グローバル化、情報化が進み、社会が大きな変貌を遂げる中、その社会において活動する企業の多国籍化、多角化も激しさを増すばかりです。それぞれの企業が組織としてのあり方を模索する中、他方で、M&Aも頻発し、企業と企業が垣根を超えて、生き残りをかけてさまざまな方策に趣向を凝らしています。
このような現状にあって、M&A時における企業の統合プロセスを重要視する傾向が増しています。単純にM&Aなどによって資本提携をして終了ではなく、組織再編後、いかに企業をブラッシュアップするのかという点に関心が移っているのです。
そこで、今回はPMIについて解説します。企業結合後、いかに組織が円滑な活動を実現できるかを左右する重要な観点ですので、ぜひ最後までご一読ください。
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A(合併及び買収)後における企業の統合プロセスのことです。M&Aそれ自体をフォーカスするものではなく、M&A終了以降の企業統合プロセスに目を向ける点に特徴があります。
従前、M&A発動時においては、M&Aを達成することそれ自体が終着点のように捉えられていた時期がありました。しかし、何より重要なのは、二つ以上の企業が合併等をした後、いかに当初の統合計画で予定された統合効果を最大限発揮させるかという点のはずです。
そもそも、M&Aでは、経営方針、企業風土、業務内容などの企業のコア自体が全く異なる複数社が一緒になる事象です。形式的には一つの企業になったにも関わらず、特別な配慮をすることなくバラバラのまま企業活動を進めてしまうと、いずれ組織として成立しなくなりうることは想像に難くありません。他方、各企業ごとの特色などを一切配慮することなく、一様に統合を進めてしまえば、内部から反発が生じ、離職率の増加、モラルハザードが蔓延しうるでしょう。
そこで、PMIでは、企業の統合プロセスを3つの観点から分析し、統合プロセスへの有用化を図ります。その3つの観点とは、以下の通りです。
これらによって、M&Aによって期待された統合効果の最大化を狙うことができるのです。以下では、それぞれの統合プロセスについて個別的に説明します。
経営統合は、PMIの中で最も重要な視点とも言えます。なぜなら、企業同士が活動を共にする以上、「結合後の企業がどのような方向に向かって進んで行くのか」「選択に迫られた時に何をもって指針とするのか」を明確にする必要があるからです。経営理念や経営戦略、経営判断における指針は、常に企業の命運を左右するものです。したがって、経営統合とは、いわば合併等後の企業の舵を決する作業プロセスとも言えます。
抽象的な表現となりますが、PMIにおける経営統合には、以下の2つの手法があると考えられます。
例えば、M&Aが一方的な買収に近い形で行われる場合には、前者の方式が採用されるケースが多いでしょう。他方、M&A参加企業の経営規模に差がなかったり、あるいはまったくの異業種同士の合併などの場合には、必然的に後者の方式が選択されることになります。
いずれにせよ、重要なのは、できるだけ早期に企業のコアである経営方針等を策定してしまうことです。経営理念、経営戦略等が明確になって、ようやく経営管理システムの構築、具体的な権限配置の問題に移れるからです。速やかに、トップダウン型の方法によって、経営統合は進められるべきでしょう。
業務統合は、現実的な企業活動を進めるにあたって欠かすことができない観点です。「業務」と言っても、ここに含まれるものは多岐に渡ります。人的配置や企業内における組織図の整備、あるいは企業インフラなどは当然含まれます。あるいは、素直に、「元は別々の企業の業務内容をどのようにして一つの企業内で行うのか」という漠然としたレベルでテーブルに上げても問題はありませんが、よりM&Aに実効性をもたらすためには、より個別具体化された項目ごとに業務統合について検討すべきでしょう。そこで、以下ではさらに具体的に、業務統合の内容について迫ります。
