役員報酬とは、会社の役員に対して支払われるお金のこと。毎月従業員に給与が支払われるのと同じように、一定の条件を充たす形で役員にも報酬が支給されます。
もっとも、役員「報酬」と呼ばれることからも明らかなように、従業員「給与」とは扱いが異なる場面が少なくありません。
そこで、このコラムでは、役員報酬とはどのようなものか、役員報酬の決め方や節税上重要な”損金算入”との関係について分かりやすく解説します。最後までご一読ください。
役員報酬とは、会社の役員に対して支給する報酬のことです。文字通り「役員の職務進行への対価」というイメージで差し支えありません。
もっとも、後述するように、雇用契約に基づいて労働の対価として賃金が支給される従業員とは異なり、委任契約に基づいて支給される役員報酬については、会社法及び税制上、従業員給与とは異なる厳しい諸規制が加えられているのが実態です。
そこで、まずは役員報酬の支給対象(各種役員報酬規制が及ぶ範囲)を確認していきましょう。具体的には次の通りです。
No.5200 役員の範囲(国税庁HP)
ここから明らかなように、各種役員報酬規制が及ぶ範囲は肩書だけで決まるわけではありません。例えば、よく見られるケースついては家族経営の企業。使用人として雇用されている家族の地位・職務・株式の保有割合などを総合的に考慮した結果、実際は経営に対して口出しできる立場にあるような状況なら、当該使用人の給与も役員報酬とみなされるため注意が必要です。
では、なぜ役員報酬と従業員給与を区別して厳格な規制を及ぼす必要があるのでしょうか?その理由は、役員報酬と従業員給与の性質の違いに見出すことができます。
そもそも、従業員は会社との間で締結した雇用契約に基づいて労務を提供し、その対価として給与を得るものです(民法第623条)。そして、従業員に支払う給与は全額税務上の”損金(法人税算出基礎になる”所得”から除外できるもの)”に算入できるので法人税の節税に役立ちます。
これに対して、役員は会社との間で締結した委任契約に基づいて職務を執行するものです(民法第643条)。そして、委任契約は無償でも有効性が認められる契約類型であるため、雇用契約に存在するような「役務との対価性」は厳密な意味で求められません。つまり、委任契約に基づく役員報酬は無償と定めることもできますし、逆に、かなり高額の金額を定めることも差し支えないということです。
ただ、役員報酬を従業員給与とまったく同様に扱うことには問題があります。なぜなら、会社経営陣の役員報酬額を自分たちで自由に調整できて、しかも、従業員給与と同じように全額損金(費用)扱いできるとなると、不正な会計処理(法人税の脱税・会社資金の私的流用・お手盛りなど)が行われるリスクが高まるからです。
そこで、役員報酬に対しては次の2つの視点から規制が加えられることになります。
以上より、役員報酬は会社法及び法人税法の要請を充たすものでなければ適法に支給できないものだと導かれます。また、役員に対する退職慰労金についても同様の問題が発生することからも、「会社から役員に流れるお金」については常に厳しい監視体制が整備されているとお考えください。
なお、役員報酬と従業員の給与との違いについては次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
なお、費用・経費・損金の違いについては次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
基本的に、役員報酬に相場というものはありません。企業規模・業績・節税対策などの諸事情を総合的に考慮して決定されるものである以上、「従業員〇〇人以上の会社なら役員報酬額は△△万円が妥当」という画一的なルールが馴染まないのは明らかでしょう。
もっとも、これから役員報酬を決める場合・現在の役員報酬が適正かを判断する際には、同業種・同規模の会社における支給額が参考になります。過大な金額の役員報酬が支給されると税務署からのチェックが入るおそれもあるので、バランスの良さを重視するのがポイントです。
実際の役員報酬の支給データについては(民間企業における役員報酬(給与)調査(人事院HP))が役立ちます。令和2年度は新型コロナウイルスの影響で調査が見送られましたが、原則として毎年調査・公表が行われるものです。ご興味の方は令和3年度以降の人事院発表をご参照ください。
なお、役員報酬の相場については次のコラムでも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
