事業を営む上で必ず耳にするのが「助成金」「補助金」です。積極的に助成金や補助金を活用している事業者にとっては、経営基盤を補強するという意味において有効な手段となっているのではないでしょうか。
他方、少なからずの事業者が、特段の理由なく助成金や補助金を敬遠しているという現状もあります。そこで今回は、これから助成金・補助金の活用を検討される事業者のため、「助成金・補助金とはどのようなものか」「助成金と補助金に違いはあるのか」を紹介します。どうぞ最後までご覧ください。
まずは、助成金及び補助金がどのようなものか、そして、両者における違いを簡単に紹介します。
助成金とは、国や地方公共団体が事業者支援を目的として交付する金銭です。主として厚生労働省管轄事業について使われる言葉で、各助成金において規定される所要件を充たす限り、必ず支給を受けることができます。原則として、返済は不要です。
特に、厚生労働省が推進する雇用関係助成金は、雇用者や労働環境を取り巻く問題を改善するために、幅広く制度化されています。特に最近注目を集めているのは、新型コロナウイルス感染症の影響で推進されているテレワーク環境の整備に係るものなどです。
主な助成金としては、以下のものが代表例として挙げられます。
働き方改革推進支援助成金:時間外労働の削減及び年次有給取得促進を目的として、企業内における環境整備のために助成されるもの。テレワーク整備にも活用できるので、新型コロナウイルス対策として注目されている。
雇用調整助成金:事業経営の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用を維持するなどの目的で助成されるもの。休業手当や教育訓練の実施のために要する費用などに賄われる。
キャリアアップ助成金:非正規雇用者や正社員のキャリアアップ及び職業能力向上を目的として助成されるもの。
雇用関係助成金の種類については、「厚生労働省 事業主の方のための雇用関係助成金」を参照してください。
補助金も、国や地方公共団体が事業者支援を目的として交付する金銭です。助成金と異なり、主として経済産業省や地方公共団体管轄事業において使用される言葉で、交付のための審査に合格した場合にのみ支給を受けることができます。助成金と同様、原則として返済不要です。
特に、経済産業省主導で推進されている生産性革命推進事業制度においては、中小規模の事業者の労働環境整備を目的とした補助金に力が入れられています。
主な補助金としては、以下のものが挙げられます。
ものづくり補助金:中小事業者がサービス開発や試作品生産のために行う整備投資等に対して補助されるもの。
持続化補助金:小規模事業者の販路拡大事業の支援のために補助されるもの。
IT導入補助金:中小企業のバックオフィス業務の効率化やITツール導入を支援するために補助されるもの。
中小企業生産性革命推進事業の内容については、「中小機構 中小企業の生産性革命を応援します!」を参照してください。
上述のように、助成金と補助金には大きな違いはありません。助成金も補助金も、国や地方公共団体が主体となって事業者に交付するもので、原則として返済する必要のないものです。
ただし、助成金は要件を充たす限り支給されるのに対して、補助金は一定期間内における審査に合格しなければ支給されません。一般的に、助成金の方がハードルが低いと言われるのは、受給要件を充たす限りにおいて審査不要で必ず支給されるからです。
では、助成金のメリット・デメリットについて説明します。
まずは、助成金のメリットについてです。
助成金は、事業者支援のために交付されるものです。したがって、銀行などからの借入れとは異なり、返済する必要はありません。これにより、対象事業に係る事業者は、積極的に業務遂行を行うことができます。
助成金は、その多くが労働環境の改善を目的として交付されるものです。したがって、事業所内における労働環境が良くなるので、社員が働きやすくなり、社員の定着率上昇・事業成績の向上を期待できます。
助成金は、支給要件を充たす限り、すべての申請事業者に対して交付されるものです。補助金と異なり審査段階が存在しないので、事業者にとっては「受け取りやすいお金」と言えます。
次は、助成金のデメリットを説明します。
従業員のために労働環境を整備することは、その制度を正しく機能させる限りにおいて、事業所全体にも利益をもたらしうるものです。しかし、労働時間の削減や賃金アップなどの制度変更が事業者にとって過分な負担となる場合には、せっかく助成金で制度を刷新したにもかかわらず、事業が立ち行かなるリスクが生じます。
なお、助成金交付によって導入した新制度を変更したり廃止する場合には、助成金不支給要件に該当するケースがあります。交付された助成金の返還を強いられる場合があるのでご注意ください。
助成金の支給を受けるには、必要書類等を作成しなければいけません。また、就業規則の見直しなどの制度変更を要するので、それに対応するための仕事が増えてしまいます。特に人事部門の負担が大きくなると言えるでしょう。
助成金の交付を受けるには、申請期限を遵守しなければいけません。そのためには、当該期限までに必要書類を不備なく用意し、助成金支給条件に該当するような制度変更計画を作成する必要があります。助成金の交付を受けるには、綿密な計画のもと、通常業務に並行して交付を受けるための業務を行わなければいけません。
続いて、補助金のメリット・デメリットについて説明します。
まずは、補助金のメリットについてです。
助成金と同様、交付された補助金も返済する必要はありません。
例えば、ものづくり補助金制度では、製造ラインに関する設備投資のために1,000万円の補助金を受け取ることができます。そもそも、中小規模の事業者にとって、設備投資はそう簡単なことではありません。しかし、この補助金を活用すれば、老朽化した設備を最新のものに更新できますし、結果として事業の効率化、収益の向上を図ることができます。
補助金交付を申請する際には、審査手続のために事業計画書を策定することを求められます。これによって、自社における現状把握及び今後の方針を再認識でき、企業の経営方針を会社全体で共有することに繋がります。
補助金の交付を受けるには、審査に合格しなければいけません。つまり、補助金の交付を受けたということは、審査に合格したことを意味します。事業計画書の内容が公的なお墨付きを得たと言い換えることもできるでしょう。これにより、銀行などの金融機関に対する信用力が高まります。
続いて、補助金のデメリットを紹介します。
補助金の最大のデメリットは、助成金と異なり、交付のためには審査に合格しなければいけないという点です。申請しても必ず交付されるわけではないので、事業者にとっては確度が低い資金調達手段という位置付けとなってしまいます。
説明会への参加、公募要綱の読み込み、必要書類の作成など、申請のためにはかなりのコストも要します。交付の確約がないにもかかわらずこれらの手間をかけなければいけないのは、事業者にとってネガティブポイントと捉えられても仕方ありません。
補助金の交付を受けるために作成した事業計画内容が、実際に達成不可能な内容だと、結果として事業者を苦しめるだけになってしまいます。不要不急の投資、オーバースペックの設備投資は、終局的には業務改善には繋がらない投資でしかありません。原資が補助金だったとしても、継続的な運用コストは自腹なのです。したがって、現実的な事業計画を作成しなければいけません。
補助金は、設備費用等に対するすべての支払いが終わってから交付されるものです。補助金申請にあたっては、各種振り込みを証明する資料の添付も求められているからです。つまり、補助金の交付を実際に受けるまでは、つなぎ資金を用意しなければいけないのです。銀行などの金融機関との調整が必要なので、事業者にとって負担となります。
以上が、助成金及び補助金に関する基本的な内容です。内容も豊富で、特に、仕事のあり方が問われている現状では、組織体制の変更のために役立ててみてはいかがでしょうか。ぜひご検討ください。