労働分配率という経済用語があります。これは企業の人件費に関する割合です。
これを理解し活用することで、企業経営がより良いものとなります。
今回は、労働分配率について、その計算方法や、産業別の平均値、産業別、資本金別の推移のデータのご紹介、活用の方法まで、詳しく解説していきます。
労働分配率とは、経済用語のひとつであり、企業の利益に対する人件費の割合のことをいいます。
つまり、企業の儲けがどれだけ従業員に還元されているか、という指標であり、給与額の決定等の参考情報になります。
労働分配率は、人件費÷付加価値×100(%)、という計算式によって導き出されます。
詳しい計算方法については、下記のコラムをご確認ください。
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労働分配率の計算における人件費とは、従業員のために必要となった経費の総称をいい、具体的には財務諸表における下記のような勘定科目が該当をします。
各勘定科目の内容については、下記コラムをご参照ください。
労働分配率の計算における付加価値とは、企業が売上を生じた際に新たに生み出した価値、利益のことをいいます。
例えば、10円で仕入を行った消費を100円で販売した場合における付加価値は、この差額の90円であるといえます。
付加価値の計算方法には、控除法(中小企業庁方式)と、加算法(日銀方式)があります。
控除法における付加価値は、売上高-外部購入価額、という計算式によって導き出されます。
加算法における付加価値は、人件費+金融費用+減価償却費+賃借料+租税公課+経常利益、という計算式によって導き出されます。
付加価値については、下記コラムをご参照ください。
労働分配率の目安は、業種や企業の規模によって異なりますが50%であるといわれており、70%を超えると企業活動が人件費に圧迫されるといわれています。
労働分配率が大きい程、企業の利益が従業員に還元されることが示されるため、従業員にとっては給与額等が比較的高く好待遇である企業であるといえますが、企業にとっては利益を給与額等に大きく割いていることが示されるため、その他の企業活動に充てる資金が少なくなるため厳しい状況に陥りやすくなります。
経済産業省企業活動基本調査によると、2021年8月に公表をされた最新の2019年分の各業種における労働分配率の平均は、下記のようになっています。
2019年の労働分配率は、2018年の労働分配率と比較をすると、全体平均が48.6%から50.1%へと上昇しています。
合計の労働分配率の上昇は、2018年と比較をすると付加価値額及び給与総額ともに減少したものの、付加価値額の減少率が上回ったことに起因しています。
主要産業別にみても、製造業は47.8%から50.8%へ、卸売業は48.6%から49.5%へ、小売業は49.3%から50.0%へ、それぞれ上昇の傾向にあります。
厚生労働省の令和3年版厚生労働白書によると、労働分配率は下記のように公表されています。
・2013年以降の景気拡大局面では、全ての資本金規模において労働分配率は低下傾向で推移していたが、2018年には、資本金1億円以上10億円未満の企業で、2019年には、資本金10億円以上の企業及び資本金1千万円以上1億円未満の企業で、労働分配率は上昇に転じ、全規模では2019年第Ⅳ四半期(10~12月期)以降上昇傾向に転じた。
・2020年には、感染拡大防止のために経済活動が抑制された一方で雇用維持が図られたこと等の影響により、人件費の減少率のマイナス幅よりも付加価値の減少率のマイナス幅が大きくなった結果、全ての資本金規模において労働分配率は、特に2020年第Ⅱ四半期(4~6月期)に大きく上昇した。
・また、2020年第Ⅲ四半期(7~9月期)には資本金1千万円以上1億円未満及び1億円以上10億円未満の企業において、リーマンショック期のピーク(2009年第Ⅱ四半期(4~6月期)に近い水準まで上昇した。2020年第Ⅳ四半期(10~12月期)には、資本金10億円以上の企業で引き続きやや上昇したが、資本金1千万円以上1億円未満及び1億円以上10億円未満の企業では低下し、全規模でも低下した。
出典:令和3年版厚生労働白書
ご紹介しました通り、労働分配率とは企業の利益に対する人件費の割合であることから、この割合を活かすことで、より良い企業経営が可能となります。
産業別や資本金別の労働分配率の推移等をご紹介しましたが、あくまでもこれらは平均であって、企業毎に見合った割合を考える必要があります。
しかし、平均と比較をいて現在の労働分配率が高すぎる、あるいは低すぎる、という場合には、下記のような企業の問題を見直すきっかけになります。
労働分配率が高すぎる場合には、利益に対する人件費の割合が高すぎることを示すため、下記のような問題を企業が抱えている可能性があります。
労働分配率が低すぎる場合には、利益に対する人件費の割合が低すぎることを示すため、下記のような問題を企業が抱えている可能性があります。
労働分配率についてご紹介を致しました。この指標を活用することで、より良い企業経営が可能となるでしょう。
是非ご参考になさってください。