売上原価とは、ある一定の期間に販売した商品・製品について、その仕入・生産活動に要した費用(原価)のことを言います。言葉の定義は簡単ですが、これを正確に計算するのは容易ではありません。この記事では、売上原価という言葉の意味とその計算方法について詳しく解説していきます。
売上原価とは、ある一定の期間に販売した商品・製品について、その仕入・生産活動に要した費用(原価)のことを言います。
たとえば、商業を営む企業の場合、完成している商品を仕入れて、その商品を販売します。ここで100円で仕入れてきた商品を200円で販売した場合、200円を「販売価格」、100円を「売上原価」もしくは「取得原価」と呼びます。さらに、100円の商品を仕入れるとき配送料がかかることがあります。20円の配送料がかかったとすると、この20円の配送料も売上原価(取得原価)に含めて、先の(100円+20円=120円)を売上原価(取得原価)として計算します。
完成品を仕入れて販売することを生業とする企業に対して、原材料などを仕入れてそれを加工し、製品を製造している企業もあります。こうした企業は、一般に製造業(メーカー)と呼ばれています。製造業を営む企業は、商業を営む企業とは異なり、製品そのものを作っています。
製品を作るためには、材料を仕入れなければなりません。それを加工するために製造設備が必要です。さらに、製造設備を操作する人を雇わなければならないので人件費もかかることになります。こうした様々な費用の犠牲があって、はじめて製品をつくることができます。製品を作るために犠牲にした費用を総合したものが「売上原価」です。
たとえば、ある製品を作るために、材料Aで100円、材料Bで200円、製造設備を稼働させるための費用(水道光熱費など)として10円、製造設備を利用して製品を作るために雇った人に支払う給与(人件費)が50円だった場合、売上原価は100円+200円+10円+50円で360円となります。
このように、売上原価は商業を営む企業なのか、製造業を営む企業なのかによって、計算の仕方が異なります。次の節では、それぞれの計算方法について詳しく解説していきます。
なお、会計学では、完成品を仕入れたものは「商品」、原材料などを仕入れて加工したものは「製品」と呼んで区別します。
一般に、商業を営んでいる企業は完成品を商品として仕入れるので、その取得原価は仕入代金からただちに計算することができます。100円の完成品を仕入れて、それに伴う付随費用(配送料など)として20円かかった場合、120円が売上原価となりますから、仕入価格と付随費用の価格がわかれば比較的簡単に売上原価を計算することができるというわけです。
ただし、通常の経営活動では、売れ残り在庫が発生します。ある事業年度に仕入れた商品のすべてが、その年度中に売れるとは限りません。また、前年度の売れ残りを当期中に売ることもあるはずです。そのため、売上原価を求めるには、前期末から残っている在庫の金額(期首商品棚卸高)に、当期中に仕入れ・製造をした商品の費用(当期商品仕入高)を加え、そこから期末に売れ残った在庫の金額(期末商品棚卸高)を引く必要があります。
まとめると、売上原価は下記の方法で計算することとなります。
売上原価=前期末の在庫価額+当期に仕入れた価額-当期末の在庫価額
つまり、当期に所有した商品、当期に製造した製品にかかる費用全額から、期末に残った在庫の価額を差し引いて計算することになります。たとえば、前期末の在庫はなく、当期に、90円で100個、100円で100個、95円で100個の商品を仕入れたと考えます。
そのうち、当期に売れ残った在庫が100個あった場合、最後に仕入れた価額95円で、当期末の在庫を計算したとします。その場合、 当期に仕入れた価額=90円×100個+100円×100個+95円×100個=28,500円 当期末の在庫の価額=95円×100個=9,500円 売上原価=28,500円-9,500円=19,000円と売上原価を計算することができます。
これに対して、製造業(メーカー)は、仕入れた原材料にさまざまなコストを投入して加工し、製品を完成させます。したがって、製造業の企業が製品の取得原価を決定するには、製品の完成までにかかったコストを集計して、完成品1個当たりの原価を計算しなければなりません。
この手続きは、一般に、原価計算と呼ばれています。企業が原価計算を行なう際には、一定のルールに基づいて原価を計算しなければなりません。そうでなければ、他の企業と原価について比較することができなくなってしまうからです。守らなければならないルールとして、企業会計審議会が公表している「原価計算基準」があります。
原価計算の代表的な形態としては、実際原価計算、標準原価計算、直接原価計算という3つの計算方法があります。実際原価計算は、財貨やサービスの実際消費量と、実際の取得価格を用いて製品の原価を計算する方法を言います。
また、標準原価計算は、財貨やサービスの消費量を科学的・統計的調査に基づいて能率の尺度となるように設定し、これに予定価格または正常価格を用いて、製品の原価を計算する方法です。さらに、直接原価計算は、製造を要する諸費用を、生産量に比例して発生する変動費と、生産量が変化しても発生額が変化しない固定費に分類して、変動費だけを用いて製品の原価を計算する方法を言います。
この方法のうち、財務諸表を作成するにあたって、製品などの取得原価として採用することが認められているのは、実際原価計算または標準原価計算によって算定された製品単位当たりの原価数値です。直接原価計算における製品単位あたりの原価は固定費を含まないことから、財務諸表の作成にあたって採用することができる適切な取得原価として認められていません。
売上原価の具体的な手続きは、企業の実情によって多様です。しかし、単一の製品だけを見込み生産する場合の実際原価計算において、必要最小限の手続きは次の3段階から成っています。
まず第1に、生産に要する費用を材料費・労務費・経費に分けて把握します。各区分に含められる具体的な製造費用には材料費として素材費、買入部品費、燃料費、工場消耗品費などを挙げることができます。労務費としては、賃金給料、福利費、賞与、退職給付引当金繰入額などを挙げることができます。経費としては、減価償却費、外注加工費、電気・ガス・水道料、工場保険料、修繕費などを挙げることができます。
次に、当期総製造費用を期首の未完成品の金額と合算のうえで、その合計額を、期末までに完成部分と未完成部分に配分します。そして最後に、完成品に配分された当期製品製造原価を、完成品の数量で除した値が、製品単位あたりの取得原価となります。この取得原価はその製品が販売されたときに売上原価となり、売上高と対比するかたちで損益計算書に計上されます。期末に売れ残っている部分については、貸借対照表に流動資産として記載します。
売上原価とは、販売した商品や製品などの原価であり、売上高に直接対応する費用のことを言います。この売上原価が適切に把握されていないと、売上高から売上原価を引いて計算する売上総利益(粗利)を計算することができません。
企業が本業でいくら稼いだかを示すのが売上高でその売上高を達成するために犠牲にした費用が売上原価であるので、売上総利益を適切に計算できないということは、本業でどれくらい儲かったかを計算することができないということです。
また、原価管理や商品・製品の値付けをはじめ企業経営に重大な支障をきたすことになります。こうした意味で、特に、売上原価の計算は製造業において重要な意味を持っています。