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現物出資とは?金銭がなくても会社設立や増資ができる対象や税務について解説

HUPRO 編集部
現物出資とは?金銭がなくても会社設立や増資ができる対象や税務について解説

会社設立や増資の際、通常は現金出資を行います。しかし、手元に現金がない場合は現物でも出資が可能です。これを「現物出資」といいます。今回は、現物出資について対象となる現物や、出資の際の税務についてみていきましょう。

現物出資とは

まず「現物出資」について解説します。
現物出資とは、現金ではなく車や不動産などの資産を出資金とすることです。会社設立時に多く用いられる方法ですが、増資の時でも使うことができます。
手元に現金がなくても、出資する現物の価値が1円以上あれば、会社を設立したり増資したりすることができるのです。

ただし「現物」というのはあくまで「物」であり、自動車や不動産、有価証券、パソコンなど、金銭と等価交換できるものが当てはまります。形のない「労務」や「信用」などは現物出資の対象とは認められません。

なお、現物出資ができるのは発起人のみです。届け出た資本金が不足している場合には発起人が不足分を支払う義務があるからです。

また、現物出資した資産は、消費税の課税対象になります。個人資産を会社に譲渡することで株式を取得したと解釈されるからです。現物出資した資産が有価証券や金融債権の場合には、譲渡対価の5%が非課税売り上げとなり、課税売上割合に影響があります。

現物出資の対象

具体的にどのような物が現物出資の対象となるのか見ていきましょう。

現物出資の対象になる物の範囲は広いです。
その定義は「譲渡可能で、貸借対照表上に資産として計上できるお金以外の物」とされています。

貸借対照表に「資産」として計上できるお金以外の物とは、具体的には以下のような物が該当します。

・不動産(土地や建物)
・車
・パソコンやOA機器などの機械類
・債権
・有価証券(国債・社債・株券等)
・特許権などの知的財産権(特許権、意匠権、商標権、営業権など)
・ゴルフ会員権やリゾート会員権
・オフィス家具などの備品

前述の通り「信用」や「労務」など、無形のものは対象外です。
また、上記の例に該当する物であっても、ローンの支払が終わっていない資産は現物出資の対象として認められません

これらの現物を会社に出資することにより、資産の所有権は個人から会社に移ります。つまり、移転登記の手続きが必要です。
その手間を考えると、あまりにも安価なものを現物出資するのは、資産計上手続きが煩雑になるためおすすめできません。

500万円以上の現物には「検査役」が必要

あまりに安価なものを現物出資することはおすすめできませんが、逆に高価すぎるものもおすすめできません。

なぜなら、500万円以上の現物を出資するときには、出資された現物が、本当にその価値があるかどうかを査定する必要があるからです。そのために裁判所に検査役の選任を申立てなければなりません。検査役の調査には多額の費用と数ヶ月という期間がかかります。

会社設立や増資を現金で行えないから現物で出資しているのに、調査費用も期間もかかるとは本末転倒です。

よって、現物出資をする際は、以下の3パターンのいずれかのケースで、検査役が不要になるような物を出資対象にすることをおすすめします。

①現物出資財産額が500万円以下である場合
②現物出資財産が、上場株式など明確な市場価格のある有価証券であり、定款に記録された価額が市場価格以下である場合
③定款に記載された価額が相当であると、弁護士、公認会計士、監査法人、税理士などの専門家から証明を受けた場合(不動産の場合には、不動産鑑定士の鑑定評価も必要となります)

現物出資を検討するのであれば、費用も時間もかからないように、調査役不要で実施すべきです。この条件に当てはまる物で出資するようにしましょう。

現物出資のメリットとは?

現物出資には以下のメリットがあります。

・資本金を増やせる
・節税効果がある
・増資に利用できる
・現金がなくても発起人になれる

具体的にどんなメリットなのか内容を確認しておきましょう。

資本金を増やせる

現物出資を利用することで、現金がない場合でも資本金を増やせます。現金を必要とせずに資本金を増やすことができるので、資本金を増やす方法としてはハードルが低いです。資本金をふやすことで社会的な信用を得られ、新規取引先の開拓や金融機関との融資交渉でも有利になります。取引の実績が少ない設立したばかりの企業では、現物出資を利用して資本金を増やすのは新規開拓の有効的な手段になります。

節税効果がある

現物出資した資産は減価償却費として経費にすることができるので節税効果があります。1つあたり10万円を超える資産は固定資産として計上され、耐用年数に応じて毎年減価償却をおこなえます。現金で出資した場合には経費にできませんが、現物出資した資産は経費化できるので、現物出資は節税としても有効な手段です。

増資に利用できる

現物出資は、会社設立時だけでなく増資としても利用できます。増資が必要な場合に資金調達コストを抑えながら増資をおこなえるため、現物出資は増資方法としても有効な手段です。

現金がなくても発起人になれる

現物出資を利用すれば、現金がない場合にも発起人になれます。複数人が発起人になる場合に、他の人と比べて少ない現金しか用意できない場合でも、現物出資を利用することで他の人と同程度の出資ができます。

現金がなくても発起人になれる

現物出資のデメリットとは?