M&Aが実行されると、企業内の人員配置を適切に再配備する必要が生じます。合併前の所属部署をそのまますべて引き継ぐ形で、合併後の部署に人員を配置してしまうと、企業活動に歪みが生じかねません。
例えば、2つの企業が合併したからと言って、合併後の企業において財務部門の人員が単純足し算した数だけ必要になるわけではありません。新規の借入れ先の交渉などに人員を要する可能性はありますが、交渉窓口の数が増えるわけでもないので、ある程度の人的スリム化は図ることができるはずです。
また、異業種間での合併等の場合、同じ「営業部」であったとしても、蓄積されたノウハウはまったく別物のはずです。合併後の業務内容を考慮した場合、合併後の営業部において適性を発揮できない人も出てくるでしょう。
このように、M&A後の人的統合については、量的及び質的に、細やかな配慮が求められるのです。配置転換が必要ならば実行すべきでしょうし、増員の必要があるのなら他部門から未経験者を投入することも考えなければいけません。
ただし、この際にトップダウン型のみで人的統合を進めるのには問題があります。方向性を決めるという意味ではトップダウン型の意味合いは残るのですが、動かされる社員は駒ではなく人間です。個人の希望や意思は尊重すべきですし、少なくとも一定の意見表明の機会は与えなければいけません。このようなフォロー体制にも配慮しつつ、人的統合は進められなければいけません。
M&A実行時には、組織図を再構築する必要があります。なぜなら、2つ以上の企業が合併する以上、そのままの組織図では同一業務あるいは近似業務を遂行する部署が複数生じうるからです。これでは、企業のフットワークにとって極めて悪影響を及ぼしてしまいます。
また、このようなマクロ的な意味のコストではなく、細かいコストに関しても統合は必須です。例えば、コピー機の台数などは良い具体例でしょう。2つ以上がこぞってそれまで契約していたリースコピー機を持ち込んでしまうと、合併後の会社の中はコピー機だらけになってしまいます。このような枝葉な部分についても、コスト削減・コスト統合の視点は欠かせません。
企業ごとに採用システムに違いがあるため、システム統合は喫緊の課題となります。
例えば、子会社等の関連会社を巻き込んだ形のM&Aであれば、従来システムをそのまま利用して連結パッケージのみを導入したり、管理体制の一元化に書き換えるだけで対応できる可能性があります。
他方、そもそものシステム体制がまったく異なっていたり、あるいは製販一体となるシステム統合を要求される場合には、M&Aを機に一新して、ERPパッケージを活用することも考えられます。業務の上流から下流、会計システムまでを一括管理できるので、近時注目を集めています。
いわゆる企業風土、企業文化と呼ばれるものの統合です。どのような企業にも固有の風土があり、単純正誤では語ることができない問題です。
M&A時における意識統合について重要な視点は、それぞれの企業風土、企業文化を尊重しつつ、お互いに良い部分を真似し、取り込んでいくことです。相互に尊重し合い、相互に学び合う姿勢こそ、M&A後の円滑な企業活動に有用と考えられます。
そして、これは漠然とした議論で終わってはいけません。あくまでも社風と言われるものは、社員たちに根付くもの、社員たちが創り出すものです。例えば、懇親会や部活動、その他のレクリエーションの機会を積極的に作り、コミュニケーションを交わせる場を提供する努力をしなければいけません。また、合併企業同士の壁を壊すためには、部署単位での風通しも良くあるべきでしょう。
もちろん、それぞれの企業ごとに目指す方向性はさまざまです。ただ、結局は、若い社員からベテラン社員まで、あるいは男性社員も女性社員も、すべての社員が働きやすい環境を中長期的に作り上げていくという視点だけは共通しているはずです。これが達成されれば、やがて社風もまとまり、意識統合が進むと考えられます。
PMIは、合併後の企業にとって欠かせない視点です。各統合プロセス段階おける細やかな配慮が、やがて企業全体の躍動を生ぜしめるでしょう。企業組織のあり方を考える上で、ぜひお役立てください。