源泉徴収とは、「本人の代わりに給料や報酬を支払う相手に所得税の計算・納税を代行してもらうこと」です。会社員など毎月給与を得ている人にとっては身近な税金の納付方法・徴収方法でしょう。これによって、所得税の申告漏れ・納税忘れを防ぐことができます。
そこで、今回は、源泉徴収とはどのような制度なのか、また、具体的にどのような計算方法で所得税額が算出されるかなどについてわかりやすく解説します。あわせて、源泉徴収などの給与計算を担当する経理担当者に役立つ仕訳方法も紹介するので、最後までご一読ください。
源泉徴収とは、年間の所得にかかる所得税を事業者があらかじめ差し引いておくことです。本来従業員が自分で支払うべき所得税を事業主が代わりに納税するというシステム・流れとなっています。
たとえば、会社が従業員を雇っている場合には、給与を支払うタイミングで源泉徴収を行うため、従業員の手元に入ってくる手取り給与額は「すでに所得税が支払われた状態」となっています。
また、会社員が受け取る給与以外の場面でも源泉徴収が必要となる場面があります。たとえば、原稿料や講演料、税理士や弁護士など士業への報酬の支払いなどが該当します。ただし、弁護士・税理士などに対する報酬支払い時に源泉徴収が必要なのは「個人事業主」として仕事をしている場合だけ。「弁護士法人」「税理士法人」として仕事をしている場合には事業者間取引になるため源泉徴収は不要です。は個人事業主として事業をされている場合に限ります。
なお、源泉徴収の対象となる報酬・料金については、「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」(国税庁HP)をご確認ください。たとえば、外部業者に支払う報酬については、「外注費」でまとめて源泉徴収していない方も多いかもしれませんが、税務調査にて税務署に「給与」と認定された場合には、消費税や源泉所得税の税金の他に、罰則として加算税や延滞税などを課される場合があるので注意が必要です。つまり、このケースでは源泉徴収義務が課されているともいえるでしょう。
従業員は事業者による源泉徴収があるので、基本的には自身で確定申告を行う必要はありません(副業などで本業以外の収入を得ている場合には確定申告が必要なケースがあります)。つまり、朝から晩まで働いている従業員がわざわざ納税手続きをせずに済むというメリットが得られます。
また、源泉徴収制度を採用することは国にとってもメリットが大きいもの。たとえば、確定申告に係る業務を軽減できるほか、給与から安定して税金を徴収できるシステムになっているためにコスト削減に役立つと考えられます。
源泉徴収は所得税の前払制度。1月から11月まで概算に基づく所得税額が源泉徴収されるために、本来の納税額と齟齬が生じるケースがほとんどです。つまり、12月の段階で本来の納税額とのズレを埋め合わせる必要が生じます。この作業が「年末調整」です。これによって、個々人がそれぞれの収入に応じて平等に税負担をすることになります。
たとえば、多くの人が加入している生命保険料・社会保険料の支払いは課税対象額から控除できるため、「源泉徴収され過ぎている」という事態が生じます。「年末調整でお金が戻ってくる」というのはこれが原因です。還付業務の仕訳では、「預り金/給与」という給与計上の仕訳とは逆の仕訳をきります。その一方で、充分な金額を源泉徴収できていないケースでは、年末調整で追加徴収が発生することに。この場合の仕訳は、「給与/預り金」の仕訳をきります。どちらの場合も、調整する相手は「給与」となります。
それでは、源泉徴収の実際の流れ・事務手続きについて具体的に見ていきましょう。
会社や個人が新たに給与の支払いを開始して源泉徴収義務者となる場合には、「給与支払事務所等の開設届出書」を、給与支払事務所等を開設してから1か月以内に税務署に提出することになっています。
そして、給与所得者側は、その年の最初の給与を受ける日の前日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を支払側に提出しなければいけません。これは扶養控除がない人でも必ず提出が必要な書類です。
源泉徴収額を決定する場合には、給与所得者とそれ以外とで扱いが異なります。
毎月の給料から源泉所得税が天引きされる場合には、毎年年末に国税庁より発表される「源泉徴収税額表」により納付額が決まります(参照:令和3年分 源泉徴収税額表(国税庁HP))。税額表に給与の額をあてはめて該当する金額を給与から控除します。決め方は以下の通りとなります。
つまり、「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」「扶養親族等の数」の2つの情報がわかったら、源泉徴収税額表にそれぞれの数字を当てはめれば源泉徴収額を算出できます。