現物出資には以下のようなデメリットがあります。

・譲渡所得なので所得税の課税対象になる
・資本金額と現金に差が生じる
・手続きに手間と時間がかかる
・差額があれば支払う必要がある

現物出資をおこなう際にはデメリットの内容も確認しておきましょう。

譲渡所得なので所得税の課税対象になる

不動産を現物出資すると譲渡になるため、不動産の取得価格を対価になる株式の時価が上回るときは譲渡益が生じるので課税されます。

《関連記事》

参考:不動産を法人に現物出資したとき No.3117 国税庁

資本金額と現金に差が生じる

現物出資で会社を設立すると、資本金額と手元にある現金に差が生じます。現金が少ない状態での経営になるので、収入より支出が多ければ資金がショートする可能性があります。

手続きに手間と時間がかかる

現金出資と比べると、現物出資は手間と時間がかかります。定款への記載、調査報告書や財産引継書などの作成、所有権の移転手続きなどが必要です。

差額があれば支払う必要がある

定款に書かれた価額に現物出資した財産の価額が著しく足りないときは、取締役や出資者は職務を行うこと関して注意していたことを証明できないと、差額を補う義務があります。
例えば、価値が100万円しかない財産を過大に200万円と評価して現物出資すると、100万円の差額を取締役と出資者は、企業に連帯して支払う必要があります。

現物出資の手続き方法

現物出資で会社を設立する場合の手続き方法は以下の通りです。

・現物の価値を調べる
・定款に書く
・調査報告書を作る
・財産引継書を作る

実際に現物出資をおこなう前に、具体的な手続き方法を確認しておきましょう。

現物の価値を調べる

現物出資する資産が適切な価格か、買ったときの価格でなく市場価格(時価)を参考に調べます。

定款に書く

出資する資産、価格、出資する人の名前を、定款に書きます。
このときは、会社法第28条に基づいて、現物出資では、定款に「変態設立事項」として書いておかないと効力が生じないため注意しましょう。

調査報告書を作る

現物出資のときの調査報告書というのは、設立したときの取締役が現物出資した財産価額を調べた結果をまとめたものです。
調査報告書は、管轄している法務局に「株式会社設立登記申請書」に添付して提出します。

財産引継書を作る

財産引継書というのは、現物出資した資産が出資した人から企業側にわたったことを証明するものです。
この財産引継書も、管轄している法務局に「株式会社設立登記申請書」に添付して提出します。

現物出資の税務上の取扱い

現物で出資されたものは、あくまで「資産」となります。資産はその種類によって税務上の取り扱いが異なります。

出資者は所得税の対象

現物出資によって、出資者は資産を手放し、法人は資産を得ることになります。
実はこの現物出資は、税法上「資産の売却」と見なされ、所得税の対象となるのです。

仮に100万円で購入したものの価値が上がっており、150万円の現物出資を行ったとしましょう。すると差額の50万円は「売却益」と見なされ、所得税がかかるのです。

逆に、時価より低い金額で売却した場合はどうでしょうか。実はこの場合も時価と同じ金額の所得税がかかります。100万円の時価のものを40万円として現物出資すると、所得税はあくまで時価の100万円分かかるのです。

譲渡収入金額は、出資した時の時価ではなく、現物出資により取得した株式や出資持分の時価となります。ただし、その価額が出資した不動産の時価の2分の1未満の場合は、出資した不動産の時価が収入金額とみなされます。

なお、不動産を現物出資した場合は、個人から法人への所有権移転登記を行いますので、登録免許税が必要です。さらに、不動産を取得した法人には不動産取得税や固定資産税がかかります。
車も、車種や年式によっては自動車税や自動車取得税が法人にかかります。

出典:国税庁 タックスアンサー No.3117 不動産を法人に現物出資したとき
出典:国税庁 タックスアンサー No.3217 時価より低い価額で売ったとき

いずれにしても、現物出資する際は売却益が出ると考え、所得税の準備もしっかりしておきましょう。

出典:国税庁 タックスアンサー No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

減価償却資産を現物出資した場合の費用化

パソコンや機械類、車など、年月の経過によって価値が減っていく資産は「減価償却資産」と呼ばれます。
減価償却とは、取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続きのことです。

もし、現物出資した財産が「減価償却資産」である場合は、その耐用年数に応じて費用化することができます。
たとえば、取得価額が15万円の資産である場合には、3年間で均等償却することができます。毎年5万円ずつ費用として損金算入することができるのです。

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現物出資の時価が不明な場合

現物出資した財産の金額は「時価」で評価します。
ただ、物によっては時価での判断が難しい場合もあります。

例えば、美術品や中古車。アンティークとして逆に価値が高まるものなどです。
この時、現物資産としての評価額が不当であるかどうかを判断するのは税務署となります。

減価償却する財産でも、中古車などは車種によって市場での価値に大きな差があり、時価での判断が難しい場合もあります。ある程度は許容されますが、不当な金額での評価の場合は、差額を現金で補填したり、貸付金や未収入金として処理したりしなければなりません。

現物出資の価額が不足の場合

仮に、本当は50万円の価値しかない中古車を、100万円として現物出資したとしましょう。このように現物出資の価額が実際と照らし合わせて不足している場合は、会社に対しその不足額を支払う義務があります。

(出資された財産等の価額が不足する場合の責任)株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。出典:e-Gov法令検索|会社法「第五十二条」

まとめ

現物出資は、手持ちの現金が少ない時でも、物品を活用して会社設立や増資ができる仕組みです。そのための手続きが発生したり、出資する現物によっては、会社や出資者に税負担がかかる場合があります。判断に迷ったり、手続きに疑問がある場合は、税理士など専門家に相談してみましょう。

この記事を書いたライター

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