経理担当者の年次業務の一つに「支払調書」の税務署への提出があります。支払調書は、給与支払いを証明する源泉徴収票とは別に、契約金や報酬、賞金を支払った証明として発行する法定調書の一つ。支払先への発行義務はありませんが、税務署への提出は義務なので、確実に行いましょう。
「所得税法」「相続税法」「租税特別措置法」及び「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の規定により、税務署に提出が義務づけられている資料を「法定調書」といいます。
法定調書は、とても種類が多いです。全部で給与所得や退職所得の源泉徴収票を含む60種類。そのうち、所得税法には43種類が規定されています。
「支払調書」と呼ばれるものも35種類ありますが、経理担当者が主に携わるのは
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」と「不動産の使用料等の支払調書」「不動産の譲り受けの対価の支払調書」「不動産等の売買または貸付けのあっせん手数料の支払調書」などです。
参照:国税庁 タックスアンサー No.7401 法定調書の種類
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源泉徴収票・支払調書を含む法定調書は、税務署に提出が義務付けられています。「提出義務」があるのは、あくまで税務署であり、支払先ではありません。
支払調書の作成はどのような時に必要なのでしょうか。支払調書の種類や支払った金額などによって作成・提出すべきかどうかは異なります。例えば「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」においては、以下の5つの場合です。
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲は、次のようになっています。
(1)外交員、集金人、電力量計の検針人及びプロボクサー等の報酬・料金、バー、キャバレー等のホステス等の報酬・料金、広告宣伝のための賞金については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
(2)馬主に支払う競馬の賞金については、その年中の1回の支払賞金額が75万円を超えるものの支払を受けた者に係るその年中の全ての支払金額
(3)プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金については、その年中の同一人に対する支払金額の合計額が5万円を超えるもの
(4)弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超えるもの
(5)社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
出典:国税庁 タックスアンサー No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等
提出範囲の金額については、消費税及び地方消費税の額を含めて判断しますが、消費税及び地方消費税の額が明確に区分されている場合には、その額を含めないで判断しても差し支えありません。
なお、法人(人格のない社団等を含みます。)に支払われる報酬・料金等で源泉徴収の対象とならないものや支払金額が源泉徴収の限度額以下であるため源泉徴収をしていない報酬・料金等についても、支払調書の提出範囲に該当する場合には支払調書を提出する必要があります。
この「合計額」については、原則として消費税の額を含めて判定します。しかし、請求書等において「報酬等の額」と「消費税等の額」が、明確に区分されている場合などには、消費税等の額を含めないで判定しても大丈夫です。
例えば、年間の原稿料が49,000円で、消費税が4,900円、合計53,900円という請求があったとします。この場合は、報酬額と消費税額が明確に区分されており、消費税のを含めないと5万円以下になることから、支払調書を提出しなくても差し支えありません。
支払調書の書き方や注意点についてはこちらの記事をご確認ください。
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支払の確定した日の属する年の翌年1月31日までに支払事務を取り扱う事務所、事業所等の所在地を所轄する税務署長に提出しなければなりません。
例えば、2021年12月までの支払については、2022年1月31日が提出期限となります。
支払調書の提出は、これまで基本的に文書提出で、電子申告が義務付けられていたのは「法定調書ごとに1000枚以上ある場合」だったのですが、基準が変更されました。
令和3年1月1日以後、法定調書を提出する年の前々年に提出すべきであった法定調書の枚数が100枚以上であるものについては、e-Tax又は光ディスク等により提出する必要があります。電子申告の判断は、法定調書の種類ごとです。
例えば、2019年の12月までの「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の枚数が100枚以上であった場合、2022年以降の「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出は電子申告しなければなりません。
電子申告が義務付けられているにもかかわらず、期限までに電子申告でなく書面で提出した場合、申告書は無効扱いとされ、原則として無申告加算税の対象となります。
法定申告期限までに書面により申告書を提出した後、法定申告期限後にe-Taxにより提出した場合でも同様です。
参照:国税庁 e-Tax又は光ディスク等による法定調書の提出義務
参照:e-Tax 電子申告の義務化についてよくある質問 電子申告の義務化の対象法人が書面により提出した場合はどうなりますか。
また、災害などの理由でインターネット回線が使えない場合は、所轄税務署長の承認を得た上で、書面により提出することで、例外的に書面による申告を有効にできます。ただし、事前に「 e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書) PDFファイル 」及びe-Taxを使用することが困難であることを明らかにする書類を所轄税務署長に提出することが必要です。
参照:e-Tax 電子申告の義務化についてよくある質問 電子申告の義務化の対象法人ですが、インターネット回線の故障でe-Taxによる提出を行うことができません。どうすればよいですか。
e-Taxソフト(WEB版)で作成することができる支払調書(及び同合計表)は、以下のとおりです。
給与所得の源泉徴収票
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(社会保険診療報酬基金用)
不動産の使用料等の支払調書
不動産等の譲受けの対価の支払調書
不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
支払調書等合計表付表(e-Tax提出分)
出典:e-Tax法定調書の作成・提出について
参照:国税庁 タックスアンサーNo.7455 法定調書の提出枚数が100枚以上の場合のe-Tax又は光ディスク等による提出義務
支払調書の提出後に「支払金額」などの内容に誤りがあることに気が付いたら、正しい内容の支払調書を作成して税務署に再提出する必要があります。
この場合は、先に提出した支払調書を「無効」にする必要があるので、以下の提出物が必要です。
①先に提出した「支払調書」の写し
先に提出した支払調書と同じ内容のものを再作成するか、控えの写しを使用。右上部余白に「無効」と赤書きします。
②無効分の「合計表」
無効とした支払調書の支払金額等を記載した合計表を再作成。「調書の提出区分」欄に「4」(無効)と記入します。
③正しい「支払調書」
正しい内容の支払調書を作成し、右上部余白に「訂正分」と赤書きします。
④訂正分の「合計表」
訂正分とした支払調書の支払金額等を記載した合計表を作成。「調書の提出区分」欄に「3」(訂正)と記入してください。
※もし、受給者に支払調書を交付している場合は、正しい内容で再作成し「摘要」欄に記載誤りとなった箇所等を記載するとともに「再交付」と表示して再交付してください。
出典:国税庁:提出した法定調書に記載誤りを発見した場合の訂正方法
法定調書の提出は、法人だけではありません。例えば個人で事業経営をする場合も、人を雇用ったり、業務を外注したりした場合は支払調書の提出義務が生じます。
もし、支払調書の提出を行わなかった場合はどうなるのでしょうか。「1年以下の懲役、または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
何かと面倒な支払調書ですが、税務署に申告をする場合に人件費や外注費を「これだけ払った」という証明にもなります。必ず作成・提出するようにしましょう。