「労務管理はとても重要」「企業にとって欠かせない労務管理」こうした文言はよく見ますが、具体的に労務管理とは何か説明できますでしょうか。本記事では労務管理の具体的な業務内容について解説します。
労務管理とは人が働く上で最高のパフォーマンスを発揮できるように職場環境を整えることであり、労働に関わる全てにおいて管理することです。企業において営業やマーケティング、エンジニアは日々目の前の業務をこなすことに忙しいため、職場環境の改善に注意を向けることは難しいのが現状です。労働環境を整備するために、企業では労務管理職という専門担当者を置くことで、現状の働き方を客観的に分析し、離職率の低下や勤怠管理を行い、総じて従業員の働く満足度を上げ、業績に貢献しています。
日の目を浴びることがあまりない労務管理職ですが、企業の縁の下の力持ちのような存在であり、従業員が働く上で欠かせない職種です。
労務管理職者の仕事の特性は、社外ではなく、社内の人に対して価値を提供することにあります。経営において、最も大切である「ヒト」という資産が最大限効果を発揮できるように日夜仕事をこなしています。従業員が組織や企業で働けるように、経営者が整備しなければならない労務管理は大きく2つの目的に分類されると言われています。
企業者や組織は必然的に生産性を上げるために、従業員の働く意欲を高め、成果につながるような工夫をしなければなりません。生産性を向上させるために、給与の面では、従業員の給与・賞与が働いた成果に見合う額を受け取れるようにすることや生活面では仕事が私生活に悪影響を及ぼさないように通勤手当や住宅手当を設定することが考えられます。経営陣も含めて労務管理職者が従業員を考えた制度を作り、職場環境を改善していくことが求められます。
これまでの日本企業は労務管理に関心がなく、長時間労働も当たり前の働き方でした。しかし、時代によって働く人の価値観も変化し、長時間労働による心身の悪影響が次第に認知されるようになりました。2015年には中小企業でも長時間労働による賃金の見直しが行われ、世間一般に働き方改革の意識が根付いていきました。
厚生労働省の効果もあり、公民双方で働き方改革が推進されています。従業員の労働環境を適切に管理することに関心が向き始めた結果、勤怠管理システムの導入や有給休暇取得に向けた実行策が考えられるようになりました。
参照:「働き方改革」の実現に向けて|厚生労働省
また従業員の労働条件や待遇についても、適法の範囲内で企業や組織で決める必要が出てきました。労働に関する法律はざっとあげても、労働基準法・労働安全衛生法・男女雇用機会均等法・育児介護休業法・パートタイム労働法など多岐にわたるのです。
こうした法令(コンプライアンス)の順守のためにも労務管理は行われます。
以上より、労務管理について意味や目的、具体的な企業の対策を述べてきましたが、実際のところ企業が属する業界や規模などによって、労務管理に対する考え方はまちまちです。
例えば職種的な役割において、大手企業では労務管理の仕事を労務職と人事職で役割を分けている企業が多く見られるのに対し、ベンチャー企業や中小企業などでは人手不足などの理由から人事労務職として労務と人事の仕事内容を広く担うことになります。応募段階や面接において仕事範囲を確認し、お互いに齟齬がないように努めたいところです。
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従業員を雇用した場合は、必ず労務管理を行う必要があります。労務管理を行うにあたって、雇用契約を結び、労働条件を契約書という形で明らかにしておきましょう。
具体的には以下のような項目が労務管理となります。
雇用される日はいつで、期間は有期労働契約なのか、期間の定めのない労働契約なのか、契約期間がある場合は更新についてはどうなるのかといった事を定めます。
労働時間の管理については、大企業では2019年4月から、中小企業においても2020年4月より、働き方改革による労働安全衛生法(安衛法)が改正で義務化されます。
労働時間管理の義務化自体には罰則規定はありません。しかし賃金台帳に労働時間の管理事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されると明文化されています。
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また、時間外勤務の特別条項の変更もあり、場合によっては今までのやり方を変更する必要もあります。
【参考記事】
働き方改革は現在その渦中にあり、企業側の実施状況によってはその運用方針が変更になったり、新たな罰則規定が設けられることもあるかもしれませんので、注意が必要です。
労働の対価である給与・賞与や各種手当についての管理も労務管理の一環です。給与の締日までに従業員の労働時間を確認し、源泉徴収を行い、給与支払日に確実に振り込むなどといった実務面のほか、職位ごとの給与や手当内容なども具体的に定める必要があります。
また、従業員のマイナンバー取得の上、機密として管理することも必要です。
社員の入社・退社に伴い、健康保険・厚生年金といった社会保険、雇用保険や労災保険といった労働保険の手続きを滞りなく行います。
従業員の異動や引っ越しに伴う諸手続きや、産休・育休に関する各種届出、被扶養者の増減など、公的に届出を行い、給与にも反映すべき事柄が様々にあります
従業員の健康診断や、労働時間管理にもつながる内容です。労働環境を適切なものにするためには安全衛生管理が欠かせません。
労務管理における目的の1つに業務の効率化があります。売上に繋がらない無駄な作業を極力省き、従業員が目の前の仕事に集中にできるように業務そのものを改善していくことが求められます。
労務管理担当者と一言で言っても、その役割は多岐にわたることがお分かりいただけたでしょうか。他にも会社によってはパワハラやセクハラなどのハラスメント対応を行ったり、休職や復職にともなうフォローなどを含めたカウンセラー的な役割が求められることもあります。
労務管理担当者としてすべきことは多くありますが、まず基本として押さえていきたいのが、以下の3点です。
労働基準法・労働安全衛生法・36協定をはじめとした労使協定にまつわる決まり事など、労務管理は法改正に合わせた対応が必須の業務です。担当者は渦中の「働き方改革」関連法案をはじめとした法令に関する知識を常にアップデートし、適法に運用すべく自社の業務に落とし込む必要があります。
労務管理で扱うのはマイナンバーをはじめとした個人情報や、会社の機密情報など、漏えいしてはならない情報がほとんどです。
また、最近は紙より電子データでこうした情報を扱うため、インターネット利用などを通じて外部へ流出という事件も多く起こっています。
労務管理に関する情報は、セキュリティを強化したシステムやスタンドアロン環境を構築するなど、流出を防ぐ最大限の対策を構築していきましょう。
労務管理という業務はともすれば「管理」方面に目がいきがちですが、元々は従業員に気持ち良く働いてもらうために行うもの。経営サイドと従業員サイドの板挟みになりがちですが、労働環境を改善するという目的意識をもって、取り組むことが大事です。
労務管理とは企業にとって欠かせない業務内容であり、企業と人がいる限り必要不可欠な仕事にあたります。今までの日本企業では日本的経営と言われる「企業別組合」や「年功序列」「終身雇用」があるおかげで「労務管理」について時間をかけて考える必要もありませんでした。
しかし時代は変化し、個人の意見が尊重するようになると、今までの固定的な雇用環境では対応することができなくなり、労務管理に対する関心が高まりました。日本企業は従来の働き方に縛られることなく、時代にあった労務管理の対応が求められており、これからも日本の労務管理は発展していきそうです。