国家資格である社会保険労務士は、難易度が高い試験として知られています。試験は年に1回。2024年試験の合格率はわずか6.9%でした。1000人受験しても69人しか合格できないのです。この記事では、社労士試験について、試験概要からその難易度が高い理由、合格するメリットはあるのかなど、徹底解説します。
社労士試験の難易度を解説する前に、まずは社労士試験の全体観を把握していただければと思います。
社労士の試験は選択式試験と択一式試験に分かれており、どちらの試験も同日に行う形式となっています。選択式試験は5つの空欄があり、各空欄につき選択肢(20個又は4個)の中から正解と思われる番号を選択する形式、択一式試験は5つの選択肢から一つを選ぶ形式の試験であり、それぞれ下表のような科目および配点で実施されます。
出典:社会保険労務士試験の概要|社会保険労務士試験オフィシャルサイト
社労士試験の受験資格には以下の三点が該当し、いずれか一つでも満たしていれば受験することが可能です。
①学歴:学校教育法による大学、短期もしくは高等専門学校を卒業した者
②実務経験:3年以上の実務経験がある方
③厚生労働省の認めた国家資格を有している方
出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト│受験資格について
社労士試験は年に1回、例年8月に行われています。2024年の社労士試験は8月25日に実施されました。また、次回2025年については8月24日の実施が予定されています。
科目合格制などを採用していないため、1点でも合格に満たなかった場合は、翌年以降に初めから受験する必要があります。
社労士試験の難易度を見るのにあたり、まず重要なのは合格率および合格者数です。2023年までの10年間の合格者数と合格率の推移は、下表の通りでした。
年度 | 合格者数(名) | 合格率(%) |
---|---|---|
2023 | 2,720 | 6.4 |
2022 | 2,134 | 5.3 |
2021 | 2,937 | 7.9 |
2020 | 2,237 | 6.4 |
2019 | 2,525 | 6.6 |
2018 | 2,413 | 6.3 |
2017 | 2,613 | 6.8 |
2016 | 1,770 | 4.4 |
2015 | 1,051 | 2.6 |
2014 | 4,156 | 9.3 |
こちらを見ていただければ分かるように、合格率はかなり低くなっています。2014年実施の試験を除けば8%を超える合格率を記録しておらず、上記の受験資格を満たした方のみが受験していながら、かなり難易度の高い試験であるといえます。ただし、社労士試験は相対評価で合格率を調整しているため、社労士の難易度は依然として高く、10%を上回ることは基本的にありません。
8月25日に実施、10月2日に合格発表があった第56回(2024年)社会保険労務士試験ですが、合格者数は2,974名、合格率は6.9%でした。2015年からの10年間では最多の合格者数となりました。これは合格率の上昇に加え、継続的な受験者数の増加も影響していると考えられます。
合格者にどのような特徴があるかを見るにあたって、2024年実施の試験の年代別・男女別・職業別の合格者の分布をご紹介していきます。
合格者の年齢階層別の割合は以下の通りです。
30代は32.5%、40代は28.9%と、受験者の年齢は30~40代が中心となっていることが分かります。一方で60歳以上の合格者もおり、幅広い年齢層が受験していることも見て取れます。実際、2024年試験の合格者の最年少は20歳、最高齢は81歳でした。
合格者の男女別割合は以下の通りです。
まだまだ男性の割合の方が高いものの、他士業の試験に比べると女性比率が高めであるといえます。これは社労士が男女関係なく活躍できる環境であり、年収差なども無く働けることが影響していると見られています。
合格者の職業別割合は以下の通りです。
無職の合格者の割合が10.6%であることから、大多数の合格者が働きながら勉強していたということが分かります。もちろん仕事を辞めて試験勉強をすることが悪い手段というわけではありませんが、仕事をしながら合格したいという方にとっては後押しになり得るデータでしょう。
試験の合格率が低いからといって、受験生が軽はずみに合格を目指しているわけではありません。社労士試験に合格するために必要な勉強時間は1,000時間ほどと言われています。この数字は受験生の多くが認識していますので、結果的に不合格になってしまった人も含めて、受験生は1,000時間程度勉強していると考えられます。
このことからも、社労士試験の難易度が高いことがご理解いただけるでしょう。なお、社労士試験の勉強にかかる期間についての詳細や具体的な勉強方法については、以下の記事をご参照ください。