役員報酬を適法に支給するためには、会社法で求められる手続きを履行する必要があります。具体的な流れは次の通りです。
ここでのポイントは、役員報酬の総額を決定するのは株主総会・定款によらなければいけないこと、そして、各役員への個別の報酬額については取締役会の裁量が認められていること、の2点です。
上述のように、役員報酬の支給は不正に会社財産が流出するリスクのある取引です。つまり、株主総会決議・定款という形での規制を及ぼすことによって、高額の報酬が株主の利益を害するリスクを排除する必要があります。もっとも、役員報酬全額に対する規制さえ及ぼすことができれば、株主側からの許可を得た報酬総額をどのような比率で個別役員に配当するかを役員自身に決定させても問題はないでしょう。
したがって、株主総会若しくは定款による役員報酬総額への規制で充分だと考えられます。
なお、役員報酬の決め方・手続きの流れについては次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
※株主総会決議・取締役会決議等を経て個別具体的な役員報酬額が決定した場合には、当該金額は取締役と会社の間で締結された委任契約の内容を構成することになります。したがって、一度決定された役員報酬額については、原則として本人の同意がない限りは会社側の一方的な判断で減額することはできません。
なお、役員報酬の金額を変更(増額・減額)する際の手続き・注意点については次のコラムでも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
それでは、役員報酬を損金算入するための支給方法について見ていきましょう。具体的には次の3つの方法が挙げられます。
No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)(国税庁HP)
それでは、各パターンについて詳しく見ていきましょう。
定期同額給与とは、一般従業員の毎月の給与に似た支払方法のことです。例えば、年間の役員報酬が1200万円の場合、12ヶ月で割って毎月100万円ずつ支払う方式がこれに当たります。
定期的に同額の金銭を支給することによって、経営陣側が不正に利益操作を行うリスクを回避できます。したがって、お手盛りの危険性が低いと判断できるために損金に算入しても差し支えないと考えられます。
なお現在は、役員報酬支給額が定額である必要はなく、支給額から源泉税等(源泉徴収される所得税・特別徴収される地方税・社会保険料等)を控除した手取り額が定額である場合にも”定期同額給与”と認められるようになりました。
事前確定届出給与とは、一般従業員の定期賞与に似た支払方法のことです。金銭だけではなく、株式・新株予約権などの形で支給することも可能なことから、インセンティブとしての色合いを出すこともできます。
原則として、役員に支給されるボーナス・賞与はお手盛りの危険性などが考慮されて損金不算入です。もっとも、株主総会決議を経て支給総額が確定されており、事前に税務署に届出をしている場合には、税務上の不正が起こるリスクを回避できると評価できるでしょう。
ただし、事前確定届出給与として役員報酬を支給するためには、株主総会での決議から1ヶ月後あるいは会計期間の開始日から4ヶ月を経過する日までに税務署に届出をしなければいけません。業績悪化改定事由などのやむを得ない事情がある場合を除き、原則として届出通りの期日・額面を支給しなければいけない点に注意が必要です。
業績連動給与とは、一般従業員における決算賞与に似た支払方法のことです。会社・子会社などの利益率・業績などの客観的指標に役員報酬額を連動させる形で支給されます。
ただし、業績連動給与を支給できるのは、「同族会社に該当しない内国法人」という条件を充たす企業のみ。日本における中小企業の多くが同族会社に該当してしまうため、業績連動給与によって役員報酬を損金算入できる例は限定的だと考えられます。
今回ご紹介したように、役員報酬には従業員給与とは異なる厳しいルールが整備されています。一般的に高額になる役員報酬は、適切に管理をしなければ税制上不利な扱いを受けかねません。
特に、現在では企業の在り方が多様化していることから、役員報酬にインセンティブとしての価値を見出しつつ、外部から優秀な人材を登用する例も増えています。役員報酬支給の場面が複雑化していることからも、経理担当者にはよりいっそう深い理解が求められると考えられるでしょう。