コロナ禍で赤字経営に陥る企業が後を絶ちません。決算が赤字でも経営が存続する会社、倒産する会社の境目とはなんなのでしょうか?今回は、企業が赤字経営になる理由とメリット・デメリットについて解説します。
「赤字」という言葉が意味するものは、収入よりも支出が上回っていること。つまりマイナス収支の状態です。「家計が赤字だ」といったように広く使われていますので身近な言葉ではないでしょうか。
「赤字経営」とは、その名の通り赤字で経営を続ける、つまり、会社の事業で利益が生まれていない状態のことです。収入が支出を下回ったまま決算を迎えると、その期は「赤字決算」となります。ニュースでもJALやANAなどの大企業をはじめ、旅行業や小売業、外食産業など、コロナ禍で赤字決算を迎える企業が増えていることを伝えています。
「赤字」という言葉がショッキングなため、「赤字経営」というと、会社の危機と思ってしまうかもしれません。しかし、実は企業は赤字決算であることがほとんどなのです。国税局が毎年行っている「会社標本調査」を見てみましょう。平成30年度分(令和2年5月発表)で赤字経営を行っている企業は、全体のなんと62.1%!全体の6割以上が赤字経営、つまりその年の所得金額がマイナスなのです。
基本的には、企業は赤字決算を迎えたからといって、すぐには倒産しないのです。この経営のからくりについて見ていきましょう。
赤字経営は、どの利益が赤字になるかによって、営業赤字、経常赤字、当期純損失などの表記で表わされます。
営業赤字(営業損失)は「本業における赤字」という意味です。
企業の本業による営業収益と、そのために要した営業費用(営業費(販売費+一般管理費)+売上原価)の収支がマイナスに陥っている状況を指します。
損益計算書において「営業損益の部」の合計額がマイナスになる状態です。
営業赤字の場合は、本業が不振になっている状況を分析する必要があります。経営改善のために、本業をテコ入れしたり、事業の方向転換を行ったりなど、時流と会社の強みに合わせた対応が必要です。
経常赤字(経常損失)は「本業以外の営業外収支」によって、会社の事業全体で収支がマイナスに陥っている経営状態です。
経常赤字は、例えば為替相場や株式相場の変動、不動産価値の下落などによって生じます。
もし、本業が黒字でそれ以外の事業が足を引っ張っている場合は、その事業を整理するなどして業績の回復を図るなどの手段を講じる必要があるでしょう。本業も赤字、本業以外も赤字となると、かなり危険な状況です。
当期純損失とは、経常損益に特別利益を加えた額から、特別損失を差し引いた金額がマイナスになる状態です。
特別損失は、固定資産を売却した場合の売却損や、災害による損失などが該当します。
仮に、営業利益も経常利益も黒字であったとしても、特別損失でそれらを上回るマイナスが出た場合なども、当期純損益は赤字となりますが、一時的なものです。
逆に、経常利益も赤字の場合は企業の状況はかなり苦しく、倒産に至る可能性も高いでしょう。
「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。経理の収支上は黒字でも手元の現金がショートして倒産に至る状況です。
経理上は、売掛金は利益となります。この数字は損益計算書には出てきません。しかし、売掛金はあくまで売上のめどが立ったことを表わすもの。無事に回収できて初めてお金が入ります。
例えば、売上はとても好調であったとしても、取引先がなかなか代金を支払ってくれなかったり、倒産したりしてしまっては、肝心のお金を回収することができません。つまり、手元の現金がないため、運転資金を出すことができないのです。
また、費用として計上されない借入金の返済を行っている場合も同様、出て行く現金が多いと、やはり手元の現金が足りなくなってしまいます。
業績は好調に見えるけどなぜ?という原因は、お金の流れを知るための「キャッシュフロー計算書」を確認することでわかります。
赤字経営というのは、企業の利益が出ていない状況のため、すぐにでも改善しないといけない!と思われるかもしれません。しかし、暴騰でも解説したとおり、日本の企業の6割は赤字経営です。毎年企業の6割が倒産しているかというとそうではありません。
なぜなら倒産というのは、経営状況よりも手元の現金がなくなった時に起こるからです。
仮に、損益計算書上は赤字経営だったとしても、現金・預金に余裕があったり、金融機関から借り入れたり、固定資産を売却したりして資金繰りができれば、会社は倒産しません。
逆に、損益計算書上は黒字経営でも、借入金の返済や、売掛金の未回収により手元現金がなく、キャッシュフローが赤字の場合は倒産してしまいます。
つまり、企業が倒産するかどうかは、当期の決算が赤字か黒字かというよりも、資金繰りが最も重要なのです。
コロナ禍で数千億という巨額の損失を出したJALやANAもすぐには倒産しません。これまでの経営による内部留保もさることながら、公募増資などで資金を調達し、借入金の返済や、運転資金に充てる資金繰りをクリアしているからです。
企業の6割が赤字という状況は、実は赤字経営を行うことにもメリットがあるからです。もちろん、ずっと赤字が続いたら、どんなに経営者に資産があったとしてもいずれ企業は倒産してしまいます。しかし、黒字・赤字と繰り返すことで、企業としては存続することができるのです。
