みなし残業と聞くと昨今の最高裁判例を始め、懐疑的な印象を持つ方が多いと感じます。しかし、全くメリットがないかというとそうではありません。適切に導入されていることが前提ですが、特に労働者目線では、一定の恩恵を享受することができます。今回はどのようなメリットなのかを確認していきましょう。
みなし残業とは、時間外労働をはじめ、休日労働や深夜労働に対する各々の割増賃金を予め決められた一定額で支払う賃金支払いの合意制度のことで、固定残業制度とも呼ばれます。
例えばみなし残業時間を20時間と定めた場合、5時間の残業しか発生しなくとも20時間分の残業代を支払わなければなりません。そして、30時間の残業が発生した場合は追加で10時間の残業代を支払うことが求められます。
よって、仕事の速い労働者にとっては、時短で仕事を切り上げることができれば、その分プライベートで使える時間が増えるにも関わらず給与は減らないというメリットがあります。
ゆえに効率的に仕事に取り組める労働者にとっては恩恵がある給与形態ということです。
また、会社側の目線では、そのような生産性の高い労働者を雇用することを目的とするのであれば、求人効果の上でも労使Win-Winにもなり得るということです。
また、会社側のもう一つのメリットとして、煩雑な給与計算の緩和です。前述の20時間のみなしであれば、固定的に20時間分の残業代は支払うことから、20時間以内の残業であれば(給与の支払いとして)残業の計算をしなくとも違法でないということです。ゆえに20時間を超えた場合のみ計算をすればよいとの理解です。
みなし残業を取り入れることで毎月の人件費の大幅な変動を抑えることができます。当然みなした時間を超える残業があればその分を精算しなければなりません。しかし、みなした時間内であれば、追加の支払いはないということです。よって、会社として、将来の業績見込みや経営判断を行う際には予測が立てやすいと言えます。
しかし、到底売り上げに繋がっているとは思えない冗長性の高い勤務態度(例えば終業時間を過ぎてから漸く仕事を始める)の社員の場合、会社としても本当に仕事をしているのか?と疑いの目を向けることもあるでしょう。そして、関係がぎくしゃくしてしまうこともあり、そのような場合でも固定的に一定額の残業が支払われ続けるという点は否定できません。
新規で社員を募集する際にみなし残業を採用する場合には、求人票への記載が必要です。また、単にみなし残業を採用することを記載するだけではなくそれは何時間分をみなすのか等です。
前述のとおり、20時間分をみなしているにも関わらず、ある労働者は30時間の残業があった場合を想定しましょう。この時点では20時間分の残業代しか支給できていないことになりますので、追加で10時間分の残業の計算が必要です。
例えば基本給が30万円の労働者に対して5万円のみなし残業代を採用する場合を例に挙げます。純粋な基本給を30万円から25万円にする場合、基本給は実質的に減額することとなりますので、賃金の不利益変更と評価されます。よって、高度の必要性が求められるということです。
反対に基本給30万円に対して追加で5万円のみなし残業を加える場合は不利益変更にはあたりません。注意すべき点は通常の賃金とみなし残業代を明確に区分すること、みなし残業より多い残業が発生した場合はその差額を支払うことを就業規則に記載し、みなし残業制度の有効性を基礎づけることが肝要です。
賞与は、基本給や残業代と異なり、必ず会社が支払わなければならないものではありません。しかし、経営成績を鑑みて労使協議により支給額が決定される場合や、就業規則(又は賃金規定)により賞与の支払いが具体的に明記されている場合は同じ解釈とは言えません。
そして、おおまかに分類すると賞与は以下の3点に分けられます。(就業規則や賃金規定を要確認)
・賞与支給の有無が都度決定する企業(労働者は抽象的な請求権を持つに留まる)
・賞与支給の有無と額が明確に定められていない企業(労働者は抽象的な請求権すらなし)
・賞与支給額が予め確定している企業(労働者は具体的な請求権を持つ)
いずれの場合も、実務上は基本給を基にして賞与を計算することが多いでしょう。例えば全体として30万円の給与を支給されている労働者を検証します。基本給は少なめ(例えば20万円)に配分し、みなし残業代を10万円とする場合は20万円に対して賞与の支給率を乗ずることにより、会社目線では人件費を抑えることが可能と言えます。しかし、労働者の納得感は得られないことが多いと考えます。
そして、途中で基本給を実質的に引き下げて賞与計算を行うように変更した場合、不利益変更の議論も生じます。賞与は景気や経営成績を反映する性格を持っていることから月例給与と比較して変更の合理性は認められやすいと言えます。しかし、労働者への功労報償的な性格、将来の労働意欲へのインセンティブ等を総合考慮すると納得のいく説明は必要と言えます。