内外でどの程度を占めているのでしょうか。
石本:熊本県内が6割で、東京と大阪で残り2割弱ずつ。全体の5%程度が北海道や神奈川、千葉など。奄美大島や、小豆島の顧問先もあります。訪問しないでリモート面談の顧問先もありますが、それぞれこちらから訪問します。出張を楽しむ社員もいますね(笑)。
―御社で募集しているのは、どのような職種となりますか。
石本:職種としては、巡回監査員と呼ばれる職種です。お客さまのもとを毎月訪問して、月次の試算表の説明や決算対策などを助言するのが仕事内容です。私がまだ36歳ということもあり、代表になってからスタッフの若返りも図り、20代や30代の社員が半分近くを占めています。巡回監査員は毎月訪問するので、当社の提供する「ワンストップサービス」の窓口となる役割も担っています。
―「ワンストップサービス」とは、具体的にどのような内容ですか。
石本:顧客と毎月会うのは、会計事務所なのです。税務会計以外にも実際は、登記のことや社会保険のことなど、さまざまな相談があります。登記ならば司法書士、社会保険なら社会保険労務士となりますが、お客様からすると「会計事務所の担当者に話せば、司法書士さんにも労務士さんにもつないでもらえる」となると、非常に助かります。これがなければ、自分達で労務士や司法書士を探して、抱えている悩みを最初から説明して…ということをしなければならないのです。その部分を、毎月訪問する弊社にご相談いただければ、スムーズにつなぐことができます。
ワンストップサービスは、当社の強みの一つです。社内には税理士と社労士、行政書士がおります。このほかにも、士業の先生と提携しております。こうしたネットワークを、ワンストップサービスで提供しています。
―ワンストップサービスが機能している具体例があれば、お願いします。
たとえば、建設業の会社が公共工事の入札に参加するためには経営審査があります。さまざまな評価項目をもとに点数が付けられ、その点数によって参加できる工事の種類が変わります。経営審査を専門に行うのは、行政書士です。そのため、顧客の財務資料をもとに弊社の行政書士がフィードバックを提供し、「ここの数字を上げないと、合計点数が50点上がらない」などと助言します。
こうした蓄積があるので、建設業の経営審査を見越して、決算時期が来る前の時点で予測して、経営者に助言することもあります。例えば、「今期はこの数字だと、前期で800点だったのが700点に下がるかもしれない」と言われれば、経営者は決算が来る前に対応する余地があります。
―このほかの御社の強みは、なんでしょうか。
石本:財務コンサルティングですね。会計事務所というと毎月の試算表を作って申告業務をするイメ―ジを持たれるかもしれませんが、弊社は、試算表をもとにお客様にコンサルティングを提供しており、そのことが付加価値になっています。
具体的には、B/Sに特化しています。銀行借入金や在庫の回転率、不良債権の整理や増資、ファイナンスなど。中小企業ですと、P/Lに注目しがちです。売上や利益、人件費や法人税などの方が分かりやすいですから。ただ、B/Sのほうが、経営の面では大事だと思っております。
P/Lは1年の決算が終わったら、数字が全部、ゼロに巻き戻ります。売上も利益も役員報酬も。しかしB/Sは、1年が過ぎても普通預金や売掛金、長期借入金の残高は引き継ぎ、リセットされません。会社としては永遠に繰り越していくので、悪いことも一度起きれば、引き継いでいくことになります。財務コンサルティングは、コミュニケ―ション能力や、税務以外の能力も必要なのです。銀行がどう見るかという勉強もしないといけません。
―貴社の強みを考慮すると、巡回監査員は確かに、お客様との窓口として重要ですね。どのような人材が活躍できるとお考えでしょうか。
石本:基本的なことかもしれないのですが、相手の立場に立って物事を考えることができる人かと思います。それから俯瞰的に物事を見ることができる人。自分とお客様、弊社、ひいてはその家族を、一歩引いたところから見られる能力がある人は、向いていると思います。
また、聞く力と、自分の言葉で考えを伝えきれる力も必要ですね。当社で活躍している人たちは自分の考えを持っていますし、きちんと言葉にして経営者にも伝える能力を持っています。
―地元・熊本の経済を、どのように見ていらっしゃいますか。
石本:コロナ前までは、インバウンド需要がすごかったです。アジアに近く、港が整備されていることで大型客船が週に数回やって来て、1回で4、5千人くらいは訪れていたのではないでしょうか。それがコロナでぱったりと途絶えて、飲食店や旅館は大打撃をこうむりました。ただ今後は、台湾の半導体工場が熊本にできます。一つの街が来るような感覚です。相当な経済効果になると言われています。
ただ、光と影もあるのかもしれません。半導体工場ができる理由は、きれいな水があるから。一方で、熊本は農業が盛んです。水質が変わって、収量に影響するのではという危惧もされています。ト―タルの数字で見れば、大きな規模の工場なので、地元の雇用も創出され景気は良くなると思います。
―今後、御社としてはどのようにお客様の役に立っていきたいですか。
石本:我々の経営理念には、お客様も幸せになることが絡められています。究極の目的は、全顧問先の黒字化です。黒字になり、B/Sに問題がなければお金に大きな苦労をしないで済みますから。つまり、大きな悩みが一つなくなるわけです。お金は、幸せの絶対条件ではないけれど、必要条件ですよね。全社黒字化のために、財務コンサルティングを中心として一生懸命に取り組みます。
また、税務会計には引き続き取り組む一方で、相続税を中心とした資産税及び事業承継にも力を入れていきたいです。税務会計と資産税、事業承継は、近い関係にあるので相性がいいのです。
したがって、巡回監査員の候補としては、法人税申告や相続税申告に携わったことのある方、簿記や税理士科目保有者、中小企業診断士の資格を持っているとか、商工会議所で関連業務していたという方も大歓迎ですね。