この記事では、給与や報酬を支払ったときに、所得税の源泉徴収を行う義務がある「源泉徴収義務者」の意味について解説いたします。
結論から言うと、従業員のいないごく小規模な個人事業主の方を除いて、日本国内で活動しているほとんどの事業者は源泉徴収義務者に該当すると言えます。
源泉徴収義務者が源泉徴収の義務を怠った場合に生じるリスクやペナルティについても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
源泉徴収義務者とは、他人に対してお金を払う際に、その相手が納めるべき所得税を天引きして、税務署に代わりに納めてあげる義務がある人のことをいいます。
自営業として仕事をしている個人事業主の方や、株式会社などの法人企業は、ほとんどのケースで源泉徴収義務者として扱われます。
例えば、従業員を雇用してお給料を支払った場合には、その人のお給料から源泉所得税を天引きして、翌月の10日までに税務署に納めなくてはなりません。
また、外部の人に外注費や顧問料として報酬を支払った場合も同様です。
この人たちに対して支払うお金から「源泉所得税」を天引きし、その人たちの代わりに税務署に納めなくてはなりません。
一方で、自営業者であっても例外的に源泉徴収義務者として扱われない人もいます。
給与について例外的に源泉徴収義務者とならないのは、常時2名以下のお手伝いさん(家事使用人)などを雇っている人です。
家事使用人に対して支払ったお給料からは源泉所得税を徴収する必要がないとされています。
ただし、家族従業員であったとしても、青色事業専従者給与として税務署に対して届け出を行っている人への給与については、源泉徴収が必要となるので注意しておきましょう。
また、従業員がまったくおらず、給与支払いのない個人事業主の方も、源泉徴収義務者とはなりません。
この場合、給与だけでなく報酬(外注費や顧問料など)を支払った場合にも、源泉所得税を徴収する必要がありません。
なお、このような扱いになるのは個人事業主として活動している人だけです。
事業を法人化している場合には必ず源泉徴収義務者となりますので、注意しておきましょう。
これは、一人会社などの形で実質的には個人事業と同じ規模で活動している人であっても同様です。
事業を法人化している場合は、社長自身が会社から受け取る役員報酬についても、源泉徴収をして翌月10日までに税務署に納付する義務があります。
支払いをした相手が、株式会社などの法人組織である場合には、源泉徴収を行う必要はありません。
源泉徴収をしなくてはならないのは、支払いをした外部の人が個人である場合だけです。
例えば、支払いをした相手が法人として活動している事業者である場合には、あなたが源泉徴収義務者であったとしても、源泉徴収を行う必要はありません。
外部への支払いを行う際には業務委託契約書などを交わすのが一般的ですが、その際に相手の名義に「株式会社」「合同会社」などの法人名義になっていないかどうか確認するようにしましょう。
より確実に取引相手の名義を確認するためには、取引相手に対して報酬を支払う振込先銀行の名義を確認しましょう。
法人名義で開設されている銀行口座には、「(カ)」「(ド)」などの形で必ず法人名義であることを示す文字列が表示されています。
この場合、(カ)は株式会社、(ド)は合同会社であることを表しています。
これらの表記がある相手に対して報酬を支払う場合には、源泉徴収を行う義務はありません。
源泉徴収義務者が源泉徴収を行わずに給与や報酬の支払いをした場合にはどうなるでしょうか。
支払った相手の人が本来は納めないといけない所得税を納税しなかったときには、源泉徴収義務者に対して税務調査が来ることがあります。
最終的に所得税の納税を行うのは給与や報酬を受け取った人であることには変わりはないのですが、源泉徴収義務者は「源泉徴収の義務を怠った」ということで、立替払いを義務付けられてしまう可能性があります。
最終的に所得税を納めるのは納税者本人ではありますが、その人にお金がまったくない場合には、立替払いしたお金を回収できないリスクが生じます。
また、本来納める所得税(本税)の他に、ペナルティとして府納付加算税という追徴課税を課せられてしまうこともあります。
不納付加算税の税率は10%です。
例えば、本来10万円の源泉所得税を納めなくてはならない源泉徴収義務者が、源泉徴収を行わないまま税務調査が行われたような場合には、10万円に10%の不納付加算税をプラスして11万円の納税が必要になります。
今回は、外部の人に対してお金を支払ったときに、源泉所得税を徴収して税務署に対して納める義務がある「源泉徴収義務者」の意味について解説いたしました。
源泉徴収義務者に該当する人が、源泉徴収を行わずに外部へ給与や報酬を支払った場合には、外部の人が納めるべき所得税を立替払いさせられたり、不納付加算税などのペナルティを課せられたりする危険があります。
源泉徴収の計算を面倒に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、無用な税金の負担を生じさせないためにも、支払いのたびに適切に源泉徴収を行うようにしましょう。