仕入債務回転期間は商品や材料などを仕入れる際に発生する仕入債務(買掛金や支払手形など)が、どれくらいの期間で支払われているかを示す財務指標です。この財務指標を見ることで、企業の資金繰りの期間を判断できるようになります。この記事ではそんな仕入債務回転期間について考え方から計算式まで解説していきます。
仕入債務回転期間とは、仕入債務が売上原価の何日分あるか、つまり、仕入債務を何日後に支払っているのかを表す指標です。買入債務回転期間とも呼ばれます。
仕入債務回転期間は、原材料や商品を仕入れてから仕入債務の支払いまでの期間、仕入れ後代金決済までの余裕期間を意味します。代金の決済状況は、業界慣習があるのがほとんどなので、同業界の他企業と比較して、仕入債務回転期間よりも長かった場合には、資金繰りが厳しい状態にないかどうかを疑ってみる必要があります。
業績不振のために、仕入先が倒産を警戒して代金回収を厳しくすると、仕入債務回転期間は逆に短くなることになります。したがって、仕入債務回転期間の長短に着目するのではなく、これまでの仕入債務回転期間と比較して、長くなっているか、短くなっているかどうかに着目して解釈します。過去の決算書数期から仕入債務回転期間を算出してみて、長期化あるいは短期化の傾向にないか、そして同業他社と比較して著しく差がないかが重要になります。
仕入債務としては、買掛金の額と支払手形の額を含めることが一般的となっています。決算書では流動負債の区分に表示される勘定科目のことです。仕入債務は、企業が商品やサービスを購入することにより生じた支払義務であり、購入後、一定日後に支払われることを約束した金銭債務のことを言います。
一般に、企業が仕入れを行う際には、その支払として買掛金や支払手形を使って支払いを行います。この仕入債務は後日支払いを行わなければならない短期的な負債ということになるので、必ずキャッシュアウトフローを伴います。
そもそも、経営分析で言うところの「回転」とは、1つの資産や物などが一定期間に何回入れ替わっているかを示す言葉です。
たとえば、大学生は、留年しなければ4年間で1回転することになりますし、小学生であれば、6年で1回転することになります。これと同じように、仕入債務回転期間とは、仕入債務が一定期間に何回、あるいは、何日で入れ替わっているかを示していることになります。
回転の表示方法には、年間に投下資産の何倍の売上高をあげたかという回転率と、1回転するのにどれだけの期間がかかったかという回転期間、あるいは手許月数(資産または負債/月平均。◯ヶ月で表す)という表示法があります。
回転率と回転期間は、表示の方法が違うだけで、本質的には同じものであるものの計算する資産や負債の性質によって使い分けられています。使用資産や固定資産のように、回転率が低い項目については回転率、棚卸資産や売上債権といった流動資産のように回転率が高い項目については、回転期間を使うことが多いです。この意味では、仕入債務も回転率が高い傾向にあるので、仕入債務回転期間が使われることが多いです。
仕入債務回転期間は「仕入債務が発生してから、無くなるまでにかかっている時間」を表しています。負債である支払債務は、大きくなるほど将来的に資金繰りが苦しくなる可能性があります。
より多くの商品を仕入れるわけですから、仕入れに対して販売数が伸びなければ、代金を支払うためのキャッシュが手元に残りません。また、すでに資金繰りが苦しくなっていることを示す場合もあります。
仕入債務回転期間が長いほうが良いか、短いほうが良いのかについては、判断が難しい問題です。おたとえば、仕入債務回転期間が長くなっている場合には、ゆっくりと支払っている(支払いまでの期間が長い)ことになるので、キャッシュフローの観点からは有利であると判断することができます。
一方で、仕入債務回転期間が短い場合には、早く支払いを行うことによって値引きなどに結びつくこともあることから、資金繰りの面で有利となることも考えられます。
一般に、仕入債務回転期間は、売上債権回転期間や棚卸資産回転期間と連動性が高く、売上債権回転期間や棚卸資産回転期間が短い場合には、キャッシュフローの面で猶予ができるので、支払いを早くして値引きなどのメリットに結びつけている事例が多くなっています。さらに、仕入債務回転期間が長い場合には、支払いが遅れているということも考えられることから、どちらかといえば、仕入債務回転期間は短いほうが望ましいと考えられます。
さらに、仕入債務回転期間は、1ヶ月あたりの売上原価を分母とすることによって、「月数」で表すことも可能です。さらに、売上原価を仕入債務で割ることによって、仕入債務回転率を計算することも可能です。仕入債務回転率は高いほうが効率的に仕入債務の支払いを行うことができているということになります。
仕入債務は負債ですから、大きくなればそれだけ先々の資金繰りは苦しくなります。もちろんたくさん仕入れただけたくさん売れればよいのですが、販売が伸びなければ手元のキャッシュが減り、代金が払えなくなって、帳簿上は黒字なのに倒産してしまうということにもなりかねません。
事業の規模が拡大すれば売上高は伸びますが、同時に資産と負債の規模も大きくなっていきます。資金繰りを悪化させないためには、仕入債務が増えすぎないようにすることが必要です。仕入債務回転期間は、それをチェックするために必要な指標となるものです。
仕入回転期間は、現金商売や消費者相手の商売に比べて、卸売業や法人相手の商売の方が長くなる傾向にあるため、業種業態によって適正水準に差が生じやすいことから、業界平均との比較が極めて重要です。
仕入債務回転期間は、仕入時に発生した未払金を何日後に決済しているかを測定する財務指標ですから、仕入債務を1日あたりの売上原価で割ることによって計算することができます。また、回転期間を月数で知りたい場合は売上原価を365ではなく12で割ることで、月数ベースの仕入債務回転期間を算出することも可能です。仕入債務回転期間とは仕入債務と1日あたりの売上原価を比較し、未払いの代金が売上原価の何日分存在するかを測定します。
したがって、仕入債務回転期間は次のように計算します。
仕入債務回転期間=仕入債務÷(売上原価÷365)
仕入債務回転期間は、売上債権回転期間とは逆に、長いほど運転資金に余裕が生じることになります。なぜなら、仕入債務回転期間が長くなるほど、支払いまでに余裕ができるからです。
仕入債務回転期間の短期化は資金負担増加の一因となってしまうので、それだけを考えれば資金繰りの面で好ましくないと言えますが、仕入債務回転期間が長くなってきている企業は、支払いが遅れがちに成っている可能性もあるので注意が必要です。
企業の手持ちの資金(現金)が潤沢にある場合は大きな問題となりませんが、売上を回収するサイクルよりも、支払いを行うサイクルが短い場合は資金繰りに問題が出る可能性が高いです。売上の現金化よりも出て行く現金のサイクルが短いとなれば、資金繰りは徐々に厳しいものになっていきます。
仕入債務回転期間の方が、売上債権回転期間を比較して短い場合には、売上代金を回収するよりも前に、支払代金が企業から流出しているため、少なくとも、仕入債務回転期間の方を長くするように努めなければなりません。