毎年少しずつ変わるのが源泉所得税です。常に最新の知識やソフトにアップデートしていないと思わぬところでやり直しとなってしまいます。ただやり直すなら簡単ですが、個人のお金に関わることですので何度もやり直しは効きませんし、対象の従業員が退職してしまったりすると追加での徴収もしづらいものとなってしまいます。そこで、そんな失敗を避けるためにも令和2年における源泉所得税の改正について、現役の公認会計士が解説します。
平成30年度税制改正大綱により、令和2年1月から源泉所得税の改正が行われました。これまでにも、配偶者控除や配偶者特別控除の改正があったばかりですが、再度の変更により常に最新の税制を把握しておく必要があります。
この源泉所得税の改正は、令和2年1月1日から発生する所得から適用となりますので、例えば12月に発生して支払いが1月になってしまうようなものについては令和元年の税額に基づくことが基本となります。
では、令和2年から源泉所得税は具体的にどのように変わるのでしょうか。
給与所得控除というのは、給与をもらっている人(役員やパート職員を含む)に対して、給与総額から一定の金額をあらかじめ所得から控除してあげる制度です。よく「個人事業主だから経費で落とすしここ払っておくよ」という会話を聞いたことがあるかもしれません。サラリーマンとしてはうらやましい限りですが、実は給与所得控除で既に必要経費が差し引かれているのです。
そんな給与所得控除が令和2年から一律10万円引き下げられることとなりました。10万円給与所得控除が差し引かれると、ここだけを見た場合は少ない人では5千円、多い人では10万円もの増税となります。
一方で、基礎控除は引き上げられることとなります。合計所得が2400万円以下の場合は一律48万円の基礎控除となり、2500万円超となると基礎控除がなくなります。よって、先ほどの給与所得控除の引き下げと基礎控除の引き上げにより、年収が高ければ高いほど増税となり、年収が低い人は結果的に税負担が変わらないこととなります。
年末調整において結果が変わらなくとも計算過程が変わってきますので、システムのアップデートまたは計算のロジックを最新のものとする必要があります。
これに伴って、所得金額が2500万円(年収では2695万円)以下の場合、「給与所得者の基礎控除申告書」というものを令和2年から提出しなければならなくなります。これはほとんどの給与所得者(役員を含む)が対象となるため、忘れずに提出しましょう。
①と②は実質的な増税となる話であり、それほど所得がない世帯において増税とならないように、「所得金額調整控除」というものが登場しました。
所得金額調整控除は、年収が850万円を超え、次の条件のうちどれかを満たす場合に適用されます。
この時、控除額は次の算式で計算されますが、年収が1000万円を超える場合は給与の収入金額は1000万円で計算されます。
所得金額調整控除額=(給与等の収入金額―850万円)×10%
この所得金額調整控除額の適用を受けるためには、所得税額調整控除申告書を提出する必要があります。
この他にも、配偶者や扶養家族などの合計所得金額の要件も変更になりました。具体的には次の要件が変更となります。
給与所得控除が10万円引き下げられたことにより、配偶者や扶養家族の合計所得金額に変更があります。具体的には、合計所得が38万円であったものが48万円に引き上げられます。しかし、「所得」ベースですので年収では103万円という要件に変更はありません。
源泉控除対象配偶者についても、先ほどのお話と同様に要件が変わります。
今まで源泉控除対象配偶者は、合計所得900万円以下の給与所得者と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が85万円以下の人が対象となっていました。令和2年からは配偶者の合計所得金額が95万円以下に変更されることとなります。
しかし、所得ベースでの変更となるため、年収ベースでは今までと同じく150万円以下という縛りに変更はありません。
配偶者特別控除についても、給与所得控除の引き下げに伴い合計所得金額要件に変更が生じます。
今まで合計所得金額が38万円超123万円以下であったものが、48万円超133万円以下に変更されます。ですが、他の改正と同様に収入金額に変更はなく、103万円超201.6万円以下が対象となります。
勤労学生控除も同様に、給与所得控除の引き下げにより、合計所得金額が65万円以下、かつ、勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であることとされていたところ、合計所得金額が75万円以下に変更されます。
ただし、給与収入の要件は変わらず年収130万円以下となっています。
今回、給与所得控除の引き上げと基礎控除の引き上げが行われたことによって、配偶者控除や扶養控除等の要件が変わっています。しかし、所得の低い人は結果が変わらず、所得の高い人は若干増税となっています。
結果は変わらないことがあっても、計算ロジックや提出資料が増えますので、給与ソフトの更新や手計算でのロジックを変更しておく必要があると言えます。