社会保険労務士の働き方といえば、独立開業や社会保険労務士事務所での勤務をイメージすると思います。ところが、他にも魅力的な働き方が存在するのをご存知ですか?それは社会保険労務士としての税理士事務所での勤務です。今回は、社会保険労務士の新たな転職先としての税理士事務所について解説します。
社会保険労務士は、社会保険・労務の専門家として、社会保険・労働保険等の申請を独占業務とする国家資格です。社会保険労務士といえば、一般的には社会保険の手続きを代行するイメージが強いかもしれませんが。最近は、労務問題の需要が顕在化し労務問題の専門家としてのニーズが増えています。
近年、ブラック企業が社会問題化するなど、雇用をめぐっては、以前にもまして世間の注目度はあがっています。一方で未払い残業代の訴訟を専門にする弁護士も現れ、退職した従業員から訴えられる企業も少なくありません。労務に無知のため悪意はなかったにも関わらず法的不備から訴えられるケースもあります。
こういった背景から、経営者にとって、労務問題のリスク管理は無視できない問題となっており、同時に社会保険労務士のニーズも併せて増えています。
社会保険労務士としての働き方としては、①社会保険労務士として独立開業する、②社会保険労務士事務所で働く、③企業内で社会保険労務士として在籍する、といった3つの方法がこれまでは一般的でした。
これは、社会保険労務士に依頼する企業のニーズが、主に社会保険の手続きを前提としていたことが考えられます。
ところが、近年、前述のような労務問題が取りざたされるようになり、企業の社会保険労務士へのニーズも変わりつつあります。
そこで、社会保険労務士の新たな転職先と考えられるのが税理士事務所です。
税理士は中小企業にとって、一番身近な経営の相談相手です。税務が専門ですが、資金繰りや役員の登記、労務問題、助成金のことなど税務以外の相談も寄せられることが少なくありません。一方で、税理士にとっては、労務問題はデリケートな側面もあり、安易な回答は問題化するリスクがあると認識しています。しかし、顧客からの相談である以上、断れないうえに対処が難しい、悩ましい問題でもあります。
そこで、注目されるのが社会保険労務士の存在です。労務問題に関しては以前から、税理士事務所が社会保険労務士と提携して、案件が発生すれば、アウトソースするのが一般的でした。しかし、近年は労務問題も頻発し、訴訟に発展するなど複雑化するケースもあります。
また、個人情報を扱ううえで、情報共有を円滑にし、顧客に対しての細かな対応するには、独立した社会保険労務士よりも事務所のスタッフとして社会保険労務士を雇用する方がメリットが多いと判断し、社会保険労務士をスタッフとして抱える税理士事務所も多数あります。
社会保険労務士が転職先として税理士事務所を選ぶ際に気になるのが働く上でのメリット・デメリットではないでしょうか?
以下に、社会保険労務士が税理士事務所に転職した際のメリット・デメリットを簡潔にまとめました。
社会保険労務士が税理士事務所に転職すると、周りは税務の専門家なので、社会保険、労務の専門家として、顧客や事務所内の同僚からも唯一無二の存在として頼られる立場になります。責任はありますが、やりがいとしてはこれまで以上のものがあるでしょう。
税理士事務所のスタッフは、将来税理士として独立希望の人も多数存在します。また、税理士にとって社会保険や労務問題のニーズはいつもあります。将来的に社会保険労務士として独立する場合には、今の同僚が提携先となり、非常に大事な人脈となる可能性があります。
社会保険労務士として企業の役員の社会保険手続きなどをする際、税務上の役員報酬の知識などは必要です。机上で学んだ知識よりも実務の現場で得た生きた経験は、将来の業務にフィードバックすることができます。
社会保険労務士として税理士事務所に転職するデメリットとしては、募集先がまだまだ少ないということでしょう。
前述のとおり、税理士はこれまで、社会保険、労務に関しては、社会保険労務士と提携するのが一般的でした。そのため、事務所内にスタッフとして雇用することがまだ浸透していないのが現状です。
社会保険労務士のニーズは、これから先も増えていくことが予想されます。しかし、いきなり独立開業は、収入面でのリスクもあります。また社会保険労務士の事務所への転職では、自分のブランディングが図れないことが懸念されます。そこで、社会保険労務士の新たな転職先として税理士事務所を選択するのは一考の価値があります。
ただし、デメリットの項でもふれたとおりそれほど浸透していないので、募集の数は少ないかもしれません。しかし、数が多くなり、募集が殺到し始める前に行動を起こせば、先行者利益が得られるという大きな可能性があります。