求人票で「社保完備」「福利厚生充実」といった言葉を見かけることがあります。福利厚生は「見えない給与」として、企業がどれだけ社員のことを大事にしているかをはかるバロメーター。就職・転職時の待遇としてぜひチェックしておきたい部分です。今回は福利厚生の種類について解説します。
「福利厚生」という言葉には「人間の暮らしを健康で豊かなものにすること」という意味があります。そこから転じて、企業が従業員(さらにその家族)に対して提供する「給与以外の報酬やサービス」を指すようになりました。
つい最近、Amazonで従業員の大学授業料を全額負担するというニュースがありましたが、あれも福利厚生の一環です。福利厚生は、日本だけでなく世界中の企業でおこなわれています。
企業は、なぜ給与以外の報酬を従業員に与えるのでしょうか。それには、大きく4つの目的があります。
・従業員のモチベーションアップ
・優秀な人材の確保
・節税
・従業員の健康管理
より良い就労環境は、従業員のモチベーションを高めてくれます。また、先ほどのAmazonの例のように、労働力が不足し、人材確保が困難な業種は福利厚生で優秀な人材を獲得しようとするものです。
わざわざ福利厚生という形にしなくても、企業は給与を経費にできます。しかし、従業員の側から見ると、10万円分の福利厚生が付いていた方が、額面給与が同じ額だけ上がるより税金が安く済むというメリットがあるのです。
会社によっては、福利厚生で人間ドックやフィットネス、マッサージなどが受けられます。自ら負担して検査を受けたりするのは億劫ですが、福利厚生で無料(あるいはわずかな費用負担)であれば、社員が自発的に健康管理を行うようになる効果が見込めます。福利厚生は「社員の健康維持」という役割も果たしているのです。
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福利厚生には大きく分けて2つの種類があります。
・法定福利厚生:法律で定められている福利厚生
・法定外福利厚生:企業が独自に設けている福利厚生
それぞれの種類と違いを見ていきましょう。
法定福利厚生とは、法律で決まっている福利厚生です。
社会保険(厚生年金・健康保険・40歳以上の介護保険)と、労働保険(労災保険・雇用保険)はここに該当します。
社会保険と労働保険は、条件を満たす事業所は強制適用になりますので、ほとんどの方がこれらを「福利厚生」と意識していないかもしれません。
しかし、転職先によっては社会保険がないこともあります。例えば、法人ではない個人事業主が開いている会計事務所などでは、社会保険の強制適用の条件を満たしていません。
その場合は、国民年金・国民健康保険に自分で加入する必要があります。
また、健康保険については、自社の健康保険組合を持つ大企業では、協会けんぽと比べ保険料負担が安かったり、企業負担割合が大きかったりすることも珍しくありません。
毎月の給与にかかってくることなので、法定福利厚生があるのかどうか、健保組合があるのかどうかについては、転職活動の際に確認しておくことをおすすめします。
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次に、法定外の福利厚生です。こちらも大きく分けて2つに分けることができます。
・自社で運用する福利厚生:その会社独自の福利厚生
・代行サービスどで運用する福利厚生:福利厚生を代行するアウトソーシング会社がメニューを提供しておこなう福利厚生
それぞれ見ていきましょう。
企業が独自で運用する福利厚生は、競合企業との差別化となります。働く従業員のモチベーションを高めることはもちろん、優秀な人材を集めることにもつながるため、企業としても力を入れる部分です。
出典:労働政策研究・研修機構 企業における福利厚生施策の実態に関する調査
福利厚生にはさまざまなメニューがあります。自社での運用が難しいものについては、専用のアウトソーシング業者に委託している企業も多いです。企業は、従業員の人数などに応じて代行サービス会社に料金を支払い、従業員は代行サービス会社が提供する福利厚生メニューを利用します。
代行サービス企業によって提供するメニューが異なり、人間ドックの施設が充実しているサービスや、旅行やホテル、ゴルフ場などの優待に長けたプラン、介護や育児支援などに加え、最近では食事やお菓子のデリバリーなど多くのサービスが提供されています。
福利厚生のメニューを、ピンポイントで自由に選び、与えられたポイントの中でカスタマイズできる「カフェテリアプラン」も人気です。カフェテリアプランについては、以下の記事でご確認ください。
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福利厚生は、正規雇用労働者だけが受けられる特別なものではなく、パートタイム労働者や有期雇用労働者(契約社員)にも適用されます。
2021年4月1日から、全企業においてパートタイム・有期雇用労働法が施行されました。「同一労働同一賃金」といわれるもので、無期雇用のと正規雇用労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正するものです。
賃金というと、基本給や賞与に目が行きがちですが、これは正社員と非正規雇用社員の待遇差を改善するものなので、福利厚生も対象になります。
数年前に、派遣社員が社員食堂を使用できない企業があるというニュースがありました。現在の同一労働同一賃金の規程では、派遣社員が働くうえで、正社員と格差を感じることがないように派遣先企業は配慮しなければならい義務があり、食堂・休憩室・更衣室利用に際して、社員と差をつけてはならないとされています。
リモートワークの導入で、オフィスで過ごす時間が短くなり、通勤手当が実費支給になる企業も増えてきました。そんな中、企業は豪華なオフィスや社員食堂、ドリンクやお菓子のサービスなどのオフィス勤務を前提とした福利厚生に対するアプローチを変えつつあります。
コロナ禍で特に注目されたのは「リモートワーク補助」「在宅勤務手当の支給」です。コロナ禍で急きょ自宅で仕事をしなければならなくなった時、最も必要のは環境整備でした。スペースの確保だけでなく、仕事用の机や椅子の購入、インターネット回線の敷設など自宅でも業務ができる環境づくりのために必要な支援金を補助した企業も多くありました。
また、自宅で仕事をするとなると、その分の水道光熱費もかかります。在宅勤務が常態化した企業では、これまでの通勤手当を在宅勤務手当として、定額を支給する企業も増えています。
他にも、コロナ禍というストレスのかかる状況で、メンタルヘルス対策として、カウンセリングサービスや、オンラインで取り組めるビジネス研修など自己啓発に加え、ヨガレッスンなどの健康支援、自宅でレストランの食事を楽しめるフードデリバリーサービスなど、外出の機会が減ったため「自宅でもできる」メニューが増えているのが大きな変化といえるでしょう。