例えば、世帯構成人数が「奥さん・長男(16歳)・次男(15歳)・三男(14歳)」の合計4人の場合、奥さんと長男が扶養親族に該当するので「扶養親族等は2人」と分かります。そして、次のような人の場合、源泉所得税の金額はいくらになるかを考えてみましょう。
この人の場合、以下のように源泉所得税の金額は「1,320円」となります。
・その月の社会保険料等控除後の給与等の金額:193,305円
・扶養親族等の数:2名(奥さんと16歳の子供1人)
・源泉所得税の金額:1,320円
以上のように、源泉所得税の金額は、お給料が高く、親族が少ない人ほどたくさん徴収される仕組みとなっています。
上述のように、源泉所得税は、個人事業主として活動している自営業者も徴収されることがあります。ただし、報酬から源泉所得税を徴収されるかどうかは、その人が営んでいる事業の種類によって異なるもの。具体的には、以下のようなかたちで報酬を受け取っている個人事業主は、得意先から報酬を受け取るときには源泉所得税を徴収してもらう必要があります。
参照:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(国税庁HP)
これらのかたちで受け取った報酬からは、以下の計算式で計算した金額の源泉所得税が徴収されることになります。
なお、この場合の「報酬金額」とは消費税を含まない金額です。例えば、講演料として180万円を受け取ったとすると、以下のように請求書を作成すると良いでしょう。
源泉徴収義務者である会社は所定の方法で源泉所得税を納付しなければいけません。源泉徴収の納付方法は、毎月従業員の人数分をまとめて納付するか、納期特例制度で半年ごとに納付をするかの2択です。従業員数が常時10名未満の場合には納期特例制度を活用できます。
源泉所得税は、毎月納付の場合は支給月の翌10日までに、納期特例を採用している場合は1月から6月分を7月10日までに、7月から12月分までを翌1月20日までに納付します。毎月納付と特例納付で納付書の種類は分かれており、この納付書のことを「所得税徴収高計算書」といいます。特例で使用できるものは左下に縦で「納期特例分」の記載があるので判別可能です。
源泉徴収業務が終了した段階で終わり、というわけではありません。源泉徴収に係る以下の申告書については、申告書等の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存する必要があります。
これらの書類は従業員の個人情報を含みますので、鍵のかかる場所に保管し、税務署から提出を求められた際にはすぐに取り出せるようにファイリングしておきましょう。
源泉徴収は給与を受け取る側としても重要なことですが、経理業務に携わるという意味でも見逃せないものです。なぜなら、経理担当者はかならず給与計算業務に従事することになるため、今後のキャリアアップを考えると、事務手続きや仕訳方法についてのスキルを身に付けておくべきものだからです。
そこで、実際に経理が実務で源泉徴収の会計処理を行うとどうなるのか仕訳で考えてみます。なお、ここでは便宜上、交通費の支払はなく20日締めの給与を同月末日に支給するものとします。
①20日に給与の計算が完了し、計上する(例えば額面25万円・甲欄適用・扶養親族無し・大阪府の協会健保に加入)
預り金で処理している社会保険料は、実務上「法定福利費」として処理されることが多いのですが、今回は自己負担額とわかりやすいように預り金で処理をします。
②末日(支給日)到来
③翌月10日なり源泉所得税を納付
源泉所得税は、実際に給与を支給するタイミングで発生する預り金ですので、社会保険料のように、仕訳上先に預かることはしません。
仕事をしてお金を稼ぐ以上、税金は常に身近な存在となります。特に、今回紹介した源泉徴収は「所得税」という重要課税項目に直結する手続きなので、給与を受け取る側・給与計算をする人はしっかりと理屈・手続きの流れを把握しておかなければいけません。
また、今後は幅広い業種で副業解禁の流れが進んでいくため、正社員として毎月給与を得ている人でも、自分で事業を拡大するにしたがって納税業務にも触れなければいけないこともあるはずです。納税事務に間違いが生じると修正等の手間がかかるので、これを機会にしっかりと源泉徴収・所得税に対する理解を深めましょう。
その他、源泉徴収については以下のコラムでも詳しく解説をしています。あわせてご一読ください。
関連記事:押さえておきたい経理事務!源泉徴収の「納期の特例」について
関連記事:源泉徴収義務者の意味とは?個人事業主で給与支払いなしの場合は?