赤字経営で最も分かりやすいメリットは、節税です。
もちろん、赤字で利益が少ない状況に比べると、黒字で営業利益が高い企業の方が優れていますし、対外的な評価も高いでしょう。
現在の日本の法人税は、法人の区分や利益にもよりますが、約15%~23%です。100万円の利益が出た場合15万円が税金となります。そこで、わざと赤字をキープしている企業も少なくありません。
赤字経営の場合、決算がマイナスになります。つまり、その事業年度の法人税は、法人事業税や法人住民税の均等割を除いて0円となるのです。
(法人事業税や法人住民税の税率は、所在する市区町村によって異なります)
なお、あえて赤字決算にする企業は、売上自体を下げるわけではありません。役員報酬や設備投資、事業における経費を増やすことで、費用を増やして売上から差し引くことで利益を相殺しているのです。
出典:国税庁 タックスアンサー No.5759 法人税の税率
また、赤字となった金額は、翌年以降に繰り延べが可能です。翌年が黒字になっても、その利益を前年の赤字を繰り延べた分圧縮することができ、その分節税ができます。
税務会計上では「繰越欠損金」として課税所得から控除できるのです。
平成30年4月1日以後に開始する各事業年度において生じた欠損金額については、10年繰り越しが可能で、古い順から損金算入をします。
例えば、2年前に100万円、1年前に100万円の「繰越欠損金」が合計200万円あったとします。当年の事業年度では黒字で200万円の所得金額が発生したとしましょう。
単純に考えると、以下のようにして、当年分の法人税を0円(所得割除く)にすることができます。
・2年前 100万円赤字 法人税0円
・1年前 100万円赤字 法人税0円
・当年 200万円黒字 黒字の200万円から、2年前・1年前の赤字の合計200万円を引いて利益0円にし、法人税を0円にすることが可能
出典:国税庁 タックスアンサー No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
前年度が黒字で、当年度が赤字だった場合は、前年に支払った法人税の還付金を受け取ることができる制度があります。これを「欠損金の繰戻しによる還付」といいます。
青色申告書である確定申告書を提出している、資本金の額が1億円以下の法人(資本金5億円以上の法人の100%子会社などを除く)が適用の対象です。つまり、中小企業向けの制度です。
還付金額は以下の式で求められます。
還付金額=還付所得事業年度の法人税額×(欠損事業年度の欠損金額※/還付所属事業年度の所得金額)
(※欠損事業年度の欠損金額は、分母の還付事業年度の所得金額が限度とされます。)
例えば、当期の欠損金額が200万円だったとします。前期は黒字で所得金額が1000万円あり、150万円の法人税を払っていたとしましょう。
還付金額は 150万円×(200万円/1000万円)=30万円 です。
適用を受けるためには、前年度と当年の各事業年度の青色申告を提出し「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出することが必要です。
出典:国税庁 タックスアンサー No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
赤字経営は悪いことばかりではないように見えますが、実際はデメリットもあります。
金融機関から融資を受ける場合「ちゃんと支払ができるか」というところを見られます。しかし、その企業が黒字と赤字を繰り返しているような場合はどうでしょうか。
基本的には、赤字決算を繰り返している企業は融資が受けづらくなるだけでなく、すでに融資済みのお金についても繰り上げ返済を要求されることがあります。
金融機関としても、倒産リスクの高いところからはお金を回収したいからです。
儲かっているのにあえて赤字決算にしてしまうと、会社に対する対外的な信頼を下げてしまうことになるので要注意といえます。
対外的な信頼を下げるというのは、金融機関だけではありません。
税務署も赤字企業についてはちゃんとチェックしています。赤字経営の節税メリットや還付金を得るために、正当でない経費を計上したり、虚偽や不正申告をする企業も多いのです。
そのため、赤字でも税務調査が入ったり、場合によっては脱税容疑で逮捕されることもあります。
赤字経営はずっと続けられるわけではありません。累積赤字が積み重なると結果的には倒産してしまいます。
赤字経営で利益を圧縮している企業は、基本的には節税で行っている企業が多かったのです。つまり、決算書上では利益が出ていなくても、それなりに設備投資や新たな事業などに回しているケースです。
しかし、長引く不況やコロナ禍においては、本業も赤字、経常利益も赤字、さらにはオーナー社長の資産も底をついてしまい、資金調達ができないという、本当の意味での「赤字」に陥っている企業も少なくありません。
赤字経営になる原因と理由にフォーカスしてみることで、その会社がまだ伸びしろがあるのか、それとも今後は厳しいのかを判断することができます。コロナ禍の転職においては、今後どんな業種が伸びるのかを念頭に新しい視点で考えてみましょう。