社労士試験の難易度の高さについては、代表的な2つの理由があります。
上述したように、社労士試験は選択式と択一式の試験を1日で行います。選択式試験は80分なので、大学入試センター試験の国語や外国語と同程度の試験時間です。しかし、択一式試験は210分(3時間半)で休憩はありません。
午前に試験を終え、さらに昼の休憩を挟み、午後にはより長い時間の試験をこなすという長丁場。集中力を持続させるというのは至難の業です。
さらに、試験範囲が広く問題数が多いのも、難易度の高さの原因となっています。試験概要の部分でもご紹介したように、様々な法律に関する問題が出題されるため、これらを取りこぼさないように全ての範囲の勉強をしておかないと、合格はかなり難しいでしょう。
例えば、簿記検定であれば1問を捨てても別の問いでカバーし、トータルで基準を満たせば合格できますが、社労士試験はそうはいきません。それぞれの問い別に合格基準が決まっているからです。
1科目だけでも合格基準を満たさない場合は、他の科目が全部満点でも合格できません。つまり、不得意分野を作ることができないのです。合格基準が厳しいことも難易度を押し上げています。
ここまで申し上げてきたように社労士試験はかなり難しいため、独学での合格する難易度も高いです。ただし、全く不可能というわけではなく、例年、合格者の1割程度が独学で勉強しての合格を勝ち取っているとされています。
ただここで注意すべきなのは、あくまで合格者の中の1割であるということです。2024年の社労士試験の合格率は6.9%なので、受験者全体の0.69%しか独学による合格者はいないということになります。
独学には、費用が最小限で済む、自分のペースで学習を進められるなどのメリットがあるものの、合格するためには勉強方法を明確に決めておくなどの準備が大切です。具体的な独学での勉強方法については、以下の記事をご参照ください。
社労士試験の社労士試験の合格ライン(合格基準)については、毎年一定ではなく変動しています。
しかし、国家資格であることから、国民に分かりやすい簡易なものとすることが望ましいということで、平成12年度(2000年度)より、下記の目安が示されています。
引用:厚生労働省 社会保険労務士試験の合格基準の考え方について
この目安を基準として、実際の合格ラインは変動します。
全体で7割以上得点であれば、不得意分野の問題を捨てることができますが、本試験では各出題科目において7割以上得点しなくてはいけません。前述の通り、不得意分野を作ることができないのです。
また、試験の水準を一定に保つため、各年度において総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うことになっています。
具体的に見てみましょう。
まず総得点の補正は前年度の平均点との差によって行われます。
ただし、あくまで合格率は10%が目安。補正した結果、合格率が高くなるような場合は、基準点は高いままとなります。
選択式試験、択一式試験それぞれの総得点について、前年度の平均点との差を少数第1位まで算出し、それを四捨五入し換算した点数に応じて前年度の合格基準点を上げ下げする(例えば、差が△1.4点なら1点下げ、+1.6点なら2点上げる。)。
※ 前年の平均点との差により合格基準点の上下を行うが、前年に下記③の補正があった場合は、③の補正が行われなかった直近の年度の平均点も考慮する。
上記①の補正により、合格基準点を上下させた際、四捨五入によって切り捨て又は繰り入れされた小数点第1位以下の端数については、平成13年度以降、累計し、±1点以上となった場合は、合格基準点に反映させる。ただし、これにより例年の合格率(平成12年度以後の平均合格率)との乖離が反映前よりも大きくなった場合は、この限りではない。
下記(2)の各科目の最低点引き下げを2科目以上行ったことにより、例年の合格率と比べ高くなるとき(概ね10%を目安)は、試験の水準維持を考慮し合格基準点を1点足し上げる。
各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。
ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。
ⅰ) 引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合
ⅱ) 引き下げ補正した合格基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合
出典:厚生労働省 社会保険労務士試験の合格基準の考え方について
つまり、社労士試験は、合格ラインギリギリの場合は運によって合否が決まってしまうのです。合格ラインを確実に突破するためには、全ての分野において合格ラインを上回る勉強をこなさなくてなりません。
