会計の知識として広く認められている商工会議所による簿記検定試験の3級と2級の大きな違いは、工業簿記があるかどうかにあります。今回は工業簿記の概要と商業簿記との違い、学習の進め方について解説していきます。
工業簿記と商業簿記の違いについてご説明する前に、まず日商簿記2級の必要性について述べたいと思います。
会計業界や経理職に就職をしようと考える際、スキルとして簿記検定試験の合格を提示することは非常に有効です。また採用条件にあらかじめ提示している会社も多くあります。
しかし、採用条件としてあらかじめ提示している会社の多くが求めているスキルは、簿記検定試験2級以上の合格者であり、3級のみでは非常に就職先が限定されてしまうのが現実です。よって会計業界や経理職に就職をしようと考える際には、簿記検定2級以上に合格をすることで、より良い就職活動に臨むことができるのです。
そんな日商簿記2級で問われるのが、工業簿記についての知識です。
工業簿記とは、主に製造業での会計処理に適用される複式簿記を指します。
工業簿記は会社の内部の生産活動に伴う材料費、労務費、経費について処理を行い、製造原価を算出する複式簿記です。分かりやすく言えば、製品を作るのにどのくらいの費用がかかったのかという原価計算をするために必要な知識です。
工業簿記の知識を使用した主な業務としては原価計算や決算書類の作成が挙げられます。特に原価計算は標準原価計算、直接原価計算、部門別原価計算などに細分化されるため、それぞれについて正確な理解をしておくことが求められます。
一方で商業簿記は、仕入や売上などの会社の対外的な取引について処理を行う複式簿記で、製造業以外の業種の企業で幅広く使用されています。
小売業では、商品の販売によって売上を発生させることに対する仕入商品は、他社からの仕入代金が提示されることによって、自社で計算をすることなく売上原価が決定されます。
工業簿記と商業簿記の違いについて、大まかに活用されている企業の違いはお分かりいただけたかと存じます。ここではより具体的に、両者の性質の違いについて解説していきます。
まず大きな違いとして、使用する勘定科目の違いが挙げられます。
工業簿記では、商業簿記の範囲ではでてくることのない「材料」「製品」「仕掛品」「労務費」などといった勘定科目が出てきますので、当然工業簿記を実施するにはこれらの理解が必要になってきます。
通常、工業簿記の場合も商業簿記の場合も会計期間(1年間)を設けています。
ですが工業簿記の場合は、迅速な意思決定が求められるため、原価計算期間が1ヶ月単位とされており、1ヶ月ごとの月次決算を行うのが特徴です。このような短期間で計算期間が設定されているのは、製品原価に問題があった場合にも迅速な改善が行えるようにするためです。
勘定科目などが違えば、財務諸表や損益計算書、貸借対照表上での表記の仕方も変わってきます。例えば、商業簿記で言う「当期商品仕入高」が工業簿記においては「当期製品製造原価」と表示されます。
日商簿記検定の試験範囲においても、日商簿記と工業簿記とでは違いがあります。
3級での出題を中心とした商業簿記においては、勘定科目などの暗記や簿記の考え方を理解する力が求められる一方で、2級以上で出題される工業簿記では詳しい計算方法や深い知識が求められます。
試験範囲の違いに伴って、学習内容もそれぞれに特徴があります。
まず商業簿記については、勘定科目の名称や簿記の基本的な考え方についての理解を問う問題が出題されるため、暗記に重点を置いた勉強をすることになります。
一方で工業簿記については、原価計算の方法や製品の工程別原価の割り当てなどを理解した上で、計算ができるかがポイントです。暗記というよりは、理解力が求められる内容といえるでしょう。
商業簿記において重要となるのは損益計算書における「売上原価」の計算です。商業経営では外部から仕入れた商品を売上げた結果を貸借対照表で表していますが、工業経営においては自社で制作製品の原価を元に計算しているため、「原価計算」をすることが、主な目的となります。よって工業簿記と原価計算は切ってもきれない関係性なのです。
ここでは、より難易度の高い工業簿記について詳しく解説します。
材料費とは製品を制作するにあたり、物品の消費によって生ずる原価です。素材費、部品費、燃料費、工場消耗品費、消耗工具器具備品費等が該当をします。期首材料費に当期材料仕入費を加え、期末材料費を差し引いたものが、当期の製品制作に投じた材料費と計算がされます。
労務費とは製品を制作するにあたり、労働役務の商品によって生ずる原価です。工員賃金、給料、法定福利費等が該当をします。
経費とは、製品を制作するにあたり、材料費、労務費以外に生ずる原価です。材料棚卸減耗損、外注加工費、工場に係る減価償却費、工場に係る水道光熱費、保険料、修繕費等が該当します。
上記の当期の製品制作に投じた材料費、労務費、経費を合計したものを当期製造費用といいます。また、完成製品でない仕掛中の製品を仕掛品といいます。
期首仕掛品棚卸高に当期製造費用を加え、期末仕掛品棚卸高を差し引いたものが、製造原価となります。ここでいう製造原価とは、販売することが可能である完成製品に対する原価をさします。
期末仕掛品棚卸高の金額の評価方法には、数量を計算の基礎とする平均法、先入先出法と金額を計算の基礎とする売価還元法があります。
それぞれの計算方法によって仕掛品の評価額が変わります。
売上原価は販売することが可能である完成製品の期首製品棚卸高に当期製品製造原価を加え、期末製品製造原価を差し引いたものが、当期の売上原価となります。
売上原価がさすものは、小売業等の他業種と同様に、販売したものに対する原価であり、売上から売上原価を差し引いたものが、売上総利益となります。期末製品製造原価の金額の評価方法には、仕掛品と同様に、平均法、先入先出法、売価還元法があります。
では、簿記を受験するにあたり、工業簿記と商業簿記はそれぞれどのように学習を進めれば良いのでしょうか。
前述のようにそれぞれの学習内容に違いがあるため、得意、苦手が分かれるかもしれません。
日商簿記3級は、1ヶ月勉強すれば取得できるとも言われているため、そこまで子細に勉強方法を立てる必要は無いでしょう。通信講座などを受ける余裕があれば、より手軽に合格可能といえます。
一方、2級に合格するには独学では300時間程度の勉強が必要とされているため、その勉強期間についても早くて半年程度となっています。そのため、ある程度は学習計画を立てておくと安心です。
一般的な学習計画としては、3級の範囲である商業簿記を一通り学習してから、その後の応用として工業簿記を学習することがおすすめです。
初めて勉強をする場合は特に、商業簿記の考え方が頭に入っているか否かで、学習の効率が変わってくるでしょう。
学習方法としては、一度テキストを読んで概要を理解し、実践問題を解く、間違えた問題やわからないものは都度テキストで確認する、といった流れが良いでしょう。
工業簿記は、商業簿記のように暗記がメインではなく計算の考え方を理解することが大切なので、実践問題や模擬テストの回数をこなして、理解していくことをおすすめします。
また、はじめから2級の取得を目指すのではなく、3級で商業簿記の知識が習得できているか確認してから目指すというのもよいでしょう。
冒頭でご紹介したように、会計事務所や経理職の求人を中心に、日商簿記2級を必須の採用条件にしていることがよくあります。
そのため商業簿記と工業簿記を習得した上で日商簿記2級に合格できれば、幅広い求人からご自身にマッチしたものを選ぶことができるでしょう。
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