手形の一種である為替手形は3者が同時に関わることから複雑だと考えがちです。しかし、その仕組みは非常にシンプルで、取引先への代金の支払いに使われています。最近では、あまり使われることもなくなった為替手形ですが、どのように活用されているのでしょうか?この記事では為替手形についてわかりやすく解説します。
為替手形(かわせてがた)とは、手形作成者(振出人)が、第三者たる支払人(名宛人・引受人)に対して、手形に記載された金額を、受取人(指図人)に支払うことを依頼した手形のことを言います。
為替手形は、手形作成者(振出人)と支払人(名宛人・引受人)と受取人(指図人)の三者間の取引となるので複雑に見えますが、仕組みは非常にシンプルです。小切手と同様に、為替手形はお金に代わる働きをしています。難しい専門用語をまとめると次のようになります。
為替手形は、たとえば上記の振出人Aが名宛人Bに対する売掛金などの債権と、指図人Cに対する買掛金などの債務を同時に持っているような場合において、両者を相殺し、債権債務を決済しようとするときなどに振り出されます。
振出人Aが為替手形を振り出すことにより、Aは自己の持っている売掛金と買掛金などの債権債務が互いに相殺され、名宛人BはAに対する買掛金などの債務がなくなるかわりにCに対して手形債務を負い、CはAに対する売掛金などの債権がなくなるかわりにBに対する手形債権を得ることになります。
手形には、為替手形のほかに、約束手形があります。手形は、「いつ、いくらのお金を支払います」と約束する有価証券です。たとえば、物の売買を行った時に、買い手が売り手に対して手形を振り出して支払いを約束します。掛売りと違って、手形は約束の日には必ず支払わなければなりません。
約束手形は、一定の日に一定の場所で一定の金額を支払うために取り交わされる有価証券です。約束手形を振り出した人はお金を支払うことになるし、受け取った人はお金を受け取ることができます。
つまり、約束手形は必ず「自分」と「相手」の2者の間で現金や預金の授受が起こります。約束手形を振り出した場合、将来手形の代金を支払う義務が発生します。一方、約束手形を受け取った場合、将来手形の代金を受け取る権利が発生します。
手形に書かれた日付(決済期日)になったら、手形に書かれた金額が手形債務者の当座預金口座から引き出され、手形債権者の当座預金口座に振り込まれます。これを手形の決済と言います。手形の決済が行われると手形債務と手形債権が消滅します。
為替手形は、約束手形同様「何月に何日にいくら支払います」と約束する証書ですが、振出人と受取人の他に支払いを引き受けた人(支払人)が存在します。つまり、約束手形は「振出人=支払人」なのに対し、為替手形は「振出人≠支払人」ということです。
為替手形を発行する人は「○○さんにお金を支払って下さい」と、手形を受け取った人に指示するというものです。為替手形を発行する人は、支払を指示するだけで自分はお金を払いません。
たとえば、自社が得意先(売上の相手先)であるA社に対して10万円の売掛金を持っており、一方で仕入先(仕入の相手先)のB社に対して10万円の買掛金を負っているとします。この場合、通常は「A社から10万円を回収する」→「B社に10万円を支払う」というように別々に決済を行います。そこで、A社がB社に対して直接10万円を支払えば、一回で決済が終わります。そこに着目し、A社に対して、お金をB社に支払うように依頼するもの、それが為替手形です。
たとえば、2つ目の例として、仕入先に10,000円の買掛金があります。得意先に10,000円の売掛金があります。このような状況で「当社に売掛金を払う代わりに仕入先に支払ってください、それで当社への売掛金は払わなくて構いません」と得意先に断って了承を得たあとで(了承を得ることを引受を得るといいます)、得意先から仕入先に実際に支払ってもらいます。仕入先に対する買掛金を得意先に代わりに支払ってもらうと考えます。これで仕入先に対する買掛金も得意先に対する売掛金も解消できます。これが為替手形取引の基本的な考え方です。
なお、手形には、約束手形と為替手形があることは説明してきたとおりですが、一般に用いられているのは約束手形で、為替手形はあまり流通していません。そのため、日商簿記試験の2級(および3級)においては、手形の取引は約束手形のみとなり、為替手形の取引は出題されていません。
小切手は金融機関に持っていくといつでも換金してもらえますが、約束手形や為替手形は、支払期日が来ないと換金してもらえないという違いがあります。つまり、小切手は振り出す段階である程度の資金を用意しておかなければなりませんが、約束手形や為替手形は、支払いまでに一定期間の猶予があるわけです。
その分、手形を振り出す場合には、振り出す企業に一定の「信用」が必要となります。取引銀行に当座預金の開設が必要です。銀行は、売上の状況や財産の状況などの審査をして、口座開設を承認します。そのため、手形を振り出せること自体が、銀行のお墨付きを貰ったことになります。
企業が取引先への支払いに使う紙の手形については、経済産業省は2026年をめどに利用廃止を目指す方針が2021年2月に掲げられました。産業界にもこの方針を要請していくことを明言しています。通常、手形を発行した場合、売り手(受取人)が買い手(振出人)の経理部を訪問して手形を受け取ります。昔は、手形の量も多く、特に月末に地図を片手にあちこち集金して回っていました。
しかし、経済産業省は、今後、全国銀行協会も連携して銀行振り込みや電子記録債権(電子手形)への移行を促しています。電子記録債権への移行を促しているのは、為替手形が、一般に現金化まで数カ月かかるためです。
現金化までに時間がかかるということは、流動性が低い資産であるということになります。したがって、電子記録債権へ移行することで、少しでも流動性を高め、企業の資金繰りを改善する狙いがあります。受注側の中小企業の資金繰りを圧迫しがちな古い商慣行の改善に向けて動き出したかたちです。
為替手形とは振出人が受取人に対する支払いを引受人に委託するのが本来の使われ方です。しかし、現在の使われ方はほとんど振出人=受取人と引受人の二者間にて発生する取引に使用されています。昨今では、為替手形を見かけること自体が少なくなっていますが、業種的には化粧品、農業資材、医療品、関連業界では為替手形が今でも比較的よく使われています。
現代の社会において、為替手形はあまり流通していません。中小企業を中心に流通していますが、経済産業省としても、為替手形をはじめとして、約束手形についても利用を減らしていくことを目指しています。
したがって、将来的に為替手形のような手形は消滅していくものと考えることができます。手形取引は減少傾向にあり、なかなか目にする機会はないかもしれませんが、いつ為替手形の受取人になるかはわかりませんので、しっかり理解しておきましょう。
為替手形での取引は、振出人、名宛人、受取人という3者が同時に関与する経済的取引となるため、複雑になると考えがちです。しかし、専門用語はきちんと整理しておけば、為替手形の基本は容易に理解することができるはずです。まずはきちんと為替手形に関する専門用語と考え方を理解しましょう。