「難しい」と思われるかもしれませんが、実際に私たちが社労士に相談することを考えてみたらどうでしょう。
「労務管理には詳しいけど、年金は苦手で……」こんな社労士に仕事をお願いしたいでしょうか。そう考えると、社労士試験の制度設計は、難易度が高いと言いますが信頼できる社会保険労務士を輩出することに役立っているのではないでしょうか。
社労士として社労士事務所や社労士法人で働く際、以下の業務に従事することが一般的です。
1.労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
2.申請書等の提出代行
3.申請等についての事務代理
4.都道府県労働局及び都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続の代理
5.都道府県労働局における男女雇用機会均等法、パート労働法及び育児・介護休業法の調停の手続の代理
6.個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理(紛争価額が120万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)
7.労務管理その他の労働及び社会保険に関する事項についての相談及び指導
出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト 社会保険労務士及び社会保険労務士法人の業務
このうち、1~3の業務(例えば、就業規則や社会保険の手続きなど)については、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ、報酬を得て、業として行ってはならず、これらをまとめて「独占業務」といいます。つまり、この社労士の独占業務が「社労士資格を取るとできる仕事」に該当します。
独占業務の中でも、就業規則や雇用契約書の作成を「1号業務」、社会保険などに関してハローワークや年金事務所などで行わなければならない書類手続きの代行を「2号業務」と言います。
また、4~6の業務については、社労士試験にプラスして「紛争解決手続代理業務試験」に合格し、社会保険労務士名簿への登録が必要です。
また、7.の仕事はいわゆる「人事コンサルタント」的な仕事。「3号業務」と呼ばれます。実は、人事における相談・指導については、社労士の独占業務ではありません。登録していない方でも行うことが可能です。
ただし、無資格で自身の経験のみの方や、民間資格のみの方より、国家資格である「社会保険労務士」資格がある方が信頼性が格段に高くなります。
そのため、社労士としての独占業務ではなく、コンサルティングや労務相談、執筆、講師業などをメインで行って高い報酬を得ている社会保険労務士の方も多いのです。
社労士試験を合格しただけでは、直ちに社労士を名乗ることはできないため、社労士としての登録をしなければなりません。
そのためには試験合格に加えて、以下の登録要件のいずれかを満たす必要があります。
なお実務経験に関しては、試験合格前に経験している場合についても対象です。
上記の登録要件を満たしたら、全国社会保険労務士会連合会(連合会)の社労士名簿に登録することができます。この手続きを済ませることによって、社労士資格の保有者を名乗ることができます。
社労士資格を目指そうと決心した理由は人それぞれですが、社労士業界でのキャリアアップを目的とする方が多いのではないでしょうか。ひとえにキャリアアップと言っても、勤務先でのポジションや役割を上げる、独立開業により経営者となる、転職で希望のポジションが与えられる職場で働くなど、様々です。
社労士有資格者のニーズは高いため、キャリアの選択肢は幅広くあります。ご希望に合ったキャリアパスを選んでいきましょう。
上記の選択肢の中で転職を選ぶ場合は、ぜひ士業・管理部門特化の転職エージェント「ヒュープロ」の活用をご検討ください。社労士を活かせる社労士事務所や社労士法人、さらに企業の労務職などの求人も多くお取り扱いしているため、ご希望条件にマッチした職場を効率的に見つけることが出来ます。さらに、業界特化ならではの視点で書類添削や面接対策を実施しておりますので、最短距離での内定獲得が実現できるでしょう。サービスは全て無料でご提供しておりますので、まずはご相談から、お待ちしております。
今回は、社労士試験の難易度の高さや、その高さの理由について解説しました。大方のイメージ通り、社労士は取得難易度の高い資格ですが、取得することでキャリアアップへの道は確実に開きます。
何度不合格になっても再挑戦できる試験なので、難易度の高さに挑戦しあぐねているという方は、ぜひ積極的に目指してみることをオススメします!