売上債権回転期間とは、販売から売掛金や受取手形といった売上債権を回収するまでの期間のことを言います。企業が保有する売上債権がどれくらいの期間で回収できるかを計る尺度です。売上債権回転期間が短い場合は、一般的に売上債権が現金化できるまでの期間が短いため、資金繰りが健全的かつ効率的であると言えます。
売掛金や受取手形のような売上債権は、取引によって生じた未収額の債権のことです。そして、売上債権は、「相手との継続的な取引を前提とした、主な営業活動による債権の未回収代金」と定義されています。したがって、実際には売却代金や請負代金、あるいはサービス料金における未収金額を指すものです。未収金は将来回収しなければなりません。回収できなければ、企業から資金が流失したままの状態となってしまいます。そうなれば、企業の資金繰りを圧迫することになりますから企業にとって、売上債権の回収は極めて重要な意味を持っています。売上債権の回収期間が短ければ短いほど、商品などを販売してから資金を回収するまでの期間が短いことになり、それだけ効率的に資金を回収することができているというわけです。
売上債権回収期間は、回収サイトというように呼ばれることもあります。このサイトという言葉は、もともとは英語の為替手形に書いてある言葉です。為替手形というのは、誰かに対して誰かへの支払いをお願いするための手形です。この手形を見たらすぐに払ってくださいという条件のことを、一覧払と呼びます。ここで、見たらすぐというのは、英語で at sight と言います。一方、見てから30日後という場合には、 at 30 days after site と言います。日本語では、一覧後30日払いと言います。本来、サイトという意味は、その手形をみること(一覧)に由来します。見てから30日後のことを30日サイトというなど、日本でも徐々に言葉そのものが支払猶予期間を意味するようになってきています。本来、支払猶予期間は英語でusance(ユーザンス)と呼びますが、実務上はユーザンスのことをサイトというのが定着していることが多いようです。
回収サイトの計算式は以下のとおりです。
もし、表示単位を日数ではなく月数にしたい場合には、365の代わりに12を掛けることもできます。一般に、閏年や大の月、小の月を気にすることはしません。売上債権回転期間(回収サイト)は、日数表示のとき、売上債権回転日数と呼ばれ、月数表示のときには、売上債権回転月数と呼ばれます。
売上債権は、前期末と当期末の平均を使うこともあるものの、当期末の売上債権を使うこともあります。期中平均売上債権をを使うと、5年分のデータがあるときでも4年分しか計算することができないものの、当期末の売上債権を使うことによって5年分の計算ができるという利点があります。それに、2ヶ月くらいで回収しているときの前期の売上債権と当期の売上債権の平均が本当に1年間の売上に対応しているわけではありません。売上に上昇トレンドがある場合、期末売上高債権を使うと、回収サイトが過大評価となってしまうい、期中平均売上債権を使うと回収サイトが過少に評価されるなど、一長一短です。売上に下降トレンドがあるときは、期末売上債権を使うと回収サイトの過小評価になり、期中平均売上債権を使うと回収サイトの過大評価になってしまいます。
売上債権回転期間が短ければ、スムーズで健全な資金繰りが行われていることが分かります。逆に、同業他社や過去との比較から長期化の傾向が明らかになれば、その原因が経営を続けていくうえで許される範囲の長期化なのか、それとも早急な手立てを要する性質の経営課題なのかという検証を行う必要があることになります。
売上債権については、決算書には純額で計上されていることに注意しましょう。ここで純額とは、貸倒引当金を引いたあとの金額であるという意味と、手形の裏書額・割引額などの売上債権譲渡額を引いた後の金額であるという意味となります。
まず、貸倒引当金というのは、売上債権などの金銭債権(あとでお金を回収できる権利)に対して、お金を支払う人や会社が資金繰りにゆきづまって倒産したりして、お金を回収できなくなることを見越して、その回収不能額をあらかじめ費用としたとき、簿記の貸方に出てくる項目です。もちろん、売上債権を直接減額することもできますが、それでは売上債権の額面がわからなくなってしまうので、貸倒引当金という項目を入れることで回収可能額を明示するようにしているわけです。
資本回転率が、売上高/資本として計算されるのとちょうど同じように、各資産の回転状況を分析するためには、売上高/各資産の残高という計算を行えば良いということになります。
したがって、売上債権の回転率も売上高/売上債権で計算をすることができます。このうち、分子の売上高は損益計算書に明示されたとおりの数値を用いれば良いものの、分母の売上債権の残高については注意が必要です。
第1に、資本利益率の構成要素として資産の回転率が計算されているので、期首と期末の平均値を用いることになります。第2に、貸倒引当金を控除するか否かについては2通りの見解があり、分析する人の好みによって用いる数値が変わってきます。回収可能性を反映させた評価額こそが真の期末残高であると考える場合には、貸倒引当金は控除されることになります。他方で、不良債権が多いことを反映して設定された多額の貸倒引当金を控除すると、売上高/売上債権の残高という計算式の分母が小さくなる結果、回転率はかえって高めに算出されてしまう可能性があります。これは不良債権が多いという状況と矛盾した計算結果となってしまいます。第3に、受取手形のうち、銀行割引や裏書譲渡された部分は注記したうえで貸借対照表の表示額から控除されますが、これらの手形も未だに決済されていないことを踏まえると、残高に加算する必要があると考えることもできる。ただし、会計基準では、銀行割引や裏書譲渡された受取手形については、資産の譲渡による消滅として処理することになっています。
売上債権回転期間は、現金商売や消費者相手の商売に比べて、卸売業や法人相手の商売の方が長くなる傾向にあるため、業種業態によって適正水準に差が生じるのが普通です。一般に、小売業やサービス業など現金決済が多い業種ほど短い一方で、対企業取引が一般的である卸売業や製造業といった業種では掛金回転期間は長期化しやすい傾向にあります。
売掛金回転期間が同業他社平均より短ければ、順調な代金回収サイクルを回せているといえます。逆に平均から1ヶ月以上長い場合には、資金繰りに問題ありとして売掛金の管理や回収方法の見直しを迫られていると判断できるでしょう。
したがって、特定の業界の特定の企業と比較して売上債権回転期間が長いということは、それだけ売上債権の回収までに時間がかかっているということになります。一方で、売上債権回転期間が、特定の業界、特定の企業と比較して短いということであれば、それだけ売上債権の回収が早いということなるので、効率的に投下した資金を回収できていることを意味します。この意味では、売掛金回転期間を把握することで、企業の現状における債権回収時の課題を明らかにすることができます。