今年度の赤字を翌年度以降の所得金額から控除できる制度「繰越損失」。諸々の事情で赤字決算になってしまったら、せめて節税に努めるために活用したい制度です。しかし、繰越損失制度を活用するためには条件があります。本記事では条件も含め繰越損失について詳しく説明いたします。
繰越損失は、売上高よりもかかった経費などが多くなり、損失を出してしまい、他の所得区分の黒字と相殺する「損益通算」を行っても赤字が解消できなかった場合、翌年以降3年間の所得の金額から繰越控除を受けることができる制度です。
例えば、今期の赤字が100万円、所得が0円の場合、翌年にこの100万円の損失を繰り越し、100万円分の所得控除とすることができます。翌年20万円の所得を得た場合、ここから繰り越してきた100万円の損失を引いて、80万円をまたその翌年の所得控除とすることができます。さらに翌年、100万円の所得を得たとしても、繰り越してきた80万円の控除があるので、差し引いた20万円分を所得とすることになるのです。加えて、ここから青色申告特別控除の65万円を引くので、結果的にこの年も所得は0円になります。しかし、繰越損失をする場合は、65万円の青色申告特別控除も一緒に繰り越せるかというとそうではありません。青色申告特別控除を受けられるのは、あくまで当年の利益が生じている場合のみです。
このように繰越損失を上手に使うことで、節税することが可能です。しかしこの繰越損失には条件があります。
繰越損失は赤字であれば何でも繰り越せるというわけではなく、以下の条件を満たす必要があります。
所得税法では、「損益通算の結果残った赤字、すなわち純損失の金額は、青色申告をしている年分の純損失に限り、翌年以降3年間の所得の金額から繰越控除を受けることができる」(所得税法70条より)と定められています。
つまり、青色申告を導入していることが、繰越損失のための大前提です。青色申告を行う場合は、申告を行う年の3月15日まで、新たに事業をはじめた場合は2か月以内に「所得税の青色申告承認申請手続」を所轄の税務署に提出しておく必要があります。青色申告を行うことができるのは、「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の3種類のいずれかを得ている個人事業主になります。
会社員の給与所得は青色申告できませんが、この3つのいずれかの所得を副業として得ているようであれば、個人事業主の開業届を行い、青色申告承認申請手続きを行うことで青色申告も可能です。
なお、株の売買や配当金などによる所得は譲渡所得となるので、青色申告の対象にはなりません。
青色申告をしていない場合は白色申告になります。
白色申告の場合であっても、赤字についての損益通算(他の事業の利益分を損失で控除すること)は可能です。
また、白色申告であっても、以下の場合については損失の繰越が認められています。
もちろんこちらの災害による損失については、青色申告でも控除を行うことが可能です。ただし、いずれも保険金や賠償金で損失が補てんされた金額分は控除額から差し引きます。あくまで実際の損失分のみの控除となる点に注意してください。
所属税の確定申告書について、損益通算および繰越損失の控除を行う場合、国税庁のWEBサイトに記入例がケースごとに記載されているのでそちらを参照してみてください。
参照:国税庁HP
なお、損益通算や繰越控除については、災害や社会情勢による特例措置が実施されることもあります。
例えば、令和元年の年末まで適用される「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」では、マイホームを年末までに売却し、新たに新居を購入した場合に譲渡損失が生じたものは、その分を給与所得や事業所得などの他の所得から損益通算することができ、さらにそれでも向上しきれなかった損失は翌年3年内に繰越控除できる特例措置が行われています。
そのため、実際の記載方法や、損益通算・繰越控除の可否判断や申告については、税理士など専門家に確認することをおすすめします。